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魔術師と王子  作者: jus
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 魔法が存在するとあるファンタジー世界の一国の王都。その王都の王宮近くに存在する魔術師の工房にて、二人の人物が話し合っていた。


***



「我輩はノゾキをしなければならない!」


 そんな人目憚るべき発言を堂々とされる我が国の第四王子。


「というわけで、そなたは我輩の望みを叶えるのだ」


「なにが『というわけ』なのかはわかりませんが、そんな非人道的な行為に加担はしませんよ」


 キッパリと断る。ノゾキは犯罪です。



「我輩はそなたの主なのだぞ。ならばその命に従うのは当然のこと」


「いくら主の命でも国法に逆らうような命には従えません。それに外道へ進もうとする主を諫めるのは当然のことです」


「そなた、その認識は違う。ノゾキはバレた時にはじめて外法とみなされるのだ。要はバレなければいいのだ」


 何をいってるんだ、この馬鹿王子は。



「それは詭弁です。とにかくそんな行為に私は協力しません。第一なぜいきなり……」


「ふふ、聞け我が友よ。ついに我輩の前に将来の伴侶となるべきかもしれぬ女性が現れたのだ」


「へぇ、それはすごい。おめでとうございます」


 とりあえず適当に返してみる。



「うむ。というわけで我輩はノゾキをする必要があるのだ」


「なんでまた」


「そなた話を聞いていたか? その女性は将来の伴侶になるかも(・・)しれない者なのだ」


「はあ」


「で、あるからして我輩は彼女のことをもっと知り、我輩の伴侶たりうることを判断しなければならないのだ」


 なるほど、要するに気になる女性のことをもっと知りたいのか。



「要するにストーキングしたいと」


「人聞きの悪い。これは神聖なるジャッジメントだ」


「呼び方をかっこよくしたところでやることは卑劣極まりないですがね」


「人の上に立つものは時には卑劣で冷酷な判断もくださねばならないのだ」


 こういう卑劣で冷酷な判断は本当にいらない。


 ……とはいえ一応それなりに近しい仲ではあるので、この残念王子の恋路となれば応援はしたい。なにせこの王子は悪名高い馬鹿王子で、そういった機会がほとんどないのだから(私の知る限り)。



「そなたは我が国一の魔術師。当然我輩の助けになるような魔法具も作れよう」


「あのですね、そんな犯罪気味たことをしないでも普通にアプローチすればいいじゃないですか」


「ぬ、普通にアプローチとは?」


「だから普通に話しかけてお互いのことでも語り合えば……」


 それを聞くと王子は顔を真っ赤に染め。



「そ、そそそんな恥ずかしいことできん!」


「話しかけてお互いを語ることのどこが恥ずかしいことですか。今のその殿下の態度のほうがよっぽど恥ずかしいですよ」


「そんなこと出来たら初めからそなたを頼りにここへはやってこんっ」


「そんなこと堂々と胸を張って言えることですか」


「とにかく助けてくれ! 最近、我輩の心は彼女でいっぱいになって張り裂けそうなんだ!」


 なんて初心な。



「大丈夫ですよ。殿下は腐っても王子なんですから。無碍にする女性なんていないですよ」


「だが、万が一拒絶されたら、我輩は……我輩は……っ」


 頭を抱えて首を振り、錯乱状態に陥る王子。とても鬱陶しい。


 

 犯罪行為に手を貸すのは気が乗らない……が、この王子の恋路は応援したい。とてつもなく不器用なこの王子はもはやストーキングでのアプローチしか考えられないようだ。

 となると私ができることといえば、確実にバレないように遂行する手助けをすることくらいか。

 

 ああでも、失敗したとしても……いいクスリにはなるか。


「わかりました。わかりましたよ。とりあえずその気になる女性をストーキングする魔法具がほしいと」


「ストーキングではない!! 神聖なるジャッジメントだ」


「どっちでもいいです。わかりました。確か以前、軍用に開発したやつで役に立ちそうな魔法具があったと思うのでお待ちください」


「おお、さすが我が心の友。この礼は必ずや我輩が王となったときに返そう」


 錯乱状態から一転、尊大な態度で王子は言う。


~~~



 私は両手に壷を抱えて王子の元へと戻ってきた。


「ぬ、それが今回手助けになる魔法具か?」


「はい、これは魔法がかけられた染料なのですが、これを塗ると他の人から見えなくなるんですよ」


 抱えてきた壷を床に置き、その中に貯めてある緑の染料を見せて答える。



「ただ、この染料には一つ欠陥があるんですよ」


「欠陥?」


「それは皮膚に塗った部分だけ透明化するってことです。つまり、全身裸でないと結局バレてしまうんですよね」


 そう。この染料は人体の魔力に反応して効力を発揮するものなので、鎧や武器、服に塗っても効力を発揮しないのだ。全身に塗っておいても、その人が身に着けているものだけが宙に浮かんで見えるという不気味めいたものとなってしまう。

 もともと偵察や奇襲を行う者のために開発された魔法具ではあったが、さすがに戦地で全裸というのは問題があったのかお蔵入りしてたモノだった。



「ふはは、そんなこと。我輩はかまわぬぞ。全裸でも」


 マジデスカ。ストーキングに公然猥褻がプラスされてしまった。

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