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喜劇!七副  作者: 花うどん
船越秀吉只今不在です。
2/33

*

「さよなら。俺の青春」


「先輩、せーんぱいっ。ご飯、お口からこぼれてますよっ。現実に戻ってきてくださーいっ」


「くっそ。元はと言えばお前のせいだ! お前のその肩、肩パットぱんぱんにつめて肩だけ世紀末にしてやろうか?!」


「あ……はい。先輩だったら何されてもオッケーです。あでも……ボクが色々先輩にしたいなーって思ったりしちゃったりなんかしちゃったりし」


「しちゃったりなんかしちゃたったり多いわっ!!」


 ガターンとテーブルに両手をついてつい声を荒げれば日替わりランチが数センチ浮き俺も食堂から浮いた。


「ひそひそ」

「ひそひそひそ」

「ござるござるござる」

「いや、ござるござるはおかしい」


「先輩、とりあえず落ち着いて座りましょう。目立ってます。先輩目立つのお嫌いでしたよね」

「解せぬ」


 やるせない怒りを抑えるのに俺必死。


 何故こうも業火の怒りが収まらないのか。


 原因はわかっている。


 大黒天に誘われ入学した高校ー……そう今現在俺がいるココだ。


 受験に失敗した俺は流されるまま大黒と供に車に乗せられこんな立派な橋なんてあったっけ? という疑問とともに本土と一直線に結ぶ高速道路を走り離れた孤島へと連れて来られた。


 まさか島全体が学園だとはその時は思ってもみなかったが。


 そこから筆記試験も面接もなく俺は寮に案内され「面倒な書類はこちらでやっときますので入学式まで自由にしてオッケーですよ。あとパンプレットここに置いときますので目を通しておいてくださいね」と大黒に説明され親が荷造りしたであろう荷物を受け取り別れたのだが――。

 中房だというのに大人の対応だなと大黒を関心し、パンフレットは入学式の日にちだけ確認して後の細かい内容はざっと目を通して投げた。読む必要ないだろうと判断したのだ。


 寮暮らしになるとは聞いていなかったが自立心も付くだろうし丁度いいなと前向きに考え、特に散策する気にもなれなかったので荷物を整理し時折遊びにくる大黒と他愛もない話をしつつ、島の案内パンフレットを眺めたり、大黒に流されるまま制服の仕立てをしにいったりした。

 ダラダラと毎日を過ごしていればあれよあれよと数週間がすぎ――。


『新入生は直ちに体育館にお集まり下さい。繰り返します。新入生は直ちに体育館にお集まりください』


 エコーの掛かった寮内放送がかかり、あぁ今日が入学式なのか。

 なんて暢気に思考を巡らせながら放送を聴いていた。


 受験に失敗してどん底を見ていたのが嘘のようで俺は浮かれていたんだ。全てが急すぎるのか俺の準備が遅すぎるのか、そんな悠長な時間をまったり過ごしブレザーに袖を通して体育館に向かった。


「一年生はこちらへー。名簿に記入おねがいしまーす」


 そういえば。


『この学園はエリート揃いでお金持ちが多いんですよ』なんて大黒が言っていたのを思い出した。


 確かに品格が良さそうな容姿端麗な男女が目に付き、ここって本当に日本ですか? と訊ねたくなるような環境ではあった。凡人の俺がここに居て良いものだろうかと不安になるくらいだったが俺の気持ちを察してか『大丈夫です! 自信を持ってください、先輩はここにいていいんです』と大黒がイケメェンなことを言うもんだから気も楽になった。「ありがとな」とお礼を言ってニンマリスマイルを大黒に向けると大黒は『ふぐっ……』とイタイダメージでも受けたのか心臓を押さえていた。すまんて。大黒。俺の笑顔そんなに気持ち悪かったか? すまんてと心の中で謝っておいた。


(さーて受付受付)


 キョロキョロと辺りを見渡せば俺と同じような連中が受付に固まっていたのでその流れについていく。共学だが男の割合が多い印象だった。うん。女子のスカートの丈も悪くない。校則が緩いのか膝上もオッケーらしい。グッジョブ女子。口元が緩みすぎるのでとりあえず拝んでおこう。


 はー。男子校じゃなくて良かった。


 ガヤガヤと雑談が賑わう中、受付で自分の名前を見つけ記入。


 「入学おめでとう」

 「ありがとうございます」

 歓迎されると緊張する。

 へへへと愛想笑いを浮かべ周りに見習って、他の新入生同様体育館の前でその扉が開かれるのを待った。


『ようこそ諸君!』


 扉が開かれ流れに沿って進むと頭上から割れんばかりの拍手が降ってきた。


「うぉっ」


 体育館はまるでオペラハウスだった。え。嘘だろ。これが体育館? 俺の想像してた体育館とまったく違って目が点になってしまう。驚いて固まっていると後ろから小突かれ、ごめんと謝って進んだ。


 え。待ってくれ。俺たちが舞台に上がる側だったの? 軽く混乱してきたぞ。ちょスポットライトまぶし、なんて思えば対角にスポットライトが当てられ仮面をつけた男が登場した。


『歓迎しよう! 神様による神様のための神様の道しるべ、八百万学園へ!』


「ぷっ……」


 思わず俺は吹いた。


 パフォーマンスにしても洒落のわかる学園だと。どこの宗教団体だと。


『君たちは神様の申し子……。勉学に励み神様の力を身に付け人々を幸せにしようではあーりませんか。以上』


「はい。学園長からのお言葉でした。これをもちまして入学式を終了致します」


 へぇ。


「えええええええ?!」


もう終わり?! えっ。三分も立ってないんじゃないか?! って驚いてるの俺だけ! なんで皆不思議に思わないのっ。驚いてる俺が逆に不謹慎?


 順番に舞台から去っていく新入生に流れつつ俺は前を歩くガリガリくんにコソコソと話をかけた。


「あの、入学式って今ので終わり……ですかね」


 同級生に敬語を使っている俺、小心者。


「そうだけど」


「短すぎない、か?」


「そう? 普通だけど」


 俺の一般常識が吹っ飛んだ。


 今ので普通……だと?! ますます俺の頭の中は疑問符だらけになってしまう。どゆことなの?!


「ははは~神がどうのとかってお、面白い洒落だよなー?」


「そう?」


「わかった洗脳されてんだろう? 洗脳教育受けてきたんだな」


「洗脳? なんで? 君も神様になりたいからここにいるんじゃないの?」


「ぜ……全然……」


「ふぅん。変だね」


「そ、そうだね……良く言われるんだーあははー」


「あはは」


 ってわらえねぇーよ!!


 一体どういうことだ……。普通の高等部となんら変わりはないとは思う。


 はず。なのに、何かがずれていて何かがおかしい。

 何なんだ。ここは一体何なんだ。

 変な汗も流れるって。

 神様? え? かみさま?


 違和感が頑固な汚れなみに落ちないまま、だだっ広い教室へ案内され先生が颯爽登場するのを今か今かと待った。

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