次期女王
授業で宝術師について学んだことにより、ついでに現在の我が国の状況や、各国の情勢についてある程度理解した。
ディセンシア王国を囲むように、4つの大陸がある。
北の大陸 ミルトニア王国
南の大陸 バンクシア王国
西の大陸 サイネリア王国
東の大陸 アルメリア王国
それぞれはディセンシア王国と繋がっているが、4つの大陸同士は海によって分断されている。
この5つの大陸のトップ…元の世界で言うアメリカの様な存在は、ディセンシア王国らしいが、近年ディセンシア王国は衰退の一途をたどっており、他の4つの大陸にジリジリと追い詰められているらしい。
原因の大部分は、宝術師が数百年現れていないからだ。
まずこの宝術師という存在は、どの国でも特別で重要な存在らしい。
その為少しでも力が感じられる者は、特別待遇として、王宮に迎え入れたり、王宮からの支援で学園で学ばせたりもろもろ特別待遇を受けるそうだ。
ディセンシア王国もかつては大陸の名に相応しく、力のある宝術師が存在していたそうだが、今や見る影もない。
つまりディセンシア王国は、窮地に陥っているらしい。
…ここまで全て他人事だ。
「ロード様には、次期女王として、つきましてはディセンシアの没落を防ぐべく、並々ならぬ努力をして頂かなければありません。
その為肉体的、精神的な充実を感じられてからは、本格的に王位を継ぐ勉学に励んで頂きます。
今のところはまだ見過ごしますが、将来的にはお嬢様が普段されている、その、修行とやらは、控えてもらいます。」
な、なんですと…!?
「ちなみに拒否は…?」
「拒否!?」
側に控えていたアザレアが大声を出した。
「…拒否は出来ません。
というより歴史上拒否された前例はございません。
お嬢様ぐらいです、そんな事を仰ったのは。」
淡々と告げられる事実に目の前が真っ白になる。
つまりこのまま行くと、ある程度動けるようになってからは、内政をすることになり、部屋に缶詰ということか。
どうすればいいんだ…
日課の寝る前の腹筋50回をこなす。
はじめは一回も出来なかったが、今では最高50回まで出来るようになった。
たった一ヶ月程だが、見る見るうちに成長していくこの身体に、少しずつだが愛着が沸いてきた。
最初がマイナスな分、上がり幅も大きい。
不思議なのは、そろそろ目に見えた筋肉がついても良さそうなのに、依然として見た目が貧弱姫様のまんまな事だ。
元の褐色肌が恋しい…
さて、この世界に来て出来た問題が二つある。
一つは自分が次期王女な事。
いずれ戴冠式を迎えた時には、今のように自由な時間は取れなくなるだろう。
それが何時になるかは分からんが、自分のアイデンティティーである鍛錬が出来なくなるのは辛い。
解決策としては、信頼出来る部下を作り、国の内政はそいつに任せて私は自由にさせてもらうか。
これは非現実的だな。
としたら、婿をとって王位を譲るかだが、正直自分自身、まだこの現状を受け入れていない。
一番現実的なのは、自分の力を誇示し、戦う王として君臨するかだが…
南の大陸、バンクシア王国には、まさしく、戦う王様がいるらしい。
理想はそこだが、果たしてこの見た目貧弱姫が、他国の者に通用するのかだ。
そして二つ目は、ディセンシア王国が没落寸前な事だ。
話しに聞いてはいるが、それ以上にこの国の現状は悲惨な様だ。
連日各国から襲撃され、国の包囲を突破されかけている。
今は何とか持っているが、時間の問題だ。
現にローウェン王…自分の父親らしいが、あのお披露目以来王宮に戻っていない。
きっと各地を奔走としているのだろう。
もしディセンシア王国が他国に押し潰されたら…
まず間違えなく、私は人質扱い。
自由云々の問題ではなくなるだろうな。
…考えても始まらない!
兎に角先ずは鍛えよう!!
強くなって、強さで他国を跳ね退けるしかない!
そう決心したロードは、今まで以上に鍛錬に力を入れるのだった。