プロローグ
この世界で唯一の大地、ユイツ大陸。
北は寒く、西は乾き、南は湿る。
北には雪と氷におおわれた山々が連なり、海岸沿いに行く以外では、北側外周に点在するなにもないような村々へはたどり着けなくなっている。わざわざ行くような奇特な者がいるかも怪しいところではあるが。
この山々――ツララナリ山脈によって、大陸は南北に分断されている。
山脈のほぼ中央には大氷河があり、これに沿って山越えをするのが内陸から北側へ行く一番マシなルートではあるが、マトモなルートではない。
それよりも氷河を源流とする大河に沿って進み、大の南海岸まで行ってから、やはり船で迂回して北に向かう方がよっぽど安全だ。
この大河――タテニワリ河によって、大陸は東西にも分断されている。
つまりユイツは、その広い大地を自然によって『丁』字に分けられていることになる。
大陸のほぼ中心には、とある国がある。
その国の昔の王様は考えた。
『我が国がこの大陸の中心にあるただ『一』つの国である。故に、この国には大陸の『全』てが集まるべきである』
本当にそう考えたかどうか、実のところ残された記録の真偽は怪しまれているが、それでも王様によって世界が動かされたのは真である。
国の東西から、大陸の東端、西端までをぶち抜く長大な街道――『千年石道』によって、この大陸は人工的にも南北に分けられている。
大陸を簡単な図にするならば、○を書いて『千』を書き加えるのが一般的である。
そんな大陸の、石道の、極東の、少し手前に――
一人、朝日に向かって立つ者がいた。
「……夜明けです」
『うむ』
「行きましょう――『魔剣様』」
『ああ、そうしよう』
物語の始まりは、つい昨日の事である。