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喜劇!七副  作者: 花うどん
船越秀吉只今不在です。
6/33

墓地に呼び出しくらいました。

「う、うしみつどきぃぃぃ!」


 がばぁ!と、上体を起こし俺は目が覚めた。


「なんだ……まだ丑の正刻か……」


 うなされる夢から覚めたら現実もうなされた。

 それも後輩が丑三つ時なんて言うもんだから俺も昔の人みたいに口に出してしまった。


「墓地だったけかなぁ」


 シーツの上で揺れる携帯のバイブを消して昼間の記憶を辿ってひとあくび。

 約束をしたわけではないが後輩が墓地に来て欲しいと言ってた。


「いくか」


 可愛い後輩のため。呼び出してまで俺に伝えたい想いがあるというのなら人には言えない悩みでも抱えているのだろう。悩みの重さなんて人によって違うと思う。俺の父親を例に上げて言えば『おとーさん、デコから来てない? ねぇヒデくんおとーさんデコからきちゃってるよね? やばいよね? みてよちゃんとみて。どうしようデブチビハゲの嫌われ三種の神器揃ったらどうしよう! あぁあ! おとーさんハゲたくないよ! どうしよぉひでくぅぅん!』などと部屋中走り回って悩みちらして挙句の果てには鬼嫁である母親にフライパンで顔面を殴られていた。


 俺の父親のハゲの悩みと一緒にすんなと思われたらマジゴメンだけど。


 まぁ理解はできてやれなくとも、悩みなんて人に言ってしまえば気持ちは少しばかり楽になるだろう。

 大黒だってきっとそうだ。


 私服のまま横になっていたのでそのまま寮を出て墓地へと向かう。

 墓地は寮から出て『嘆き通り』という細道を真っすぐ進む。

 人気のない曲がりくねった道を少し進めばすぐ目的地に着く……はず。

 迷ったら困るので明るい内に下見してきたので合っている……はず。

 いや、自信を持とう。合ってるって。寮の近場に墓地ってそうそうないし。

 覚えてる。


「……」


 しかし待ち合わせの時間と場所はどうにかならなかったものか。


 街路灯が路上を照らしてはくれるものの霊の類は信じてはいないが内心は怖い。「霊などいない」と暗示をかけるようにぶつぶつ呟き視野を狭めて歩くのだがつい「振り返ったら何かいたらどうしよう」と余計な考え事ばかり頭を過ぎってしまう。ぼっちだから余計に。


「考えるな俺、考えるなーシンプルイズベスッ……ぎゃぁ!」


 パキと枯れ木を踏んだだけで全身飛び上がってしまうこの有様。

 はぁぁぁぁ?! もう恐怖を通り越して怒りの感情が込み上げてきた。


 もう帰りたい。


 そして泣きたい。


 一歩進んではビクビクして二歩下がるを繰り返しながら墓地へたどり着いたものの、すっかり精神が衰退してしまい肉体もドッと疲れてしまった。


「近いのにすっげー遠く感じたな……」


 はぁと膝を曲げて腰を下ろす。


 等間隔に並べられた日本でお馴染みの墓石、奥は外国で良く見かける墓地が並んでいるようだった。柳が奇怪に揺れるのが怖いので見たくはないが仕切りを作るということは埋葬の配慮だろうか。所々、墓地が荒れているようにもみえるが見なかったことにしよう。まじ怖い。何なの夜中の墓地。


早く来いや大黒。はーやーくー。お願いだから早く来て。まだ? ごめんなさい早く来て下さい! お願いします! と強気から弱気な気持ちに切り替わりつつお願いしながら待っていると――。


「船越先輩」


 と。静寂な闇の中、地上から湧き出たように俺の名前を誰かが呼んだ。


 聞き覚えはある、が……。俺が待つ後輩は声変わりをしていない、もっと高い声だ。


 なら誰だ。


「俺は後ろを振り返りたくない」


 怖いから。怖すぎて背筋が凍っているから。


「絶対にだ」


 正面には誰もいないが俺はへっぴり腰のまま立ち上がり前を見据え、誰もいないのに指を差した。

 背後の人物にそう伝えると、クスクスと笑い声が後方から聞こえた。


「すみませんお一人にさせてしまって」

「ひょ?!」


 背中が暖かさに包まれ引き寄せられた。驚いてその温かさから逃れようとしたが、何だこのガッチリホールドは。そんなにギュウギュウとくっつかれては逃げようにも逃げれないではないか。「先輩、逃げないで。大丈夫ですから」と夜風にあたった身体を気遣う仕草は間違いなく大黒に似ている。


「怖かったでしょう」


 背中越しに響く声は優しい。あぁやっぱり大黒だ。そう確信できる。なのに、声と体格が……あまりにも違う。大黒? え、大黒なのか?


「お前、本当に大黒か?」

「はい」

「いやちょっとまって。俺の知っている大黒は俺より身長は低いはずだが」

「はい」

「台に乗ってたりブーツ履いてたりして身長を伸ばしたわけじゃないよな。んで声を変えたりとかして、ない?」


「勿論です」


 ということは。


 数時間で成長期がグングンきて俺の身長を越してしまったのか。または成長を一時的に促進させる薬用物でも摂取して大きくなったとでもいうのだろうか。


 そんな馬鹿な。


 遺伝子が原因で男から女になったり不規則な成長を遂げてしまったり突然変異の例はいくつかある。

 だとしたら彼もその一人なのか。


 それとも人間の異端児とでもいうのか。


 あるがままの事実を前提とすればいいとしたら今まで生きてきた俺の現実はどこにあるというのだ。


 俺はゆっくり深呼吸をして肩から回された腕を外し振り返り、大黒を見上げた。


 月明かりが憂いある表情を照らしていた。


 大人びたてはいるものの俺の知っている大黒がそこにいた。


「俺をここに呼んだのはこれを見せるためか?」

「そうです」


 と、大黒は頷いた。


「この場所で、今の時間から一時間のみ僕は僕でいられる」


 枯れ葉が舞えばトビ色の前髪が風に揺れる。


「これが本当の僕、大黒天ダイコクテンです」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 ドキリとして見惚れた――などと、思ってしまった自分がいたことにビックリだ。

 いや、今はそんな感情置いておいてだ。


 手を前に突き出し「少し時間をくれ」と大黒に待ったをかけた。


 突然のカミウングアウトにどう対応すればいいのか模索し頭を掻き毟った。


 禿ない程度に。


「わかった。あれだな。うん。考えないほうが楽だな。そうそう、シンプルイズベスト、うん。よし。お前は魔法に掛けられて大人になった大黒ってことで話を進めようじゃないか」


「ありがとうございます」


 いつもの大黒スマイルが大人になったことでイケメンになってしまった。


 ずるい。なんかずるいよな。


「これから説明することは、嘘のようで本当の話です。僕を信じてくれますか?」

「あぁ、まぁ」


 曖昧な返事だったが大黒は笑みをこぼししれっとこう言った。


「僕は書面上今年で15ですが、本当の年齢は1万とんで27歳です」

「閣下か!」


 ビックリした。もう頭上にビックリマークがつくぐらい俺は年齢にくいついた。

 年齢詐称にも限度があるだろ。すぐツッコミだって出来ちゃうわ。そんなん。


「閣下……? ではありませんが、この島に滞在する者と学園の生徒は大体一万年は生きています。中には何万年生きたのか忘れてしまった方もいますがね」


 わー。高齢化社会がこんなに深刻化していたとは、という域を通り越しご長寿世帯が押し寄せている。

 いや、同い年と思っていた奴らが皆ご老体……。

 あんな奴もこんな奴も、綺麗なお姉さんも全部?! 嘘でしょ……。見えない見えない……。


「うん。全然見えない」


 再び俺は頭を抱えることになった。


 え~? だから友達が出来なかったのか。ホーモ貴公子以前の問題に直面していたというのか。自分から話かけても軽くあしらわれていたしな、そりぁそんなに歳が離れていれば俺はクソガキにしかみえないだろうし、話も合うわけがない。だとしてもだ。もう少し若者とコミニュケーションをとってもいいじゃないの~?見た目は若すぎるくらいだしさぁ!


 ん。


 いやいやいやちょっとまて俺。今考えるとこはそこか?


「先輩、大丈夫ですか?」


「あぁ大丈夫だ。今そんな若さを保ったままうん万年生きる人間がこの世界に存在しているのか全力で探している」


 どうがんばってもフィクション。


「僕もそうですが神様の末裔ですからね……ヒトに近い存在ですけどちょっと違うんです」

「神様の末裔なら仕方ない……ってならないからな!」


 あぁもうこのまま俺も墓地に埋めてくれ!


「先輩っ!墓を荒らさないでくださいバチがあたりますよ! あーううん、そうですね……同じ時間軸を過ごしていても動物と人間では成長過程も寿命も違いますよね。それと同様に考えて頂けたらと……」


「うぐむむ」


「この学園は人間社会を学ぶ課程、神様の末裔が神様の力を授かり本当の神様になるために入学する場でもあります」


 埋まろうとする俺を止めながら説明する大黒。


 お互い必死だ。


「僕は別に神様になる力なんて欲しくありません。もちろん、神様の末裔だからといって神様になる必要もありません。選択は自由です」

「う、うん」

「ですが僕のおじいちゃんが守っている神力がおじいちゃんの寿命とともに弱まってしまって人間に与える効力もなくなりだしてしまっているんです……。寿命だから仕方ないにしても、後を継げる神様は今のところ僕だけ。僕は――失いたくなかったんです……色々と。だから、ここに入学する他ありませんでした……」


「そうかそれは大変だな!」


「僕の神力をおじいちゃんに分けることで、おじいちゃんは神様として維持出来るんですが根源である神力が弱いせいもあって僕の力も微力で不安定なんです」


「そうかそれは大変だな!」


 同じセリフを繰り返した。


 利く耳なんて持っちゃいない。


 あぁもうすごく嫌な予感がする。


 第六感なんてないが俺の感は良く的中するほうだ。


 だから全部聞く前に埋まってしまいたい。


「僕の」


 僕のー名前はー! 船越秀吉ですー! よろしくねっ!



「僕の試験に協力してください!」



 おおう?

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