おかしな生物
今回はちょっと感動モノです。
E氏は、ある研究に没頭していた。今までの生物学の根底を覆すかもしれない研究だ。それ故にE氏は、他の生物学者から敬遠されていた。
E氏は、新たな生物を創っていたのである。その生物は、容姿は醜いが非常に勇敢で、言わばボディーガードとして役に立つ生物だった。
発達した前足を持ち、体は灰色で、瞳は大きく、蒼い。また、体重が重く頑丈であるが、身のこなしは軽いという設計にした。
この生物は、多種類の生物をかけ合わせれば出来るはずだった。象とリスとウサギだ。
そしてそれは完成した。筋肉の盛り上がった前足、ずんぐりとした灰色の図体、E氏を見据える蒼く大きな瞳。それでいて動きは素早く、サイズはウサギほどだ。
しかしE氏は、この大発明を学界には発表しなかった。言えばまた敬遠され、蔑まれると思ったからだ。また、自分だけのものにしたいという思いもあった。
この生物は、ボディーガードとしての役割を十二分に果たした。E氏が強盗に会った時も、ジャングルに旅行に行った時も、山で迷った時も、生物のおかげで無事に済んだ。
生物は順調に成長し、ウサギほどのサイズから豚ほどになった。そこで生物は成長を止めた。もう大人になったということなのだろう。
それを見たE氏は、もう一頭同じ生物を作った。繁殖させるためである。そしてその願いはほどなく叶い、小さな生物が二頭生まれた。
E氏が死んだ後も彼らは繁殖し続け、やがて変化の兆しを見せ始めた。生まれる子供が次第に大きくなってきたのである。
しかしE氏亡き今、彼らの秘密を守る者はいない。とうとう生物学者に見つかってしまった。その学者はこの生物を大々的に発表し、さまざまな栄誉を受けた。その学者は生物に名前を付けた。『ゾウアシ』である。
この生物は、アメリカでも話題となった。
――新たな生命『Eleph Leg』――
また、反応を示した国はアメリカだけでなかった。イギリス、中国、ドイツなど、軍事国家が勢ぞろい。そろいもそろってゾウアシを欲した。新たな生物兵器となると判断したからである。
幸いゾウアシは、他国に売れるだけの数が繁殖しており、日本政府はゾウアシを他国に売りつけた。と同時に、それらの国と不可侵条約を結んだ。ゾウアシを生物兵器として攻め込んでこられたらたまったものではないからだ。
日本はゾウアシを軍事に利用しようとはせず、ただ観賞用、あるいは食用として飼っていた。
しかし、E氏のいない今、このゾウアシを満足させるだけの世話をできる者はおらず、みな怒らせて逃げられるか、酷ければ国が一つ滅んだこともあった。ただ一国、ゾウアシを無事に育てられたのはアメリカだけだった。
時は流れ、戦乱の世となった。国同士の紛争は絶えないし、紛争の域を超え戦争になることもあった。ただし、ゾウアシを持つアメリカだけは攻められることはなかった。
しかしある時、アメリカの平和も終わりを告げた。世界大戦が開戦し、アメリカもそれに巻き込まれてしまったのだ。
ゾウアシがいるから攻められることはない、と高を括っていたアメリカは、軍事力は衰退し、かつて世界一とも言われた戦力は、半分以下に激減していた。
砂漠の砂を舞い上げて、各国の使用する拳銃や機銃の弾丸が飛び交う。ミサイルが砂漠に波を作った。大量の人が殺傷されていく。一人……また一人と、その数は増える一方だ。
アメリカの指揮官はついに、ゾウアシの投入を決断した。ついにその実力が実戦で火を吹く時がやってきたのだ。
しばらくして、ゾウアシが運ばれてきた。防弾性のトラックから降ろされ、興奮したゾウアシは巨大な前足を踏み鳴らした。ゾウアシは、敵国の使う銃弾をものともしない。言わば移動式の盾だ。敵国の兵士はゾウアシを見ておそれおののき、銃を捨てて逃げる者が大半だったが、勇敢な兵士たちは臆することなく向かっていった。
指揮官に命令され、ゾウアシは軍を殲滅し始めた。敵軍を、さらにはアメリカ軍までだ。大地は震撼し、海はうねりを増した。
砂漠の軍を全滅させたゾウアシはその後、世界各国で戦っている兵士をすべて排除した。
世界に沈黙が訪れた。
ゾウアシが暴れたおかげで地形は変動し、ほとんどの人間は死に絶えた。わずかに生き残った人間たちも、やがて繁殖機能を失い人間は絶滅した。
ゾウアシは徐々にその数を減らし、ついに絶滅の危機に瀕した。とうとう残り一頭となったのである。
一頭残ったゾウアシは、一人寂しく山の中を歩き回る。いずれ死にゆく運命と知りながら。
そして今日もゾウアシは、E氏の墓石に寄り添うようにして眠るのだった。
アメリカはともかく、中国・イギリス・ドイツは軍事大国なんですかね?
中坊なんでよく分からんです。