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7・『魔素と魔力と私』

 深夜、冬が近づき肌寒くなった今日この頃。

 月が雲に隠れて更に暗くなった隙に、私は父上に気づかれないようにこっそりと家を出て目的の場所へと向かう。


 そこは以前、魔素を操った場所だ。

 その時、木に付けた傷だけでなく今では色々な傷が彼方此方の木に付いていた。


 全部、私が付けたものだ。


 私は周りを見渡して誰も居ないのを確認すると木刀を手に深呼吸し、意識を周りに向けと周りを漂う、不透明の霧のような存在である魔素を感じ取る。


 以前よりも魔素の存在を感じ取ることが出来るようになっていた。

 最近では目を瞑っていても流れを感じ取る事ができるようになってきている。



 そして、一筋の流れを見付けると私はそれに沿って木刀を勢い良く振る。


「はっ!」


 剣術を習ったことにより正しい姿勢で木刀を振ると、それに合わせ以前よりも威力の上がった魔素の《斬撃波(スラッシュウェーブ)》が勢い良く目の前の木にぶつかる。


 木は大きく切りつけられたが、切り倒すにはまだ威力が足らないようだった。


「あーまたダメか……。もうちょっと魔素を集めて放てばいいかな?」


 そんなことを言いながら、どうすれば威力の高い斬撃波が出せるか考えつつ、また木刀を振り始める。


 最近、私は魔素を操る修行をしている。


 この魔法がある世界ではどんな危険があるか分からない、しかし私には魔法は使えない。

 剣を扱えるようにはなったがそれだけでは対応出来な事もあるかもしれない、と思った時に魔素のことを思い出したのだ。


 魔素やついでに魔力も普通は視ることができない。


 しかし私にはなぜか魔素と魔力の流れを視ることができる。

 そして魔素の流れが視てその流れを利用すれば、その存在を操ることができる事に気がついた。


 魔素を操ることができるなんてルーファスさんや父上に言ったらきっと驚くだろう。

 でも私は絶対に言わない。だから今もこうして夜中に隠れながら魔素の修行をしている。


 魔素はそのままでは扱うことが出来ない。

 扱うことができる魔力に変換して使っているのだ。


 それを私は魔力に変換せずにそのまま操り使っている。


 まぁ正しく言えば、魔素の流れに沿ったりその流れを少し変えたりしているだけで操っているとはいえないかもしれない。


 例えるなら魔素は水なのだ。


 水という魔素がその辺を満たしていて、オールという名の木刀などで仰げば、水が押し出されて流れを作るし、水が流れを作っていてその流れに沿っているだけにすぎない。


 私はただその流れを感じ取り、その流れを利用しているだけである。


 ……それだけなんだけど、これができる人っていうのは私以外いないみたいだ。


 家にあった魔素に関係ありそうな本はすべて読んだが、それらしき記述は見当たらなかった。

 父上とルーファスさんにもそれとなく聞いてみたが、やはり魔素や魔力というのは見えないもので魔素はそのままでは扱えないと言われるだけだった。


 もしかしたらこれは魔素では無いのかもしれないが、今の私の知識では魔素以外にこれが何なのか分からない。


 とにかく私は魔素や魔力を視ることが出来て、さらに魔素を操れることができる。

 そして、それをあまり言わないほうがよいと思い隠しているのだった。


「……」


 私は静かに魔素の流れを感じ取りつつ目の前の木を見据える。

 魔素を操る修行をしてからだんだんと魔素の扱いには慣れてきた。


 最近では魔素の流れに乗ると剣を振るスピードと威力を増す事ができたり、大きな流れに乗れば速く移動することができる事にも気がついた。

 他にも魔素の流れと魔力を感じ取れば、周囲の生物の存在と位置が分かるようになった。


「はっ!」


 私はここだと思った流れに合わせて木刀を振る。

 木の枝よりも木刀のほうが魔素を操りやすい。


 そして正しい姿勢で振り下ろされたその斬撃に合わせて魔素が流れて形を作りだす。

 今までよりも威力の高い斬撃波となり目の前の木に迫った。

 意識をしなければ私でも視えない魔素でできた斬撃波が木にあたり通り過ぎる。


 すると少し時間を置いて木は、真ん中で横にずれて大きな音をさせながら倒れていった。


「や、やったぁぁぁ!」


 私は大声を出しながら喜ぶ。


 ついこの間まではこの力に恐れていたというのに、今ではどれほどの力があるのかそれを見付けてはその力を試すのが楽しいのだ。


 ……魔法が使えないのが悔しいというのもあるかもしれないけど。


 そんな風に私がした事について喜んでいるとあることに気づく。


 木が倒れた音。


 それはもの凄く大きな音をたてながら倒れたのだ。

 もしかしたら家まで届いていたかもしれない。もしそうならば……。


「……父上が起きてしまったかも」


 私はその事実に気づき、笑顔を引きつらせる。

 このままだと夜中に抜け出していた事とこの魔素の事についてバレてしまう。


「やばい! 今すぐに家に帰らないと! でも父上が起きていたらどうしよう!? でも行かなきゃ私が居ないってバレちゃうし……ええっとええっと」


 私は父上が起きていない事を祈りながら起きていた場合の言い訳を考える。


「よし! 眠れなくて夜空を見るために外に出たってことにしよう! 今すぐ家の前まで戻ればこれで通じるはず……」


 なんとか良い言い訳が考えついたので急いで家の方に戻ろうと振り向こうとすると……。


「ほう? 夜空を見に葉が邪魔で空が見えないようなこんな森の中に?」


 突然、後ろから声が聞こえてきて私は固まる。


 それはとても良く知っている声。


 ここから家は結構離れているはずで、先ほどの音を聞いてすぐに駆けつけたとしてもこんなに速く来れるとは思えなかった。


「なっなんで……」


 私は驚き、ゆっくりと後ろを振り向くとそこには予想通りの人物がいた。


 ……そうだった、思い出した。


 目の前の人物は風の如く素早く動き、その速さは目に捕らえることが出来ないと言われ、とある二つ名が付いていた。


「さて教えてもらおうかラクサ? ここへ来た本当の目的は何だ」


 《疾風》と呼ばれるBランク冒険者、ナツセ・ギナ。



 黒い瞳を鋭くし険しい表情でこちらを見ている彼、父上と目が合ってしまった。



 その瞬間、逃げることも言い訳することも許されないのだと悟ったのだった。









「魔素と魔力を視る事と、魔素を操る事ができる力か……」


 私は隠し事が出来ないと悟り、ここで何をしていたのかそして私の持つ力のことを父上に話した。


 父上は正座した私と先程切り倒した木と、更に切り倒された木を見比べて考えこむような顔をしつつ言う。


「正直、魔素や魔力を視ることが出来て更に魔素を操ることができるなんて信じられんが、目の前で見せられてしまえば信じるしか無いか」


 父上は私の力について信じてもらえるようだった。

 先程、父上に頼まれてもう一度木を切り倒して見せた。

 それを見た父上は本当に驚いていたようでしばらく固まっていた程だ。


 私が横へと木刀を振った次の瞬間には、離れたところにある木が切り倒されたのだ。

 魔素は通常は目に見えないため、言われなければ何をしたのか分からないだろう。


 手に持つ武器で斬ろうにも木から離れていたし、何よりも私が使っていたのは木刀だ。

 そんなもので魔法も使わずに木が斬れるわけがない。


「あの父上……」

「どうしたラクサ?」

「……私の事、嫌いにならないんですか?」


 私がこの力を隠していた理由はこれだった。


 魔素を操るなんて誰も出来ないことを私はできてしまう。

 そんな得体のしれない力を持つ私は【魔力なし】と同じで不気味な存在と思われてしまうと思い言えなかったのだ。


 この世界に生まれてまだ六年だが、今ではこの世界の人達は私にとって大切な存在になっていた。

 そんな人達に、父上に嫌われたくなかったのだ。


「……お前を嫌いになるわけが無い。もしかしてこの事を隠していたのはその為か?」


 父上は私の言葉を聞いて驚いた後、優しく語りかけてくれた。


 私はその言葉に安堵してコクリと素直に頷くと、父上が私の目線に合わせてしゃがみ込み頭を撫でながら話してくれた。


「まったくお前というやつは。どんな力を持っていようと俺はお前を嫌いになったりしないさ。……お前が何者であってもな」


「……えっ?」


 最後の言葉は私の耳に届くか届かないかくらいの、とても小さな声だった。 


 ――もしかして、父上は私が前世の記憶を持つ、転生者だって気づいている?


 最後に聞こえた言葉の意味が気になった。


「あの父上……」


 私はその事を聞きたくて父上に話し掛けるが頭を強く抑えこまれてしまい、聞く機会を逃した。


 頭から手を離した父上は、今度はキツイ口調で言う。


「そんなことよりも、俺に内緒でこんな夜中に森の入り口へ近づくとはな。あの出来事を忘れたのか?」

「あ、えっと……ごめんなさい」


 私は父上の言葉にただ謝るしかなかった。


「まったく。幾ら最近は剣術を習って強くなったとはいえ、お前はまだ子供だ。不測の事態に対応できるほどの力を持っていないだろうが」


 はい、全くその通りですね……。


 そんな感じでまた父上から説教を食らったのだった。

 ひと通り説教をした父上は最後にこんなことを言った。


「これからは夜中に出歩かないことだ。それから魔素の修行がしたいなら昼間の俺との修行の時間にするように」


 その言葉に私は驚いてしまった。


「えっ? 魔素の修行してもいいんですか?」

「別に俺はダメだと言っていないぞ?」


 私はてっきりダメなんだと思っていたのだ。

 だから、してもいいと許しをもらえた事が嬉しかった。


「ありがとうございます、父上!」


「ああ、だが魔素を操るなんてことは他のやつには出来ないことだ。その力を狙ってくる奴も居るだろうからこの事は誰にも言うなよ」


「はい! 分かりました!」


 私は嬉しくて元気よく返事をする。


 気がつけば空が明るくなり始め、夜が明けようとしていた。








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