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喜劇!七副  作者: 花うどん
船越秀吉只今不在です。
8/33

胴上げワッショイからの?

 とは言ったものの……。


 歌とダンスか。


 このご時世、中等部連中は必須科目で習っているようなので真面目な大黒だってしっかりと授業を受けているはずだ。だから苦手と言ってもちょっとくらいは歌って踊れるだろうと期待していた。


 やってみなきゃわからないと、俺は手を叩いて大黒に軽くステップを踏むように言ったらば。


「うぅううぅごぉおおぉおー……!」

「先生、船越くんが奇声を発して授業に集中できません」

「船越くん、奇声を発するのは休み時間だけにしてくださいね」

「おおう!?」

「ふんっ」


 勝ち誇ったようにガリガリ君が鼻を鳴らした。


「すみません、でした……」


 あぁそうだった。今は授業中だったな。気づかせてくれてありがとう。


 昨日の大黒ステップを思い出していたら唸って頭を掻きむしるしかなかった。


 あいつのステップは破壊的だった。いやステップなんていう常識は無いに等しい。


 テレビ番組で元アイドルがひどいダンスを踊っていたがアレを超えるようなガッチガチな踊りもとい機械体操だ。


 音楽と供に左右に腰を振る人形のほうがもっとしなやかに身体を動かすだろと思い「ふざけてんのか?」と問えば「いたってまじめです」と真顔で返ってくる。


 ダンスはわかったから軽く歌ってみてくれと言ったらどこぞのリサイタルを聞かされているようで数秒もしないうちに待ったを掛けた。「嘘だろおい……破滅の歌かよ」って言ったら「ありがとうございます。照れます」なんてイケメェンスマイルが返ってくる。褒めてないから! っていうツッコミすら俺は放置してしまったよ。何なの。苦手って可愛らしいもんじゃない。

 ビックリするぐらいリズム感もなく、ビックリするぐらい音痴で大を三つつけて不得意分野ですと言っていいくらいだ。


 俺は頭を抱えて「一日考えさせてくれ」と大黒に言い寮に帰ったのだが――。

 さて。どうしたらいいもんか。


「うぐぐぐぐぐ……!」

「先生、船越くんがうるさいです」

「船越くん、これで二回目ですよ」

「あっ、すみません……」


 授業に集中できないこの有様。

 コツンと頭を机にくっつけて項垂れるしかない。

 あの現状を打破するにはするにはぁぁぁ?


「はい、では今日はここまで。船越くん」

「呼ばれてる」

「おっ、あっはい」


 ガリガリ君に小突かれ俺はハッと顔を上げた。


「上の空だった罰としてそこの教材一緒に運んで下さいね」

「はい……」


 あっちゃー。ですよねー。


 チャイムの合図と供にクラスの連中は次の授業の準備をする中、俺は教卓へ移動し先生が持ち込んだ機材へと目を向けた。


「これを運べばいいですか?」

「えぇ、重いので気をつけて下さいね」

「はい」


 重い? これがぁ? 嘘でしょう。こんな軽そうなスライドプロジェクター。楽勝でしょ?


「は? おっもっ!! ナニコレ?!」


 軽いだろうという思い込みが見事に裏切られた。

 コンパクトながらに米5キロ分が詰め込まれているような感じだ。

 嘘でしょ。スライドプロジェクターってこんなに重いの? そんなばかな。


「ふふ、だからいったでしょう?」


 いじわるそうに笑って先生は俺に向かって手招きをする。


「あぁ。落とさないように気を付けて下さいね? 足に落ちたらポキっと折れちゃいますよ」

「あっ、はい……」


 福井先生、サラッと怖いことを言ったよ。そんなこと言われたらビビっちゃうよ俺。

 両手でしっかりと機材を抱え、教室を出た先生の背中を追う。


「何先生だっけ」


 黒金色の長髪を三つ編で束ね、穏やかな表情を崩さない美麗な先生。

 笑顔も優しく、物腰穏やか。


 世界史の先生だったのは覚えているが名前は何だったか。


 廊下を歩けば女子達が「福井先生ーこんにちはー」と、先を歩く先生に声を掛けてお辞儀をしていた。


 あー、福井先生っていうのか。

 覚えておかないと。


「船越くん」


 先生はチラリと俺を見て前を向く。


「授業中、奇声を発していたようですが何か困ったことでもあったのですか?」

「え」

「おや、違いました?」


 あ~そうだよなぁ。俺ってわかりやすかった、よな。授業中に何度も注意されるくらいだ。鈍感な先生であっても気づくだろう。困ってませんと言えばウソになる。けど、話すほどでもないよな。


「あー大丈夫です。そんな深刻な話って訳でもない、ので」

「本当ですか?」

「はい」

「そっか。ならイイーンデスヨ」

「ミドリデスヨ」

「ふふ、それどっかで聞いたことあるなぁ。なんだったかなぁ」


 肩で笑った福井先生は歩くペースを俺に合わせ、隣に並ぶと俺の背中をとんとんと叩いた。


「何かあれば私を頼って下さい。力になりますよ」


 そう耳下で囁かれ不覚にもドキッとしてしまった瞬間、手元が軽くなった。


「あ、あれ。先生!」


 福井先生は振り向かずに俺の持っていた機材を片手で持ち手を振った。


 もう十分です。と言っているように見えた。


「まじか……」


 あの重い機材を片手で。


 細身ながら脱いだら筋肉がすごいのかもしれない。いや、インナーマッスルなの、か?


「見た目で判断するなってことだよな」


 見た目で判断するな。


「……もしかして」


 ハッと俺は一つのアイデアが浮かんだ。

 と、ほぼ同時ー。


「うぉっ?!」


 背後から忍びよる影に気づかず、視界が揺れた。グワンと一転、目の前の廊下が天井に変わると身体がフワリと浮く。


 正確には浮かされた。

 何事だと見渡すと数人が俺を担いで胴上げワッショイ。

 わぁー空を飛んでる見たいだぁ。


 ってちげぇ! 俺はアホかっ!


「確保!」

「確保っ」

「確保ぉ」


 相次ぐ確保という声。えっ俺、何かしましたかっ?!


「ちょ担ぐなッ俺を担ぐなっ!」


 次の授業間に合わくなっちゃうだろうがっ! という現実を突きつけたが、俺の情けない声は帯を引いて廊下に空しく響いた。


 肢体を持たれ身動きがとれず抵抗するだけ無駄だと俺、判断。

 一体どこに連れて行かれるのだろう。


「弁天様っお連れしましたっ」

「あぁありがとう」


 弁天……どこかで聞いた名前だ。

 子供を抱えるように優しく俺の身体は誰かに持っていかれ甘い香りに包まれれば他人の体温が伝わる。


「お前」


 見上げると見覚えのあるナルシストがニコリと微笑んでいた。


「君が僕を呼んでいる気がしたんだ」


 いや呼んでないと心の中で毒付いた。


「なんて言えたらかっこいいけど、すまないね。僕の都合で悪いけどこの時間しかとれなかったんだ。会えてよかった」


 いや別に取らなくてよかったんだが、と心の中で再び毒付いた。


「うわさに聞いたけど船越くん。子犬の試験を手伝うみたいだね」


「子犬……? あぁ大黒のか。まぁそうだけど」

「墓地でいちゃいちゃしてたとか、ヤいちゃうな……」

「いや、いちゃいちゃはしてないぞ」


 どんな思考回路してんだ、と弁天に対する俺の評価は急降下だ。だとしても、弁天はへっちゃらそうだが。


「何故それを知っている?」

「いちゃいちゃ?」

「違うぞボケスケ」


あっ。だめだ。先輩にボケとか言っちゃった。今気づいたけど彼のネクタイが青だから一個上なのに。まぁいいか。


「僕は情報網が広いから。特に君に関しては」


 俺のプライバシーはどこにあるんだナルシスト野郎って言っても、こいつにはノーダメで終わるし「君のプライバシーは僕のプライバシーと同じ」とかわけわからんこと言いそうだよな。お? 俺、こいつのことわかりたくもないけどわかってきたかもしれないぞ。


「何か当てはあるのかい?」

「まぁな」


 探られるような弁天の視線を感じながら俺は答える。


 さっきアイデアが浮かんだばっかりだったのだが、拉致られたことでスッポーンとどこかに飛んでいってしまったので俺は悟られないように嘘をついた。まぁ、そのうち思い出すだろう。うん……というか思い出してくれないと困るぞ俺。変な汗も出てきちゃうって話。


「僕も協力してもいいよ?」


 唐突もなく弁天はそう言って俯く俺の顎に手を当て翡翠の瞳がジッとこっちを見つめた。嘘はついていない、と思う。けど。


「裏がありそうだな」


 ぺしっと弁天の手をはたいて、俺はナルシストと距離を置いて対等に立つ。近すぎず遠からず。

 弁天は肩を竦めてシレッとこう返す。


「もちろん」と。


「子犬の試練、僕がいれば問題ない」


 弁天は一歩近づく。


「君が僕に協力してくれるなら」


 俺は一歩下がる。


「自信あるんだな」

「うん」


 確かに協力者は必要だが、初対面に近い他人を信じれるほど俺は素直じゃない。そんな心を読まれたのか弁天は微笑んでこう言った。


「この学園が神様の学園っていうのは、偽りでもなく本当のことだと、知っているよね?」

「あぁ」

「僕の名前を聞いてピンと来ない、かな?」

「名前?」


「ベンテンサイ」


「ベン、テンサイ」


 オウム返し。


 ベンテンサイ……? 聞いたこともないがー……。何かの神様だろうか。大黒は「神様の末裔」が入学する学園でもあると言っていた。だとしたらこのナルシストもその類なのだろうか。だよな。

 何かヒトとして完璧すぎる外見だしオーラが違う気がする。


「結構有名だと自分でも自負してたんだけどなぁ。ふふ、まぁ少し違うからなぁ」


 クスクスと弁天は笑った。


「音楽なら任せてってことだね」

「ほう」


 あの破壊美声大黒破滅踊りが改善されるのなら心強いことこの上ない。


 それに俺は約束をした。


 必ず合格させると。


 その責任が俺にはある。


 なら答えは出ている、よな。


「その自信、絶対だな?」

「うん、君に誓って嘘は付かない」

「わかった。信じー」


 る、と言いい終わらないうちに弁天は俺に飛びついて抱きついてきた。

 あぁもうスキンシップの激しいやつだなっ!


「もうこのまま愛しあっていいんだね!」

「どう脳内変換すればそうなるっっンだぁっ」


 キスをしようとする弁天の顔をひっぺ返し、傍らで待機をする付き人達に「弁天様落ち着いて下さい!」と羽交い絞めにして距離を置いてくれた。


 ありがとう、付き人達。君らがいなかったら確実に押し倒されてしまうところだった。


「でお前の条件はなんだ?」


 そう問い掛けると弁天は困ったようにはにかんでこう言った。


「僕は困っている人を見過ごせないタイプでね。お願いされて城廻り部っていう部に仮入部しているんだけど、その城廻り部が城攻め部と今揉めちゃってて」


「ほぉ」

「部活動存続を掛けて争っている最中らしいんだ」


 変わった部活動があるもんだな。と思ったが部員と雇員さえ確保すればどんな部活動でも受理されると聞いたことがあるのだが自然と揉めそうな部活動だ。


「和解なんてありえないだろうから白黒はっきり決めるみたいなんだけど困ったことに僕のこの美貌さえ利用しようとしている」


「う、ほぅ」


「たとえ仮入部だとしても僕は城廻り部の部員……手伝わざる終えない。だが僕が彼らに加担すれば城攻め部の存続はない」


 弁天の自信はどこから沸いてくるのだろう。

 それで負けたら恥ずかしい口だけのただのナルシスト決定だ。


「そこで君には城攻め部へ仮り入部して、彼らに協力して欲しいんだ」

「んん? なんでだ」

「フフ、詳しく教えて欲しいならキスさせてくれる?」

「結構です」


 俺即答。

 キの段階で俺は言った。


「ごめんね、僕も君を頼りにするしかなかった。出来ることなら愛しい人を争いに巻き込ませたくなかった」


 演技とも本音ともとれる曖昧な感情。

 とても悲しげな表情。

 なぜだろう。心がチクリと痛むのは。


「あぁごめん。そろそろ行かなきゃ。それじゃあお願いするよ船越くん」

「あぁ」

「放課後、食堂で会おうね」


 そう言って弁天は一部の付き人達と去って行き一部の付き人はここへつれてきた時と同様に。


「失礼します船越様」


 からぁのぉ~? ワッショイ胴上げ。えっ。おいおい。


「ちょ、だから俺を運ぶなっ!運ぶなぁあぁぁ!」

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