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魔斬の剣士〜魔素使いの転生復讐記〜  作者: 彩帆
第二章

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27・『亡霊なる者達』

「二人共、ペンダントは見つかったかにゃ? 一階にはペンダントも手掛かりも無かったにゃ」


 そう言って後ろの部屋の入口からパオロさんが入ってきた。どうやら一階の捜索は終わったようだ。


「えっとー、見付けたことには見付けたのでしょうか?」

「どういうことにゃ?」


 私とエミリーは少し横に移動して、パオロさんにも女の子が見えるようにする。


「……なんでこんな所にこんな子供がいるにゃ、それにそのペンダントは」


 パオロさんは少女を見て、一瞬で依頼主の娘さんだとわかったようだ。

 ……だけど、すぐに警戒しているような態度になったかと思うと、火薬式のマスケットを手に持った。


「二人共、すぐにその子から離れるにゃ」

「……パオロさん?」

「な、なんでよ? せっかく依頼主の子供を見付けたっていうのに」


「……何を言っているにゃ。

 依頼主の子供は十五年前(・・・・)に別れてそれっきりにゃ。

 今生きていたとしたら、その子供は最低でも十五歳以上(・・・・)の歳の子にゃ。そんな幼い子が依頼主の子供なわけないのにゃ!」


 パオロさんがその言葉を言い放った瞬間、後ろの魔力の反応が急激に大きくなったのを感じた。

 

「……っ! エミリー!」


 私は隣にいたエミリーを突き飛ばすように横へと飛ぶと、先程エミリーが居た場所を何かが通り過ぎて行く。


 それは風の衝撃波のようで、そのまま私達を通りすぎて壁に当たると、その壁を斬り裂くように大きな穴を開けた。


 ――まるで私が魔素を集めて放つ、《斬撃波(スラッシュウェーブ)》のような技だ。


 その風の斬撃波が飛んできた方を見るとそこには……。


「ねぇ、お母さんどこ? お母さんの居場所知ってるんでしょ?

 ――それともお母さんが居なくなったのはお姉ちゃん達のせいなの?

 なら、返してよ。お母さんを返して、かえして、カエ……シテ……」


 涙を流した女の子は酷く歪んだ顔をしていた。

 血のような瞳を大きく見開いてこちらを睨みつけている。

 感じ取れる魔力も人の魔力でもなく、微弱なものでもない、魔物の強い魔力。


 《首なし騎士(デュラハン)》以外の強い魔力を持った魔物、それが今、私達の目の前にいた。


 次の瞬間、急速な勢いで喉元に魔力が集まっていくのが分かる。


「ウアァァァァッ!」


 大きな泣き声を出して少女が泣き始めた。

 でも、その泣き声は普通ではない。魔力の乗せられたその声は、空間を震えさせてるような音であり、頭が割れるような音として耳に響いてくる。


 頭を抱えるように両耳を両手で塞ぐがそれでは音を遮れない。

 凄まじいほどの頭の痛みに呻き、そのまま気を失いかけそうになった所でパオロさんの大声が聞こえてきた。


「聖なる光よ、我らを脅かす魔の声を遮る光の壁となれにゃ!」


 その瞬間、私達一人一人をそれぞれ囲うように光の壁が現れる。

 それによって今まで聞こえてきていた少女の声がくぐもった声になり、頭が割れるような痛みが収まった。


「もう、何なのよ! あの子は一体何なのよ!」


 エミリーが頭を抱えながら、まだ泣き叫んでいる少女を睨みつける。


「パオロさん、あの子は依頼主の娘さんじゃないんですか!?」


 魔力の反応が魔物の物になったとはいえ、少しだけ人の魔力も混じっている。それに、ペンダントを持っていることからあの子は依頼主の娘だと思う。


 しかし、本当に娘ならあの姿なのはおかしい。


「……死んだ人の魔力が時に魔素へと戻らずに残留する場合があるにゃ。

 それによって生まれたのがゾンビなどの魔物にゃ。多分、依頼主の子供も死んだ後にその魔力が残ってそれが魔物へと変化したんだと思うにゃ。

 魔力が強い物には人だった時の記憶が残っている場合もあるにゃ。

 ……今オイラ達の目の前にいるのはそんな存在にゃ」


「つまり、もう依頼主の娘さんは死んでいて、あれはその娘さんの体に宿っていた魔力が魔物になった存在ということね」

「そういう事にゃ」


 目の前には泣き叫ぶ少女の形をした魔物。

 流れる魔力に人の気配が混じっていたのは元々人だったからだ。


 そんな風に魔力を感じ取っていると周囲にいた魔物達の魔力がこちらに向かってきているのが分かった。その中にはあの、《首なし騎士(デュラハン)》の魔力らしき存在もある。


「パオロさん! 周囲の魔物がこちらに向かってきています! その中にはあのデュラハンの反応もあります!」

「えっ!? なんで魔物がこっちに来てるのよ!」

「……しまったにゃ! あの少女の泣き声が魔物を呼び集めているのにゃ!」


 どうやらあの声は攻撃以外の役割も持っていたようだ。

 魔力の込められた声だから、それなりに遠くまで聞こえるだろう。

 その声に反応したゾンビやスケルトンの魔物の魔力が、こちらに続々と向かってきている。


 先程、あの少女の魔物が壁に開けた穴から外を見ればすでに家の周りをゾンビ達が囲っていた。

 そんな風に外を見ていると、あるはずの物が無い――。


「結界が無くなっている!?」


 多分、あの少女の魔物の攻撃のせいだ。

 それによって家を囲っていた結界が消えていた。


 ということは――。


 大きな軋む音をたてて多数の何かが階段を登ってくる音が聞こえてくる。

 予想通り、外に居たゾンビ達が家の中へと侵入し、私達が居る二階へと登って来ている音だった。


「二人共! そこの開いている壁の穴から外へ逃げるにゃ!」


 パオロさんの言う通りに私達は魔物によって開けられた穴から、外へと出る。二階から飛び降りるように家の前の通りに降りると、そこには見渡す限りゾンビやスケルトンが所狭しと居た。


 そして、その大群の屍達の奥から《首なし騎士(デュラハン)》が現れたのだった。


 多数の魔物と、そして強い魔物二体に囲まれ、その中心で私達は武器を手に背中合わせに並ぶ。


「パオロさん、この状況どうしますか?」


 逃げることは難しそうだ。

 ゾンビやスケルトンだけなら逃げることも出来そうだが、《首なし騎士(デュラハン)》とあの少女の魔物がいるこの状況では無理だ。


 戦うにしても、あの二体の魔物を相手にするだけでも難しいだろう。


「……ゾンビとスケルトン、それからあの少女はオイラに任せるにゃ。

 二人にはデュラハンを相手して欲しいけど……倒せるかにゃ?」


 あの《首なし騎士(デュラハン)》を倒すには、あの固い鎧を何とかしなくてはならない。普通ではあの鎧に邪魔されて、本体に攻撃できないだろう。


 ……でも、あの鎧ごと斬れるくらいの力があれば別だよね?


 パオロさんに聞かれて、私は少し考えた後に答える。

 

「できる……と思います。ただ、ちょっと魔法の詠唱のように準備が必要ですけど」

「それじゃあ、その準備とやらが終わるまで、私があの首なしの相手をすればいいわね」


 私の言葉を聞いたエミリーがそんな頼もしい事を言ってくれる。


「大丈夫そうかにゃ? じゃあ、頼んだにゃ!」


 パオロさんがそう言い終わるとすぐに詠唱をしながら、手を上に上げる。

 それと同期するようにパオロさんの中を流れている魔力が活発に動き出した。


「死してなお動き続ける哀れな屍達に、安らかなる眠りを与えるにゃ!

 ――《聖なる稲妻(ホーリーライトニング)》」


 一帯を囲むような大きな魔法陣が頭上に出現し、パオロさんが手を勢い良く振り下ろすと、それを合図に激しい稲妻が地面に向って複数降り注いだ。


 大きな爆発音のような音と瞬く光の稲妻が、私達の周りを囲う魔物達を襲う。


 何者をも浄化するような聖なる光でできた雷がゾンビ達を次々と襲いかかり、その体を焦がし、バラバラにしていく。


 光と焼けるような音、さらにはあの青い炎に焼かれてゾンビやスケルトンは灰になる。


 数分すると稲妻の雨は終わり、私達を囲んでいた大量の魔物はいなくなり、あるのは大量の灰の山だけだった。


「……さて、雑魚は片付けたにゃ」


 そう言ったパオロさんは魔力量がもう半分以下になっておりとても辛そうだった。


 先程パオロさんが使ったあの魔法の威力を考えると多分、上級魔法だ。


 私達のパーティには魔法が使えるのはパオロさんしかいない。

 だから魔法が必要な時は、全てパオロさんが対処しなくてはいけなかった。

 そんなにも魔法を使えば、さすがに魔力量が多くても足りなくなる。


 私達に《首なし騎士(デュラハン)》を任せた理由が分かった気がする。今のパオロさんではもうこれ以上は上級魔法は使えないだろう。

 だからあの少女の魔物を相手にすることは出来るだろうけど、《首なし騎士(デュラハン)》を相手にするのは無理かもしれない。


 そんな《首なし騎士(デュラハン)》や少女の魔物はというと、あの魔法は少しは効いているのだろうか《首なし騎士(デュラハン)》はふらついている気がする。


 少女の魔物の方は《首なし騎士(デュラハン)》よりも効いているようだったが、ゾンビ達よりも強い魔物のようでまだ倒されていなかった。


「まだ、《付加魔法(エンチャント)》は効いているにゃ?」

「はい、まだまだ大丈夫ですよ」


 《付加魔法(エンチャント)》の効果は魔術士の腕によって効果時間に差が出る。パオロさんは優秀なのか《付加魔法(エンチャント)》の持続時間は一日も持つそうだ。ちなみに先程の防音の魔法と足が早くなるあの風の魔法も効果が残ったままだ。


「パオロこそ大丈夫なの?、あの子を倒せるのかしら?」


 エミリーが不安そうに聞く。


 確かにパオロさんは力を使いすぎて疲弊している。

 私達も連続で戦闘をしているから疲れがあるが、パオロさんほどではない。


 でも、どうやらエミリーはパオロさんの体力の心配もしているが、もう一つの事も心配しているようだ。


 あの少女の姿をしているが、それでも倒せるのか? という意味が言葉に込められている気がする。

 

 今まで出会ったアンデッドの魔物達は人型をしてはいたけど、腐っていたり、骨だったりして人とは違う物として見れた。でも、あの少女の魔物は違う。完全に人の姿なのだ。


 ――魔物とはいえ、人の姿、しかも幼い子の姿をした子供。その存在を殺せるのか?


 パオロさんは質問の意味が分かったのか、私達に背を向けたまま答える。


「……君達はあの魔物の子と戦って、そして殺せるかにゃ?

 君達では無理だろうし、そんなことオイラはさせたくないにゃ。

 ――あの子の事はオイラに任せるにゃ。だから君達にはあのデュラハンを任せるにゃ」


 もしかして、私達に《首なし騎士(デュラハン)》を任せた本当の理由はこの事なのかもしれない。


 確かにパオロさんの言う通り、私ではあの少女の魔物と戦えばその姿に躊躇って攻撃ができないだろう。


 エミリーも黙ったまま、迷っているような苦しそうななんとも言えない顔をしている。多分、彼女もあの少女と戦うのは無理なのかもしれない。


「さぁ、前を向くにゃ。今オイラ達がしなければならないことをするのにゃ」

 

 パオロさんに言われて私は前を向く。

 その先には稲妻の魔法から立ち直った、首がない漆黒の鎧を身にまとう一人の騎士。

 

 パオロさんはあの魔物を任せると言っていた。

 つまり、あの騎士もまた、元は人であるはずだ。流れる魔力を感じ取れば、微かに人の魔力が感じ取れる。


 ――あの騎士もまた、死してなお、動き続ける魔力の亡霊だ。


 そんな存在が私達の目の前にいた。






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