*女性視点
私の名前は、アザレア。
ディセンシア王国の王族に仕える、宮廷メイドだ。
私はかつてディセンシアとは別の国の奴隷だった。
いや、なる予定だったの間違いか。
奴隷として売り出される寸前に、別国ディセンシアの軍隊により偶々助け出されたのだ。
その後ディセンシア王国の恩に報いる為、今日の私がいる。
私と、病弱姫と言われるディセンシア王国第一王女、ロード様との記憶は、ロード様が3歳の頃まで遡る。
10歳で仕え初め、12歳になったある日、メイド長から思いもよらぬお達しがきた。
第一王女、ロード姫の手足となりなさい。
ロード様の母上、ディセンシアの王妃は病弱な奥方だった。
それ故、ロード様を出産なさって間もなく亡くなってしまわれた。
王妃様を愛していたローウェン王は、その事に酷く心を痛まれ、ロード様はその悲しみを一身に受けるように、溺愛されたらしい。
元より病弱と診断されていたロード様は、一目がつかない所で、大切に育てられた。
そんな王女様も、もうじき3歳。
ディセンシアでは3歳になると、第一王女としての教育が始まる。
そして10歳で貴族達にお披露目され、15歳で大人の仲間入りとなる。
ディセンシアにはロード様しかご子息がいないので、王女になるか、婿を貰い王妃になるかはその時に決まる。
私はその3歳から15歳までのお世話係となったのだ。
そして始まった王女教育、しかしそうすんなりとは行かなかった。
ロードさまは産まれながらに病弱だ。
外を歩く所か、起き上がるのすらやっとのお身体…
その為勉学に励むことすら不可能だった。
変わってきたのはロード様が8歳になった時、不意にお庭を歩きたいと仰ったのだ。
その当時、私はロード様は外の世界が怖いのだと勘違いしていた。
産まれて此の方、ほとんど部屋の中しか知らなかった彼女は、部屋の外は畏怖の対象として見ていたのだと思っていた。
部屋の窓から見える庭園の景色に心を揺り動かされたのか、その日を境目に、自発的に部屋から出るようになった。
彼女の気持ちが変わると不思議な事に、身体も徐々に良くなっていった。
少しずつ勉学も出来るようになり、
そして宮廷医師からの許可を貰い、ロード様は産まれて初めて、外の世界に足を踏み入れたのだった。
私は3歳からその日まで、お世話係として片時もロード様から離れたことは無かった。
母がいないロード様には、まだ若い私が母の様な存在なのか、私を一番に慕ってくれていたと思う。
私もそんなロード様を我が子のように思っていた。
ロード様に一生仕える事は叶わない、あくまでも私は15歳までのお世話係だ。
その短い時間の中で、彼女の為になることは何なのか、姉となり、母となり、私は日々自問する。
ロード様が10歳になる頃には、庭園を歩き回れるくらいまで回復していた。
ローウェン王にその事を告げると、大層お喜びになった王様は、お披露目パーティーを庭園で開くことを決めた。
それは初めて、ロード様を国中の方々にお披露目する大切な日。
その日はかつてない程に国中が騒いだ。
ロード様も様々な方から投げかけられる祝いの言葉に、嬉しそうに微笑んでいた。
しかし、庭園を一周した辺りから徐々に体調は落ち込んで行き、パーティーの最中だったが体調を考慮し、ローウェン王に一言告げ、休息をとることにした。
お部屋に戻られてからはぐったりとしたロード様は、疲れた顔をしていたが、どこか幸せそうな顔をして眠りについた。
そんな彼女を見て、本当にお元気になられて良かったと、心より嬉しく思いました。