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ハロー。見慣れ過ぎた世界

 

 助けたかった。初めて彼の姿を見てから、ずっとずっとあの結末を変えたかった。

 けど、そんな力なんて私にはなくて、あなたが息絶える姿を見て、その度に涙を流していた。せめての救いに、あなたが助かる物語を沢山書いたけど、それは全て自己満足で。どうやっても目の前の運命は、変わることはなかった。

 そんなある日、不覚にも私も命を落としてしまった。原因は、前方不注意のトラックとの接触事故。目の前にトラックがいたと思ったら、私は痛みを感じることなく命を散らした。

 呆気無過ぎる。人生は儚いものだと知っていたけど、まさかこんなにも一瞬だったとは。

 そんな一瞬でも、走馬燈なるものは見るみたいで。様々な過去が私の頭の中を過っては消えていった。その中でもやはり一番多かったのは、あなたの姿で。既に機能が停止しているはずの目から涙が溢れた気がした。悲しい涙じゃない。嬉し涙だ。

(ようやく、あなたの元に行ける)

 多分、向こうに行っても、あなたに会うことは叶わない。けれど、それでもあなたの面影を少しでも見れるなら、死ぬのも悪くないのではと思ってしまう自分がいるのから笑ってしまう。

 無理矢理浮上していた意識から力を抜けば、一気に闇の世界へ落ちていく。怖くないと言えばウソになるが、彼がいる世界に行くなら恐怖なんて感じない。

(もしかしたら、彼に会えるかも)

 期待半分で私は、あの世と言われる場所に向かう。少し薄暗い場所だが、ご丁寧に行き先看板が立っているし、道は天の川みたいにキラキラと輝いているから、迷うことはなさそうだ。

 そう思って進もうとした瞬間。

「違う違う。君はこっちこっち」

「え?」

 間抜けに近い声が聞えたかと思った途端、思い切り体を引っ張られる感覚が襲う。何が起きたのかわからい。けど、あの世の行きを示した看板がどんどん離れていくのは嫌でも分かった。

「ちょっ! どこに連れていくのよ!!」

 なんとか元の場所に戻ろうと思っても、まるで磁力で引っ張られみたいに、体は別方向へと引き寄せられていく。どうやっても抵抗できない。

「いやぁぁぁぁ!!」

「頑張ってね~」

 何をどう頑張れと言うんだこの声は! 怒り任せに叫ぼうとした直後、一気に視界が黒に塗りつぶされる。怖くて思わず目を閉じると、次に襲ってきたのは、声にならない激痛。

「っーー!!」

 あまりの痛さに、閉じてた目を開ける。腰から背中を同時に貫いた痛みは、どうやら硬い道に思い切り打ち付けたものらしい。掌に感じるアスファルトは長い間補正されていないのか、ごつごつした感触を伝えてきて、これが痛みを倍増させた原因だとすぐ分かった。痛みに耐えつつ、体を見回すが、トラックに轢かれた後に出来た傷は一つもない。あんな側面から思い切りぶつかっておいて、怪我一つないのは絶対におかしい。いや、この状況自体がおかし過ぎるのだけなのだが。

「なんなのよ、もう」

 私は、トラックに撥ねられてあの世に向かっていた筈。それなのに、いきなり変な力に引き込まれて。これまた変な声に頑張れと言われ。コンクリートと背面衝突して。本当に、なにがなんだか分からない。

「痛いってことは、夢じゃないし」

 なら、ここは何処なんだ。そう大声で訊ねたいが、残念ながら周りには誰もいない訳で。ここから一体どうしろというのやら。

「取りあえず、路地を抜けよう」

 なんとか立ち上がり、人の声が聞える方へと歩を進める。何が何だか分からなくても、通行人に聞けばここがどこだか分かるだろうし、路地の向こうは、知ってる場所かもしれない。もしそうだったとしたら、事故だと思っていたのは、ただの夢だったのだろう。そんなことを考えていた。

 その後、安易な考えをしていた数秒前の私を、思い切り殴りたくなると知らずに。

「え……?」

 素っ頓狂な声が、口から零れ落ちた。確かに見慣れた所だ。私にとっては、見慣れ過ぎていると言っても過言ではないくらいの場所。

 だが、それはいつも液晶画面を通して見ていた訳で、決して、現実世界ではない。だけど、頬を抓っても痛いし、先ほどの背中の痛みも残っている。

「うそ、でしょ」

 私の目の前に広がっている景色。それは、私が愛して止まないあの人が住む場所であり。


 私が好きでしょうがないアニメ番組の世界だった。


  



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