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「おっせぇえぇえー!」
俺を中心に集中線希望。
皆の心の叫びを代弁したと思う。
もう30分以上待たされているのだ。大人しく待つなんてできるわけがない、なぁそうだろ?
「静かにしろよ」
「場違いにもほどがあるわ」
「空気読めよ」
「さーせん」
ものすごい皆に攻められました。
何だよ。もっとオブラートに包んでくれてもよくねぇ?
ドストレートにそんなボール投げられたら豆腐メンタルぐっちゃぐちゃになるぞ。
泣いちゃうぞ。
「短気は損気、ですわ若者。遅れて申し訳ありません。会議が長引いてしまいましたわ、メンゴメンゴ」
死語を語尾に全く反省していないボンキュボンな女性が教卓の前に現れた。あのムチムチな女性が先生というのだろうか。胸元を大きく開けたシャツから谷間がチラリ、しゃがんだら見えそうで見えないギリギリラインのミニスカという学業の場では似つかわしくないまったくけしからん格好をしている。
こう、健全な男子生徒を誘惑する教諭にしか見えないのだがそれは俺がおっさん思考でありエロイ目で見ているからだろう。うん。30分待たされたのも帳消しにします。ハイ。
「皆さんおはようございます」
うっふんとかあっはんとか語尾につけてもおかしくはない色気声。
はぁぁぁ? いいの?! これ野放しにしていいのっ?!
「私は島根出雲と申します。私のクラスになったからには愛ある生徒になって貰います。それにともない全力で貴方方をサポート……しません」
「ぬぬ……?」
俺を含め、教室内がざわついた。
「愛とは何なのでしょう。ひとえに愛と言っても幅広いものです。異種多様にある愛の中、貴方だけの恋をし貴方だけの愛をはぐくむことでその愛を理解することができる。ですから私は皆さんのサポートをすることができません」
何この愛の名の元生まれてきましたよ的な戦士は。
いきなり愛談義を始めてきたのだが、これは突っ込んでいい所なのだろうかと周りを伺った。
隣のガリガリくんは熱心にメモを取っていた。
どうやらツッコミ所ではないらしい。
「愛こそがあなた方の神格を上げるでしょう。しかし! 愛を知るには恋をしなければなりません。ゆえにまず恋をしなさい。以上。では良い学園生活をっ」
「すんませーん。待ってください」
颯爽と登場して颯爽と教室から出ようとする島根先生を呼び止めれば、投げキッスが飛んできたので避けた。
背後で「ぐほぁ!」と悩殺されたような絶叫が聞こえたのだが気にしない。
「すんません、言ってる意味が理解出来ないんですが」
1人だけおいてけぼり感が半端ない。
疑問を投げかけると島根先生は「あぁ」と思い出したように俺に向かってこう答えた。
「あらら。君は確か、船越秀吉くんね。船越くんは一般応募でこっちに来たからチンプンカンプンさんなのね」
「えぇ。まぁ」と頷くと島根先生は親指と人差し指でワッカを作り顔を両手で覆い、ワッカから「指変態メガネ」で俺を凝視。
ふざけてんのか?
「うぅんそうねぇ……ほほぉー見えました! 貴方はホモの星の下に生まれた貴公子。名づけてホーモの貴公子。生まれもって男から愛される輝きを持っているわ。同姓から好かれるなんて素晴らしいわぁ」
「なに?!」
なんですかそのホモを侮辱するような言い方は。ホーモの貴公子って何デスカ。
それじゃあまるで俺がホモみたいな言い方じゃないか。俺はホモォではありませんよっ、ノーマルですよ?! って否定したいのだが否定すればするほど「俺はホモです」と肯定しているように思われるのも嫌なのでグッと堪えた。辛いよ俺。
否定できないのが俺、辛い。
「ホモだって」
「ホモォなの?」
「貴公子らしい」
「男好きの節操無し?」
「まじか~」
いやなにこの温度差。急に氷点下ゼロになっていませんか?
こそこそこそこそ、ほもほもほもほも聞こえるのは気のせいでありたい!
「やばい」
……クラスの皆が引き始めいてる……?!
「同性愛も立派な愛の形のひとつ。でも、幸せならオッケーです! ってね? 船越くん、なるようになるさ! ごめんなさいねぇ時間が押してるのバイナラ」
「古っ!」
いい加減な対応にそうツッコミを入れれば「ホモ」のレッテルを貼られた俺の背中に冷ややかな視線がグサリグサリと刺さるだけであった。
ひぇぇぇぇぇ。俺、入学早々泣きそう。