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試験とは。
ある物事の性質や性能をためしてみること。
おぉう。なんだ試験か。
「えぇえい! 俺の中のウィキぺディア!」
「先輩何言ってるんですかっ! とりあえず埋まろうとするのやめてくださいっ」
大黒になだめられ多少は落ち着いたが試験を手伝って欲しいという彼の言葉が理解できない。
「つまり俺にカンニングの片棒を担げってことだろ?」
俺の問いに大黒は「いいえ」と首を振った。
「世間一般で言う試験は主に筆記で己の能力を試しますが僕らの試験は普通とは違うんです。自己申告で意志を伝え神格を上げます」
「ほぅ」
「その試験内容は一週間前に伝えられるんですがそれがー……」
「それが?」
「歌とダンス、なんです……」
一瞬にして気が抜けた。気の張っていた肩も下がった。神様遊びすぎだろ。
「そっか。がんばれよ」
「あぁ待ってください!」
墓地から去ろうとする俺の腰にしがみついて大黒は離れない。のでそのまま引きずることにする。
「待たん!」
「歌とダンスなんてそんな試験ありますか?! なんのオーディションっていうんですっ?!」
「しらねーよ! てかもうそれ神様関係なくねっ?」
「関係性はないとは言いがたいですが試験は絶対なんです。僕の苦手分野なんですよっ」
「それくらい自分でなんとかして克服しろっ仮にも神様の末裔なんだろっ?」
「神様でも向き不向きがあるんですっ。努力でとうにかなるくらいならもうやってますっ」
「そうかそれはお気の毒さまっ! 俺も歌とダンスは苦手分野だし力にはなれん!」
「……そんな……」
腰に回った力が弱まった。
「何度も、何度も僕は試験を受けました。それも全部落とされました。僕は常に全力で受けていたというのに伝わらなかった。先生にこれが最後だと宣告されたんです。この試験に落ちてしまえば僕は退学になります……退学だけは出来ないんです……。僕がやらなきゃ……僕しかいなんです」
「……」
「頼れるのは先輩しかいないんです……」
ペタンと地面に膝をついて大黒は押し黙って俯いた。もうこの世の終わりだとでもいいたそうに青ざめて。大黒も絶望している。
『はぁ……』
重なってみえた。受験戦争に負けた俺と。
あの時の俺もこうやって情けない姿をしていたんだよな。
そんな負け組である俺を救ってくれたのは大黒で、今の俺がいる。
なぁ大黒。お前はあの時どう思った? 俺を惨めなやつだと思ったか? 情けなくすがりつくしかなかった俺を心の底であざ笑っていなかったか?
「ふぅ」
なんてな。大黒、お前はそんな奴じゃないって俺、知ってる。
いつだってそうだったよな。俺のことになると自分二の次で俺のことを優先させちゃうよな。
『僕はいつだって、先輩の味方です』ってね。
そう、いつだって――。
『いつだって、貴方の傍にいます』
なんでか懐かしい気持ちが。
大黒、お前を見てると時々、すっげぇ懐かしくなるよ。
なんでだろうな。
「そんな顔をするな。イケメンが台無しだ」
「先輩……」
浅知恵だが俺のできることをしよう。大黒が俺にしてくれたこと、口では文句ばっかり言ってるけどさ、めちゃくちゃ感謝してるんだ。俺の絶望を救ってくれたから。
「約束する、絶対合格させてみせる」