漫才脚本「デジャブ」
A……ボケ担当。B……ツッコミ担当。
コンビ名は考えていないので☓☓としました。
A・B、ステージに上がる。
A「どうも~☓☓です!」
B「よろしくお願いしま~す!」
A・B、観客に向かって軽く頭を下げる。
A「B君。実は僕ね、近頃ちょっと恐いなって思うことがあるんです」
B「はいはい、何ですか?」
A「最近、身に降りかかること全てにデジャブを覚えるんです」
B「え? デジャブですか?」
A「そう、どっかでこの話聞いたことなかったかな……とか、初めてのはずなのに、どっかでこの出来事体験したな……とか感じる、あのデジャブです」
B「まあ、そういうことってたまにはありますけどもね」
A「普通たまにでしょ? 僕なんかね、ついこの間なんて丸一日デジャブだらけだったんです」
B「丸一日?」
A「まず、昼近くに自分の部屋で目を覚ましました」
B「昼まで寝てるのもいかがなものかと思いますがね」
A「そこで早くも、あれ? おかしいなって思ったんです」
B「え?」
A「この頭の痛み……昨日も確か味わったような……おえーっ!」
B「二日酔いですね! きっと、寝る前まで悪酔いして苦しんでたんだと思いますよ」
A「で、クラクラしながらも顔を洗おうと思って洗面所に向かったんです。そこでも、ん? ってなったんです」
B「はいはい」
A「なんと、俺しか住んでないはずなのに人影があって、その姿に見覚えがあったんですよ」
B「ええっ! それ、普通に恐いじゃないですか」
A「いや、でもこの二枚目、どこかで見たような……あ、何だ。鏡に映った俺かあ」
B「ずいぶんナルシストですね。寝ぼけるのも大概にしていただきたいですが」
A「で、その後リビングに行って、テレビをつけたんですね。そうしたら、ドラマが放送されてたんです。でもそれ、何か見たことあるんですよ」
B「はあ」
A「どんな展開なのか、台詞とかも手に取るようにわかってしまって、自分でもええっ! ってなりました。一番記憶に残った台詞は確か……『何じゃこりゃあ!』」
B「再放送ですね! それ、めちゃめちゃ有名なドラマの台詞ですから。知ってて当然ですよ!」
A「いやいや、こんなのはまだ序の口ですよ。その後、何かお腹に物を入れようと思って台所に行ったんです。すると、そこでも」
B「はあ」
A「何か黒い物が隅っこでうごめいていて……うわあっ! ゴキブリっ!」
B「それ、単にゴキブリに驚いてるだけじゃないですか!」
A「違う違う違う! 見たのよ、前の日にも。絶対デジャブ」
B「退治しないでほっといてるだけでしょうが! さっさと殺虫剤でもまいといて下さい!」
A「で、気を取り直して冷蔵庫開けたんですけど。そこでも……」
B「はいはい」
A「うわあっ! またヨーグルトの賞味期限切れてる……」
B「それは、A君がだらしないだけですねえ」
A「デジャブだわあ……」
B「デジャブじゃねえよ」
A「で、その賞味期限が切れたヨーグルトを持ってリビングに戻ったんですね」
B「あ、それ、食べるんですね」
A「で、またテレビのチャンネルを変えながら、優雅な朝食を摂っていたわけですよ」
B「厳密に言うと、昼食ですがね」
A「ですがね、またここでもデジャブを覚えちゃったわけです」
B「まさか、ヨーグルトの味がどうこうとか言いませんよね」
A「ははは、大丈夫ですよ。今まで食べたことのないような、異常な酸味がしましたから」
B「腐ってますって! 食べちゃ駄目でしょ、そんなもん」
A「ま、そんなことはどうでもいいんですけど」
B「いや、よくない。絶対によくないから」
A「ふとテレビを見ると、ある動物園の特集をやってたんですね。するとそこに、すっごく見たことがあるお猿さんがいたんです」
B「猿くらい、見たことがあって当然でしょう」
A「いやいやいや。そいつに関して言うと、同じ種類の奴を見たことがあるって騒ぎじゃないんですよ。間違いなく見たことがある。それくらいのレベルでしたね」
B「はあ」
A「僕は必死に、そいつをどこで見たのか思い出そうとしました。もちろん僕は、その特集された動物園に行ったことがないので、そこで見たってことはまずありえません」
B「そういうこともあるんですねえ」
A「この猿、どこで見たかなあ……。うーん……。あ、わかった! B君だ!」
B「誰が猿だ! 俺と猿なんて、霊長類ってことしか共通点ねえぞ!」
A「ほら、その真っ赤な顔とかそっくりですよ?」
B「てめえが怒らせたからだろうがよ! もう、全然じゃねえか。お前が言ってることなんて、ちっともデジャブじゃねえよ」
A「あ、僕今、またデジャブを感じてしまいましたよ」
B「何がどうデジャブなんだよ」
A「僕がボケるたびに、B君にツッコミを入れられる。このくだり、確かこの前にも……」
B「漫才やってるんだから当然だろうが! もういいよ。どうも、あり……」
A「(悩ましげに)その、もういいよって台詞も」
B「(怒り気味に)本当にもういいよ!」
A・B「どうも、ありがとうございました~!」