大和のポテンシャル
取り敢えずサイクリード編まで進めます!
全ての計測が終了し、結果が発表されるまでしばらく待機するよう言われた。
「ねえねえ、刀鞘君」
いきなり見知らぬ女の子に話しかけられる。
「なんだ?」
俺は疑問に思いながらも返事をする。
「あ、私同じクラスの三船っていうだけど、ちょっと聞きたいことあるから聞いてもいいかな?」
「うーん…いいぜ」
多分、学園に転校してきたことが聞きたいのだろう。ほんとはあまり言いたくはないんだが、わざわざ話しかけてくれたのだ。
少し迷ったがぞんざいに扱うわけにはいかない。もし聞かれたらちゃんと答えよう。
「ほんとに!?ありがとう!じゃあ率直に聞くけど、なんでこんな時期に転校してきたの?怪我とか?
もしかして『武隊』に入ってたの!?」
武隊とは『扉』から現れる魔物を、武力で制圧したり、捕縛するための機関である。
主なメンバーは全員、優秀な成績をもつ才能を持つ者だ。歴然の有名な武装を扱う者はここに所属している。学生にとっては憧れの的であるため、三年間の学園生活を終えるとここに入りたいと願うものがほとんどだ。
しかし、全員が入れるわけではない。半数近くはサポーターとしての道を通る。そのため武隊に所属してるということはかなり凄いことだ。高校生の段階で入ってるものはほとんどいない。
「違う違う!俺は事故の影響で三年間ほど入院生活を送ってたんだ!」
『武隊』の声に反応したものに勘違いされないためにわざと大きな声で否定する。
「三年間…。十二歳のころから入院してたんだね。じゃあ違うかあ。ちょっと残念だなあ」
三船さんは笑いながら勘違いしてたことに照れる
高校生の段階で武隊に所属するものは少なからずいるが、中学生と呼ばれる年齢の時に所属したものは過去一人としていないのだ。
「そうだ。それに事故の影響で昔の記憶がほとんど思い出せないんだ。断片的には思い出すんだがな」
「そうなんだ…なんだかごめんね。
嫌なこと思い出すような事聞いて」
悲しそうな顔でこちらを見てくる。
「別に俺は今を楽しむつもりだから気にしてないぞ。 そんなことよりこれから仲良くしてくれると助かる」
できるだけ優しそうな顔でお願いする。
「わかった!お礼ってわけじゃないけど、学園の事で聞きたいことあったらなんでも聞いて!」
「ああ、頼りにしてるぜ」
そして、お互いに手を振って別れる。
こんな調子でクラスメートと仲良くなっていこう。
「集合!体力テストの結果を報告する!」
三船と別れてすぐに担任の酒見先生の声が聞こえてきたので、俺のクラスは先生の方へ集まっていく。
「んじゃあ俺も行きますかね」
俺も先生の方へ歩いていく。
「分かってると思うがそれぞれの総合の成績だけ報告するぞ」
成績はS、A、B、C、Dで付けられる。
Sが最も成績が良く、Dが最も悪い。
Dが付くのはほとんどありえない。Sなんてそれ以上に少ない。少ないよりいないといった方が正しいのかもしれない。何故ならSが付くとは全ての計測において、オールSを取らないと総合成績でSは付かない。
つまり、優秀な者はAそれ以外はB、Cといったところだ。Aを付けられるだけで結構凄いことらしい。
「では、出席順に伝えるぞ!
一番、安部!総合成績B!」
「しゃあ!去年より上がってるぜ!」
安部と呼ばれた男は物凄く喜んでいた。
「………………」
酒見先生はどんどん名前と総合成績を伝えていく。
呼ばれた生徒の反応は喜ぶ者、落ち込む者、表情を変えない者とさまざまだった。
総合成績もBやCばかりだ。
「結構厳しいんだな」
「21番!刀鞘!」
とうとう俺の番が来た。転校生ということでクラスメートは興味があるのか、静かに次の言葉を待っていた。
「総合成績……Sだ」
「……へ?」
俺は間抜けな声が出てしまった。
「「「「「ええええええぇぇぇぇぇ!!」」」」
クラスメートの声は体育館の中にこだました。
クラスメートがザワザワと喧騒が鳴りやまずにいると
「静かにせんか!」
酒見先生の一言で押し黙るクラスメート。
「全く…おい刀鞘」
先生が声を掛けてくる。
「あ、はい。なんすか?」
少し呆けていたが名前を呼ばれ、正気に戻る。
「…お前は何者だ?」
「…え?どういう事ですか?」
質問の意図が分からなかった。
「…通常、どんなに身体能力が優れているものでも成績はAどまりだ。
三年生でもSなんて成績を出すのは一人や二人が限界だ。
それを三年間も病院生活をしてた貴様がこの結果を出すのは明らかに不自然だ」
この帝竜学園は二年生から月に一度、『現場』に足を運びサポートを行うことがある。
『現場』とは魔物の被害に遭ってる場所を指している。
つまり、二年生の一年間で多くの事を学ぶため身体能力が上昇するものがいるのだ。
それでも体力テストでSを出すものはほとんどいない。
Sを獲るには血の滲にじむ努力が必要なのである。
しかし、この男、刀鞘大和
はそれを嘲笑うかのように易々とSと取ってしまった。
「もう一度聞くぞ。…何者だ?」
「あの、俺は本当にそんな大した奴じゃないですって。病院生活の中ですることがなかったから、体を鍛えるしかなかったんです。
だからその後遺症みたいなもんじゃないですか?」
俺は何事もないように返事を返す。
「ま、まあ三年間鍛えたらSも取れる…かな?」
「そ、そうだよ…ね?」
「だ、だな」
クラスメートは皆それぞれの結論にたどり着く。
「……まあいい。では、総合成績の報告を再開する」
体力テストで総合成績Sを取るのがいかに難しいかは、酒見先生はよく知っていた。知っていたからこそ、この男、刀鞘大和が只者ただもの
ではないと気づいたがあまりにも情報が少ないため、今は考えないことにした。
「……………」
そして刀鞘大和に何かを感じ取ったものが、もう一人。
「まさか総合成績Sを取るなんて、ビックリだな」
そんなことは露知らず当の本人は呑気な顔をしていた。