表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔斬の剣士〜魔素使いの転生復讐記〜  作者: 彩帆
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/71

34・『竜を信じる者達』

 街の外を出て真っ暗な平原を走る。目指すのは平原の真ん中に作られた避難所だ。


 昨日までは無かった急遽作られたものとは思えないくらいに立派な岩で作られた仮設の建物が沢山できていた。きっと魔術士の土属性の魔法で建てた建物だろう。だけど今はそんな事はどうでもいい。


「おい、司教様はどこにいる!」


 避難所に着くなり、周りに向かって大声で叫ぶマスター。


「司教様なら中央に建てられた建物で、負傷者の治療をしているぞ」


 近くにいた冒険者が教えてくれた。中央に二階建ての大きな建物が見える。きっとそこにいるのだろう。


「ありがとな」


 マスターはお礼を一言だけいうと、すぐにその場所へと向かう。私もその後に付いて行く。







「司教様!」


 マスターは開け放たれた建物の入り口を入ると大声を出して、司教様を呼ぶ。


「いきなり大声を出さないでください! ここには大勢の負傷者がいるんですよ!」

「悪い、だがこっちには重傷者がいるんだよ! 司教様はどこだ!」


 マスターは先程よりも声を落として、マスターを注意した神官らしき男に聞く。


 マスターの後ろから見える建物の中には確かに大勢の負傷者がいた。彼らは、ポーションや治療魔法をかけられたりして傷を治しているようだ。



「何の騒ぎですか?」

「ラザラス様!」


 聞こえてきた声の方を向くと、そこには昨日見た時と変わらない、神官の服がよく似合う優男。竜神教の司教、ラザラスがいた。


「これは……!? その御方をこちらに、すぐに治療をいたします!」


 ラザラス様はマスターに抱えられたエミリーを見ると、真剣な表情になる。


「ワイバーンの毒がある。なんとか出来ますか、司教様?」

「毒ですか? なんと厄介な……」


 マスターの報告を受けて、少しだけ困ったような顔をするラザラス様だったがすぐに真剣な顔に戻る。


「最善は尽くしましょう。……そこの二人は、錬金術士から様々な解毒薬とその材料を貰ってきてください。なければ冒険者や商人にも掛けあって探してください。それから――」


 ラザラス様は周りの神官や竜騎士団の人達に指示を出す。だけど、指示を受けた一人の神官がこう言った。


「ラザラス様、この御方は《魔力なし》です。竜神様に嫌われた者を助けるつもりですか?」


 ……そうだった、彼らは竜神教の信者だった。


 パオロさんとは違い彼らの考え方では《魔力なし》は《竜に嫌われた子》であり、そんなエミリーを全ての竜を信じる彼らにとっては助ける価値の無い存在になる。


「ラザラス様、《竜に嫌われた子》を助ける必要など――」


「《竜に嫌われた子》がなんだ? 目の前に死にそうになった人がいるのに、あなた達はそんな理由で人を見捨てるつもりなのですか!?」


 私はその神官を睨みつけるように言い放つ。彼らならエミリーを助けることが出来るかもしれないが彼らの信条ではエミリーを助けてくれない事は分かっている。でも私は彼らにすがるしか無い。私ではエミリーを助けることは出来ないからだ。


「二人共、お静かに。ここには怪我人が沢山いるのですよ」


 私達を宥めるように優しく声をかけたのは、ラザラス様だった。こんな時でも冷静さを失わず、落ち着いた雰囲気のラザラス様はゆっくりと話しだす。


「確かに、この御方は《魔力なし》。しかし、それを見捨てるのは、我らの教えに反します。


 『我ら人は、人を殺してはならない』、これは助ける力があるのに、目の前で死にゆく者を助けなかった場合も含まれるでしょう。その者が《魔力なし》であっても助けるべきです、分かりましたか?」


「しかし、この少女はワイバーン様の毒を受けているではありませんか! 竜神様の毒を我らが勝手に解毒する事は許される行為なのですか!?」


 ラザラス様の言葉を聞いても、まだ納得していない神官。


 確かに、エミリーはワイバーンの毒を受けた。彼らにとってワイバーンは神に近き存在だ。そのワイバーンの毒を受け、更には《竜に嫌われた子》であるエミリーを助けるなんて彼らには出来ない事だろう。


 ラザラス様ならその事はすでに分かっているはずだ。私は不安な気持ちでラザラス様を見ていると、彼は静かに語り出した。


「貴方の言う通り、この少女は竜神様の毒を受けました。しかし、何故竜神様は毒を使ったのか、疑問に思いませんか? 竜神様なら我ら人など容易く殺す事ができるでしょう、なのに毒を使った。


 これはきっとこの少女に対して課せられた神の試練であり、そしてこの少女を助ける事は竜神様より我らに課せられた試練でもあるのです。全ては竜神様のお導き、それに従う事が正しい事です」


「竜神様のお導きですか……」


 ラザラス様はその神官にそう諭すと、その神官は不満そうだったが納得したようだった。どうやら、ラザラス様は竜神様のお導きという事で《魔力なし》のエミリーを助けてくれるらしい。


「その御方はこちらの方に代わりに運ばせましょう。この大怪我と毒の事もあり、治療には時間がかかりますがこの御方は必ず助けると、我らが母、創世竜様に誓いましょう」


 そう言ってラザラス様は、数人の人達と彼女と共に建物の奥の部屋に入って行った。









「俺達に出来る事は何もない。ただ、エミリーが無事に助かることを願うだけだな……」


 中央の建物を見つめながら、マスターは悔しそうに呟く。確かに、私達には何も出来ない。今だって、神官達の邪魔にならないようにあの建物から出てきた所なのだ。


「エミリー……」


 ――ああ、どうか。彼女を助けてください。竜でも、神でも、悪魔でもいい! なんでもいいから、彼女を助けて下さい。私は、もう失いたくない。これ以上この世界の、私の大切な人を、奪わないで!!


 私は目を閉じて願う。誰に願っているのか、分からない。でも、私は静かに願う。










「キャァァァァ」


「なんだ!?」


 そんな時、何処からか悲鳴が聞こえてくる。


「あっちの方面から聞こえてきましたね」


 私は聞こえてきた方面に向かって走りだす。


「おい、待てよ!」


 その後ろから追いかけるようにマスターも付いてくる。






「なんだ、これは!?」


 悲鳴が聞こえてきた場所に着くと、そこは血の海だった。歳も性別も違う人の死体が、血の海に沈み込むように倒れている。


「みんな、みんな、死んでしまえ! お前ら全員、神に嫌われた悪人なんだよおおおお」


 その中央には、発狂しながら死体に向かって何回も何回も、剣を突き刺す男の姿。そいつの姿は大量の返り血を浴びており、赤い。


「やめて……やめて……夫をこれ以上傷つけないで!」


 近くにいた女性がその男の体にすがるように泣きながら抱きついていた。


「邪魔すんじゃねーよ!」

「……やめて、やめて!」


 男はその女性の髪を掴むと死体に突き刺していた血だらけの剣を彼女の首に近づける。


「……剣を置け! これ以上人を殺すな!」


 目の前の光景に理解が追いつけず固まっていた私は我に返るとすぐに刀を抜く。


「うるせぇ! 俺の邪魔すんな!」


 男は剣を女性の首に当てたまま周りを見渡しながら叫ぶ。


「お前ら全員、生きちゃいけないんだよ。そいつらを殺して何が悪い!」

「そんなの、誰が決めた!」

「竜に決まってるだろ! ドラゴンに襲われた俺達は死ぬべきなんだよぉ!」


 男はそう喚くと女性にさらに剣を近づける。


「止めろ!!」


 大地を揺るがすかのような大声が周囲に響き渡る。聞こえてきた方を見ればそこにはマスターがいた。マスターが睨みつけるように男を見るとその視線だけで男はビビったかのように立ち竦む。


「剣を置け、今すぐに!」

「そ、それはできない! 死ぬべき人間を殺さなきゃならないんだよ!」

「聞こえなかったのか! 今すぐこんな馬鹿げた事を止めろと言っているんだ!」


 圧倒的な迫力のみで男を追い詰めるマスター。その迫力に飲まれたのか男は女性の髪を掴むのを止めた。女性は自力で立ち上がると男から離れていく。その女性はすぐにマスターに保護され安心した所で男の方を見ると……。


「……そうだ、俺も生きてはいけない。死ぬべき人間だ」


 そう自嘲するように呟いた男は血だらけの剣を持ち上げていく。


「まさか!? 止めろ!」


 男を止めようと走りだすが、遅かった。


 男の持った剣が自身を突き刺す。そんな赤い光景が私の目の前に広がっていた。






「こんな事が起きるなんてな」


 隣に立つマスターが血だらけ地面を見ながら呟く。


 血だらけの地面の近くには、今回の事件の被害者達の遺体が綺麗に並べてある。――もちろんあの男の遺体も置かれており被害者達より離れた場所にある。その男の顔は先程ワイバーンに襲われた時に居合わせたあの男だった。


 被害者達の遺体の周りには、遺族らしき人達。彼らの悲しみの声が、この惨状を物語っていた。


「これもドラゴンが街を襲った事が原因に、……いや何でもない」


 言葉の途中で口を閉じたマスターの顔を見る。その顔は、いつもの怖い顔だが何処か複雑そうに悩んでいるかのようだ。


 ……ドラゴンのせい、だと言いたかったんですね、マスター。


 先ほどマスターが言いかけた言葉を考えると、すべての原因はドラゴンが引き起こした事だと言いたかったのだろう。


 実際にそうだ、ドラゴンが街に来なければ、こんな事にはならなかったはずだ。エミリーだって、あんな大怪我をしなくて済んだはずである。


 マスターも、そう思ったのかもしれない。でも、マスターはきっと竜を神だと信じている。ずっと信じていた存在を疑いたくないのかもしれない。


 そういえば、マスターのように信じて疑わなかった人がいたな……。その人はミルトの街をーー。


「……いや、まさか、そんな事は」


 あの人の顔が思い浮かび、そして目の前の血の海を見て不安が募る。


 ーーあの人にとって、竜に襲われたのは二回。信じる存在に二回も襲われた事になる。


 気づけば私は走り出していた。この避難所にいる事は分かっている。


「おいラクサ!? 何処に行く!」

「ある人が心配なんだ! その人の様子を見てくる!」


 マスターの声を振り払うように、私はその人の魔力がある方へと走った。













 人々をかき分けて進む。その先にいる人物の気配を頼りに。


 ……ああ、なんて事だ。遠くから人の悲鳴が聞こえてくる。それは今向かっている方角からだ。先程考えていたことが現実になったのか? こんな予想外れれば良かったのに……。頼りにしていた反応が徐々に小さくなっていく。


 ――やめて。もうやめてくれ……。


「…………なんで、誰も止めなかったんだ」


 集まった人々をかき分けながら間に合わなかった現場に向かう。そこはまたしても赤い色が支配する空間。


 その赤い海に沈むのは、やせ細った女性。首から下げた花の模様のロケットペンダントが揺れており、胸元に自分の両手を重ねていた。


 手の間から見えるのは銀の光。それは小さなナイフのように見える。まだ生きているようで浅い息をしながら、空を虚ろな目が見つめていた。


「……なんで、こんな事を」


 その人に近づき、優しく体を支えて抱き起こす。そこで初めて私の存在に気づいたのだろう、空を見つめていた目がこちらを向いた。


「ラクサさん……ごめんなさいねこんな……姿を見せてしまって。……どうやら私は生きるのは許されない存在のようですね。二回もワイバーン様に襲われているのですから」

「そんな事はないはずです! あんなのは神でも何でもない。それに襲われただけでこんな事をするなんて……」


 彼女は私の言葉を聞いて微笑むとナイフから手を離し、赤い両手で胸元にあったペンダントを優しく包む。


「そうかもしれないですね……。でも、もう生きる事に疲れたの。あの人達が帰ってこないと分かったし、生きている意味はないと気づいてしまったのだから……」


 彼女の中を流れる魔力の反応が徐々に小さくなっていく。


「竜神様がこの街に来なかったとしても、私の運命は変わらなかったわ。あの人達が戻ってこないと気付いた時から……」


 そう言ってこちらを見る彼女の目はすでに光を宿していない。


「これは私が望んだことだから、自分を責めないで。――最後に依頼を受けてくれて、ありがとう。ペンダントを持ってきてくれて、ありがとう」


 そして彼女はゆっくりと目を閉じ、動かなくなった。









「……責めるなと言われても、そんなの無理ですよ」


 過去に受けた依頼の依頼主の亡骸を抱きかかえながら思う。


 あの依頼は誰も達成できないままのほうが良かったのかもしれない。あの時のままだったらきっと彼女は家族の帰りを待つために今も生きていたはずだ。それが幸せなのか分からないが少なくともこんな事をしなかっただろう。


 ――ああ、貴方の依頼なんて、受けなきゃ良かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ