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あめ

作者: 高菜麗

ーーー雨が大嫌いだった。

 うねる髪、湿気でべたつく体、暗く太陽を独り占めするように厚い雲がかかる空。カラッと渇いた空気の夏になる前に梅雨があることが憎らしく思えた。

……最も、この島国でカラッとした天気といっても他国比べればじめじめしているのだが。


 降水確率20%など信じるべきではないと思った。図書館内にて霧のような細かさで鬱陶しく降る雨を睨みつつ、腕を枕に机に突っ伏していると突如視界が暗転した。


「だーれだ」

「…伊織」


 特に動揺も反応もせずに暗転した世界を眺め、それからゆっくり答えると、彼女ーー伊織(いおり)は俺の目元から手を引いた。

 体を起こして彼女のいるだろう方向へ向き直る。眉を下げ不満げに唇を尖らせた、まるで悪戯に失敗した子供のような彼女がそこにいた。


陽太(ひなた)、また雨に憂いてたの?」

「なんでそう思ったの?」

「そういう時は反応薄いから」


 そう言いながら伊織は肩を竦め、やれやれというように首を左右に降る。いつの間にか机に置いていたらしい学生鞄を肩に背負い直す伊織を見ながら、俺も立ち上がり鞄を文字通り背中に背負った。


「飴なら好きだけどなぁ」


 ポケットからイチゴミルク味の飴を取り出しながら大袈裟にため息をつくと、伊織は俺の袖を引っ張りながら口を大きく開ける。仕方ないので包みを開けてその中へと放り込むと、口を横に広げて幼く笑いながら俺の腕に自分のを絡めて歩き出した。


「んふふ、雨もいいものなんだよ?これみたいに食べたりは出来ないけど、作物にも必要なものだし自然にだってそう。雨になったらレインブーツも履けるし…」

「あぁ、伊織は雨好きなのは分かってるよ。確かにそういう一面もある。けど、俺にとっては嫌なことばかりだ」


 お互いが"友達だった"時からこの会話は繰り返されているんだ。雨好きなのは重々承知している。向こうも俺が雨嫌いなのを重々承知している。けれど、雨の日は必ずといってもいいほど、この話が繰り返されている。


「そうだけど…あ、今日陽太傘ある?」

「まさか。20%で持ってこようと思うかよ」

「ふふん、だよねー」


 靴箱につき、組んでいた腕を外しそれぞれ靴を手にしながら俺がそう答えると何故だか彼女は機嫌が良さそうに同調する。そして、カバンからいつも持ち歩いている花柄のクリーム色の折り畳み傘を取り出した。


「しかたないから、相合傘して帰るしかないねー」

「いや、別に霧みたいなやつだから傘なんていらな「いいからいいから!」


 周りから普段から囃し立てられているが、それはあくまで俺にとっては普通のことで。大体そんなにくっついている自覚はないし、健全だと思っている。しかし相合傘のように不自然にくっつくとなると、恥ずかしいやら大体こういう雨はウザったいことに防げないやらで困る。しかし、彼女はそんなことはないのか押し切られながら背中を押され玄関を出た。


――――鬱陶しい雨が肌や髪に舞うように纏わりつき、俺は猫背になりながらも眉間に皺を寄せる。傘を俺が入りやすいようなるべく高く持ち、自分も濡れないようにと密着しながら笑みをたたえる彼女。俺が持つことを提案したのだが、またもや「いいから」と押し切られた。彼女の押し切る様子にすら、雨の日は抵抗する気が起きない。

 しかしながら、密着する部分も湿気に濡れてくると不快感が増しやはり相合傘などしなければよかったと思いはじめた。


「…ほんと、雨のどこがいいんだ…」


 思わずぼやきが出てしまう。それはそうだ、俺は段々うねってくる髪にも湿る肌が当たるのも、そもそも湿っているのも嫌いなんだ。彼女はまったく髪がうねるのを見たことがないし、湿る事にも頓着はない。第一好きな理由は別にあるらしいのだから。

 どんよりした帰り道、住宅街に差し掛かったところで不意に彼女が止まった。もちろん俺も止まらざるを得ない。どうした、と聞こうと今よりも少し屈んで顔を覗きこむと。

決心したような真面目顔が一瞬見え、柔らかく甘い味と感触が俺の唇に当たった。


「っ…雨なら、陽太やる気ないからこういう風にくっつけるし…キ、キスだって出来る距離にいられるもん」


 少し前につぶやいた俺のぼやきへの答えを言いながら離れた顔は、一瞬前の真面目顔はどこへやら、熟れたトマトのように赤く瞳は照れのせいなのか少し潤んでいた。不覚ながら、その不意打ちの行動と今の表情に雨の日であるのにも関わらずやけに心臓が高鳴り、自分の目が輝くのを感じた。これが「萌え」というやつなのだろうか。


「…伊織、だから雨が好きなの…?」

「だ、だったら悪い?」

「…いや」


俺は人目がないからだろうか、彼女があまりにもふて腐れたように頬を膨らませて睨みあげる姿があまりにキュンとしたからだろうか。兎にも角にもこの疼いた衝動が抑えきれなかったんだ。彼女の傘を持つ手を掴み、片手を背中に回し抱きしめた。


「な…っ!」

「すっげー可愛い、そんな理由で好きとか言われたらテンションあがる!」


自然と笑みがこぼれ出て、抱きしめながら伝えると耳元だったからか余計に彼女はわたわたと手足を動かしながらも次第に大人しくなってじっと抱きしめ返してくれるようになった。


――――――この日から俺は少し雨が好きになり、彼女は少し雨が嫌いになった。理由は言わずもがなである。



初投稿失礼いたします。

すみません、思いつきで書いたのであまり描写など出来てません。


もし良ければコメントのほどよろしくお願いします。

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