転生?
気付くと見知らぬ天井で目を覚ました。
病院にしては、恐ろしく豪華な室内に見える、まるで中世ヨーロッパの貴族の居室のような。
はて、私は交通事故で死んだのでは無いのか…?
記憶を手繰り寄せるが、事故以降の記憶が無い。
ゆっくり身体を起こしてみる、よし、何とか起き上がれた。
其れよりなんだこの筋肉痛の様な痛みは。
全身を、特に両足に感じるピリピリとした痛み、こんな痛みはまだ身体を鍛えあげていない幼少期に感じた以来だ。
そろそろと寝ていたベッドから抜け出そうとする、布団から足が見えた時点で、自身の異様な違和感に気付いた。
なんだこの枝のような細い足は…
幼い頃より共にしてきた、見慣れた足では無い、自身の両足は、もっとこう、程よい筋肉がついた太陽の光を浴びた健康的な足だった筈だ。
なのに今、自分の視線の先にはまるで一度も運動してきたことが無いような、華奢な足が写っている。
身体の変化に戸惑ってしまったせいで、自身に近づいてくる気配に気付けなかった。
「ロード様…?如何かなされましたか…?」
「え?」
突然聞こえてきた声に視線を移すと、目の前に心配そうな顔をした女性が立っていた。
「昨日は初めて、庭園を一周しましたからね、まだお疲れが残っているみたいですね」
女性の台詞は、自分に向けられたものなのだろう、その証拠に不安げに此方を伺い見ている。
「あの、庭園って…」
「フフ、ロード様ったら、寝ぼけてらっしゃるのですか?」
女性は私が言葉を発すると、安心した様に笑みをこぼし、次いで私が知らない昨日の記憶を話してくれた。
「昨日は、ロード様のお披露目会でしたね。
ローウェン王が、ロード様の誕生十周年を記念して、広場の庭園で盛大なパーティーを行いましたよ。
ロード様はお庭を一周した辺りで、疲れたご様子でしたので私と共に退場為されましたが…
その後ベッドに横になってからは、グッスリお眠りでした」
「お披露目会…」
自身の事をロードという違う名で呼ぶこの女性、どうも嘘をついているようには見えない。
私は一体、どうなってしまったのか。
混乱するが、きっと自分はもう知っている自分では無いのだろう。
先程からチラチラと視界に映る、細く白い手足が、それを物語っている。
まさか自分は…
「あの、すいませんが鏡を見たいのですが…」
「…珍しいですね、ロード様がご自身を見たいと仰るのは…少々お待ちくださいませ」
数分と経たぬうちに、女性は三面鏡を持参し、こちらに向けた。
これが…私…?
鏡に映るのは、銀色の髪と銀色の瞳を持つ、美しい少女だった。