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苦手な方はご注意ください。

Over Blood シリーズ

私、剣士。

作者: 橘月 蛍

携帯の人は読むの大変かも?ゴメンさい。

 昨日、父さんが怪我をして帰って来た。

 一週間程前から母さんが少し重い病にかかり、お金が必要だったから無茶をしてしまったようだ。

 幸いにも命に別状は無い。だけど、仕事が出来ないと飢えてしまう。それに、村の近くに魔物が出るかも知れない。

 父さんは、村で唯一の中堅の冒険者でギルド登録もしている。他の冒険者は若い人が多い。というか、三人だけしかいない。その人達はまだギルド登録もしていないし、戦闘経験は皆無だ。

 母さんは村に二人しかいない治癒師で、もう一人の人は出張中で村にいない。お医者様もいるけど内科専門で父さんの怪我は治せない。


 コンコンッ


 誰かな?

 今は大体7時くらいで、皆ご飯が終わったばかりだろう。

 玄関まで歩く間に、ブラウスの襟を直す。考え事ばかりで、気付かなかった。恥ずかしい。


 ガチャッ


 扉を開けてそこにいた人を見る。

 少し細身だけどかっちりと筋肉がついた体つき、何時も不機嫌そうだけど笑った時は少年のようになる顔。短く切り揃えられた羨ましいくらいの漆黒。

 これは見覚えがある‥‥。


「‥‥あ、ジンくんだ。おはよう」

「一瞬誰か考えただろ。おはよう」


 ジンくんは苦笑いして挨拶した。


「そ、そんな事ないよ? それよりどうしたの? こんな朝早くに」

「なに、先生のお見舞いだよ。お前こそ朝飯食ったのか?」


 ジンくん顔赤いな。さては照れてるな?


「あ、食べてない」

「やっぱりか。お前変な所で抜けてるよな」


 む、失礼な。確かに昨日も買い物し忘れた物とかぼーっとしてて昼ご飯逃したりしたけど。


「ジンくんこそ、父さんのお見舞いとか言いつつ、母さん見に来たんでしょ?」


 ジンくんの顔が一瞬で真っ赤になる。


「照れてる♪可愛い」

「な、ま、おま、あ、うぉ、ぐぅ‥‥バレてるのか」


 おー、7面相したね。


「ふふっ。二人共寝室にいるからね。私は、ご飯食べるね」

「あ、あぁ。お邪魔します」


 少し冷静さを取り戻したジンくんが、一言断りを入れて入ってくる。礼儀正しい子は好きだぞ。うんうん。


「えっと、寝室どっち?」

「あ、ごめんね。二階上がってすぐの扉だよ」


 そういえばジンくん居間以外に通すの初めてだった。




 ご飯を食べ終えて食後のお茶(安い緑茶だけど)を飲んでいると、ジンくんが二階から降りてきた。


「二人共思ったほど酷く無さそうだな」

「うん。でも、しばらくはお仕事出来ないかな。セリアさん、後3ヶ月は戻って来ないから。母さんは、魔力欠乏で治癒術使えないし」


 セリアさんは村にいる治癒師で一月ほど前から出張中だ。ジンくんは納得した顔をして椅子に座った。居座る気だなー? 良いけど。


「だから、先生の怪我は放置なのか」

「失礼な。応急処置ファーストエイドはしました!」


 下手な止血だけで帰って来たから私の使える治癒術で止血と消毒はしたけど。それしか出来なかったともいう。


「しかし、どうするんだ? あれじゃあしばらく仕事にならないだろ?」


 私が稼ぐしかないよね。


「うん。蓄えが少ないから、出稼ぎに行くつもり」

「お前がか? 何をするつもりなんだよ?」


 ジンくん驚いてるな。


「一応、冒険者ギルド」

「ん? 受付嬢か?」

「ううん。冒険者」

「はぁ!? 正気か!?」


 驚きすぎだと思います! 言外に無茶だと言われてるような気がします!


「一応、私ジンくんより強いんだよ?」

「ば「ジン!」何だ?」


 ジンくん馬鹿って言いかけた! 後でお仕置き決定だから!

 それはさておき、乱暴に扉を開けて入って来たのはセイくん。シルバーブロンドでちょっと長い髪は顔と相まって美少女に見える。しかし性格が完璧お兄さんなのでかなり面白い。ちなみに身長は163cmだそうだ。ジンくんと並ぶと兄妹みたい。って言ったら怒られたけど。


「どうしたの?」


 そう聞くとセイくんは次早に答えてくれた。


「村の近くにゴブリンが出たんだ! 先生は怪我してるし、俺達で防がないと」


「数は?」


 ジンくんが聞く前に聞いたので少し不機嫌そうになってるけど今は構ってられない。


「6だ。全て名無し」


「分かった。行こう」


 待ち構えるようにジンくんが応えた。子供か? ‥‥子供か。


「あぁ。急ごう」


 人のことをスルーして二人は行ってしまった。

 私はお留守番かな? なんか面白くない。突撃です。


 丈夫なハーフブーツを履いて、物置からグラディウス(薪割りや草刈りや狩りに使っている片刃の短剣。刃渡り48cm、柄は私の拳3つ分。ちなみに、村の特産品で一家に一本は必ずある。)を取り出す。

 玄関を出て、少し騒がしい方へ歩き出した。




 金属のぶつかり合う甲高い音を頼りに、ジンくん達に追いついた。

 遠距離から魔力で作られた矢をタイミングをずらしながら放っているセイくんに駆け寄り状況を聞く。


「一人くらいは倒した?」

「何で来た! 危ないだろ!」


 怒られた‥‥。私から見ると君たちの方が危なそうだよ。


「それより状況」

「‥‥シュウが2、ジンが3だ。1人は倒した」


 苦虫を噛み潰したような顔になってるけどちゃんと答えてくれた。


「ありがと」

「おい!」


 一言礼を言って走り出した。呼んだ声に笑顔を返して走る速度を上げた。



 ジンくんの近くに行くと、ジンくんがちょうどバランスを崩した所だった。

 放っておくわけにもいかないので、ジンくんの襟首を掴んで思い切り引っ張った。


「ぐぇっ!?」


 潰れたカエルのような声を出したジンくんの足元を、錆び付いた鉈のような物が通過する。間に合ったようだ。


 驚いて固まっているジンくんをスルーして、グラディウスを構える。


 三体のゴブリンが同時に切りかかってくる。動揺の色は無い。

 それを軽くいなし、真ん中のゴブリンを両断する。

 それ見たゴブリンが怒りまた攻撃してくるのを、両断したゴブリンの間を通る事で避ける。

 振り向きざまに横凪に切り、二体のゴブリンの片腕を切り落とす。

 切り返し、まだ武器を持っているゴブリンの首をはねる。

 二回目の切り返しでもう片方のゴブリンを斬り伏せる。


 グラディウスを鞘に戻し、ジンくんに手を出す。


「大丈夫?」

「あ、あぁ」


 応えた声は震えていたけども気にしない事にした。


「シュウくん助けに行こうか。私が一人引き受けるから、ジンくんはシュウくんと協力して頑張って」

「大丈夫‥‥だよな。アレなら」


 ジンくんはさっきの私の戦い(むしろ、イジメ?)を思い出したのか顔が引き吊っている。


「もちろん。任せて。さ、行こう」


 促して走り出す。ジンくんが遅れて走り出し、二人で並んで走る。




 シュウくんはなんとか二体のゴブリンの攻撃を防いでいた。シュウくんの防御技術と回避能力は三人の中で一番高い。

 まぁ、無理に攻めないしね。ジンくんは相手の攻撃を潰して極力防御しないし、セイくんは魔術メインだし。

 ちなみにシュウくんの容姿は、深緑の髪、精悍(むしろ渋い?)な顔つき、中肉中背に見えるけど着痩せしてるんです。筋肉すごいよ(笑)あと若干無口っ子だね。


 走り込み、片方のゴブリンに膝蹴りをかまし吹き飛ばす。

 横目でジンくんが加勢したことを確認し、吹き飛ばしたゴブリンと対峙する。

 このゴブリンだけ少し雰囲気が違うなぁ。多分セイくんが読み違えたんだね。

 見た目は無名だけど‥‥雰囲気はリーダー格だ。良く防いでたなぁ。


 ゴブリンがこちらを睨みつけて、錆だらけの得物を構える。どうやら膝蹴りはわざと飛んで衝撃を和らげたようだ。残念。

 こちらはあえて自然体で。無駄な力を入れずに佇む。


 一瞬の間の後、ゴブリンが切りかかってくる。

 それをいなすが、直ぐに構え直されてしまった。


「厄介だなぁ。攻めちゃうか」


 呟きを聞き取ったシュウくんから視線が送られて来たけど、相手にしないで構える。

 まず、何度か軽い攻撃を行う。相手は防御の心得があるらしく、軽く防がれてしまう。


 すっと、身を引く。少し腰を落とし、グラディウスを鞘へ。

 ゴブリンがこちらが逃げ出したと思い距離を詰めてくる。

 そこで一歩。相手との距離を零に。


 そして、極自然な仕草でグラディウスが鞘走る。

 グラディウスが咄嗟に防ごうとしたゴブリンの武器ごと・・・・叩き斬って、ゴブリンは鳩尾辺りから上下に別れた。



 戦いの後、三人を引きずって帰って私の家で反省会をする事にした。三人は微妙な表情で黙って付いて来た。



―――――



 家に戻って気付いた。


「あぁ! お気に入りのスカートが!!」


 血みどろである。当たり前だ。両断したゴブリンの間を通れば左右から血を被ることになる。

 あっ!! よく見ると膝のところも破れかけてる‥‥。膝蹴りは拙かったのかぁ。ショック。


「フェン。話ってなんだ」


 不機嫌そのもののジンくんに言われて気づく。

 ゴメン。三人とも忘れてた。


「反省会。このままじゃ出稼ぎ行けないよ。心配すぎる」

「「「否定は出来ない」」」


 異口同音(合ってる?)とはこの事ですね。

 それよりとても臭う。血生臭い。


「とりあえず‥‥お風呂入ろうか」

「一緒にか?」

「あ、ゴブリンがもう一匹」


 すっとグラディウスを抜き、ジンくんの首筋に当てる。


「うっ‥‥。冗談だ、頼む退けてくれ」

「覗いたら容赦しないよ? 後ろ二人も!」

「「はい!」」


 うん、いい返事だ。

 



 お風呂から出て4人でテーブルを囲う。


「村長には殲滅の報告はしたから。これ、報酬ね」


 少量の硬貨を手渡す。


「報酬? なんで?」


 ジンくん‥‥。馬鹿なんですね。


「なんか、失礼なこと考えてないか?」

「いや? そんなこと無いよ。ジンくん」

「ん」


 私の言葉に少し真剣みがあることに気付いたジンくんが聞く姿勢に入る。


「三人とも勘違いしないように。あなたたちは自警団じゃありません。冒険者です。仕事をしたなら、それに見合う報酬を受け取らなくてはなりません。でなければ冒険者という市場は崩壊し、死者が増えます。なぜなら、報酬が減少し続ければ冒険者の装備は弱体化し、応急医療品も買えなくなるからです。それに、良い装備を作っている人方は利益が減ります。量産品の流通が増えすぎてしまうことにもなります。‥‥ふぅ。解かった?」

「んーまあ、大体」

「それなりには」

「問題ない」


 うん。何と無くでも分ってれば問題ないかな。というか省略し過ぎてあんまり意味わかんないね。


「細かく言えば色々理由はあるけど。三人は強くなるのが先」

「あぁ」


 セイくんが肯定し、シュウくんとジンくんも頷いた。


「じゃあ、スケジュールを説明するね!」


 三人に後で聞いたところ、この時の私の笑顔はとても怖かったらしい。



―――――



 昨日で訓練は終わって、出稼ぎに行くための荷物も纏めた。

 今日は朝から快晴だけど、春のこの時期でいうと少し肌寒かった。念のためカーディガンをブラウスの上に羽織る。


「行きますか」


 ポツリと口に出して立ち上がる。両親には話した。気をつけて。ゴメンね。とだけ言われた。

 目的地は村の最寄の街。最寄といっても徒歩で10日の行程であり、途中魔物や野生動物に遭遇する確立が非常に高いためかなり危険だ。

 まぁ、私には庭みたいなものだけれど。それでも街までは行ったことが無い。

 家から出て村の出口へ向かう。朝の少し早い時間だから人通りは少ない。途中で会う人に、気を付けて。と言われながら出口に着いた。


「早いな。選別だ。ちゃんと帰って来いよ」


 ケント(見張りの人)さんにウエストポーチを貰った。


「何これ?」


古式魔具アーティファクトの一種らしい。見た目は小さいが、容量が体積で100L位らしい。重さもウエストポーチ分だけになるようだ。俺には無用の長物に過ぎないからな。冒険者やるならあって損は無いだろう」

「え‥‥? あ、ありがとう!」


 何ですかその機能は!? 高性能すぎる。


「いいよ。拾い物だし」

「じゃあ、ありがたく。ところでどこで拾ったの?」


 遠慮はしない方です。


「んーと、そこ」


 指差した先は5mほど先の地面。


「え? ポツンと?」

「そ」

「‥‥‥‥行ってきます」

「いてらー」


 うん。気にしないで使うことにしよう。


―――――


 黙々と歩く。

 途中魔物や獣に襲われたりもしたけど、スパッとやって終わった。こんな感じで北へ行く。

 道のりとしては、村の道から恐山を越え、幻晶の森を通り、マフート平野を過ぎて三番街道をひたすら西北へ行く。城壁が見えたらそこが目的地。


 〔勇士の街/ウィルレイブ〕


 周辺に大量に出没する魔物等を討伐し、価値のある部位を売り払うことで生計を立てている街。そのため冒険者ギルドがかなりの権力を持っている。

 街としての規模こそ平凡なそこは、反して強大な経済力と防衛能力を持っている。


 で、着いたわけですが。道中何も無かった。いや、何も無いのが一番なんですけどね。はい。


 街の入り口で簡単な審査を受けて入る。ウィルレイブは年中魔物達に襲われる環境にあるため、村と違い頑丈そうな壁で周囲を囲われている。高さは大人二人くらい。

 村から出たことが無かったので周りの物がほとんど気になるが、堪えて冒険者ギルドへ向かう。

 道? もちろん調査済みです。地図も貰ったし。


 10分も歩くと、冒険者ギルドに着いた。

 見た目は普通。特に装飾があったり、小汚かったりするわけでもなく。‥‥とりあえず入ろう。

 両開きのドアの片方を押して中に入る。


 見渡すと内装は質素だけれど綺麗に掃除されていて好印象だ。

 でも中途半端な時間にもかかわらず人が多い。人数は60人くらいで男女比は8対2くらい。意外と女の人多いなぁ。良かった。

 少し奥の方にカウンターが見える。あそこでギルド登録が出来るはず。

 スタスタとカウンターへ向かう。人は多いけど少し体をずらせば避けられる程度の密度なので、ほとんど減速せず通り抜ける。


「こんにちは」

「こんにちわ。ご用件は何でしょう?」


 カウンターにいる受付嬢と思われる人に話しかける。受付嬢はなんだか微妙に引き攣った愛想笑いで答えた。

 さっきから気になってるんだけど、どうも私避けられてるみたいなんだよね。如何してだろう?

 後ろからの視線がとても痛い。む、無視だ! 無視!


「ギルド登録したいんですけど良いですか?」

「はい。少々お待ちください」


 今度は完璧な笑顔だった。仕事の人だなぁ。

 少しすると(本当に少しだった。早い。)受付嬢さんは書類をカウンターに並べた。


「お待たせしました。こちらの書類に登録情報をご記入ください。*の付いているところは必須項目になっております。登録名は本名の必要はありません」


 差し出された書類を手に取る。

 面倒なので必須項目のみ記入して渡す。登録名も本名を入れる。


「はい。確認いたします。


 登録名〔フェンリル〕

 使用武器〔刀剣〕

 精霊術 不可

 守護術 可

 治癒術 可

 その他 無し


 以上でよろしいですか?」

「はい」

「では、初期ランクの試験を行います。こちらへどうぞ」


 受付の人が変わって、さっき話していた人がカウンターから出てきた。

 その人の後ろを付いていきいくつかある扉の前で立ち止まる。


「こちらで試験を行います。ゴブリンを3体倒してください。危険と判断した場合ギルドの者が助けに入ります。よろしいですか?」


 案内の人がそう言って扉を開けた。頷いて中へ入る。

 中は入ってすぐが試験官のいるところになっていて、四角い部屋の横に一段下がった恐らく戦う場所と思われるところへの階段があった。


「装備の確認はよろしいですか?」

「はい」


 返事をして下へ降りる。奥に何かの金属で出来た扉が見える。


「では始めます」


 その声と同時に奥の扉が開き、ゴブリンがぞろぞろと出てくる。

 早く終わらせるにかぎる。面倒くさいし。

 無造作に近づき(といってもかなり速いが)相手が武器を振り上げるより先に纏めて薙ぐ。

 グラディウスでは出来無い芸当だ。いま使っているのは、何の変哲も無いロングソードだ。正確には両手持ち出来るように柄が延長され、耐久性を上げる加工が幾つか施されているが。まぁ戦闘スタイルの問題だ。大した事じゃない。


「お疲れ様です。ランクはDからになります。登録完了手続きを行います。カウンターへどうぞ」


 そういった声は震えていたが気にすることでもないと思うことにして、血を払い剣を鞘に戻してカウンターへ戻った。



「こちらがギルドカードになります」


 カウンターへ戻ると、一枚のカードを渡された。何かの金属で出来ているようだが良くわからない。


「登録は完了です。詳しい説明は必要ですか?」

「はい」

「それでは‥‥」


 15分ほどの説明の後、宿を探すためにギルドを出た。


――――


 宿はあっけなく見つかった。

 だって、ギルドの目の前なんだもん。何故気づかなかったんだ、私‥‥。


「はぁ‥‥」


 思わずため息が出る。ある程度予測出来ていた事だけど、やっぱりキツい。何故だろうとか惚けても無駄だよね。

 何って? 視線。曰くこの髪の色はあまりよく思われないそうだ。個人の持っている属性に関連するらしい。私は精霊術使わないから詳しくは知らないけど。


 とりあえず寝よう。

 気付けば夜が耽っていた。


――――


 私、剣士。 襲撃


――――


 ドタバタ‥‥‥‥ドンドン!


「‥‥んぅ? ぅぅう? ‥‥ふぇ?」


 ドンドンと部屋の扉を叩く音で目が覚めた。部屋の外がとても騒がしい。どうしたんだろ?


「はーい。今行きます」


 素早く着替えて扉の前に立つ。帯剣するのも忘れない。

 少々警戒しつつ扉を開けると、宿屋の主人がいた。険しい顔をしているが、その目に焦りや陰りはない。


「魔物達が来た。避難してくれ。

 ‥‥それとも、戦うか?」


 次早に言われた言葉は、私の腰の剣を目にして疑問形に変わった。


「えっと、少しは報酬とか出るんですか?」


 お金がないんです。宿代3日分しか。


「もちろんだ。街から戦闘に参加した者へ低額だが報酬が支払われる。冒険者ギルド所属者はギルドで依頼として請負うことでも幾らか出る」


 余り時間がないのか説明は簡潔だ。


「分かりました。参加します。最低限必要な情報を」


 宿屋の主人は少し笑って、答えてくれる。


「魔物達はそれ程強くない。が、今まで街が防いだ事のある魔物の数は5千強。防衛可能とされている数は8千。今回確認されている魔物は約1万7千だ。勝てる可能性は限り無く低い。最終的には市街地戦になるだろう。装備は可能な限り持って行け」


 絶望的だ。負ける気無いけど。


「ありがと。生きてればまた泊まりにきます」

「あぁ。頑張ろうじゃないか」

「‥‥はぃ?」

「ん? 言って無かったか。俺も参加するんだ。因みに冒険者ギルド所属者」


 この男つらーっと言ったね。もぅ。


「はぁ、私も冒険者ギルドに所属してるので、一緒に行きますか」

「おぅ。この街には来たばかりだろう? まぁ、分かる事なら教えてやるよ」

「あぁー、はい。お願いします」


 何で朝から気疲れしてるんだろ‥‥


――――


 ギルドで依頼を受け、東門へ向かう。魔物達は全方位から来るが東側が最も数が多いそうだ。理由は平野だからだろう。多分。

 宿屋の主人セントは、2mほどの槍を使うようだ。黒塗りの柄に、薄青い穂先の渋い槍だ。

 彼も当然のように東門へ向かっている。


「俺は平野まで行くが、お前はどうする? 門の前で待つか?」

「魔法と狙撃が当たらないギリギリまでは攻め込みます」


 特に考えず答えると、呆れた顔をされ返された。


「それは自殺行為じゃないか? 一人なら数に圧殺されるぞ?」

「周り巻き込む方が怖い。あんまり集団戦ってしたことないから」


 セントは最早浮かべる表情も無いらしく、呆れたと無表情の間という難しい顔をしている。


「そうか‥‥まぁ頑張れ」

「はい。‥‥で、つきましたねぇ」


 東門に着いた。どの門も作りは変わらないらしく、巨大な鉄の一枚門に鉄柵門の二重構造になっている。鉄柵門が外側であり、支えきれないと判断した場合一枚門を閉めるようだ。


「ここからは別行動だ。俺は何人か仲間を集める。お前は、偵察隊の話を聞いてから行くといい。因みにそこだ」


 セントはそう言って赤い屋根の建物を指差した。


「うん。ありがと。生きてればまた、ね?」

「おぅ。じゃあまた」


 ニコッと笑うと、セントは少し朱くなって早口に言葉を紡ぎ走り去った。


「さて、行きますか」


 頑張ろうっと。


――――


 偵察隊に訊いたところ、魔物達は多種多様であり、比率的には、獣型4、人型3、魔法生命2、大型種1らしい。

 分け方がアバウト過ぎてわかりづらいのは、数の問題で仕方無いのだろう。

 そして、今私の前には偵察隊部隊長センリ(絶対偽名だよね。千里だよ? 千里)


「物資の支給は青い屋根だ。支給品は無料だが多くない。有料の物資もある程度確保することを奨める」


 話し方が堅すぎて一瞬意味を理解出来なかった。誰だすすめるを奨めるにしたの!

 まぁそれは置いておいて、青い屋根って隣じゃない。一回出て入らなくちゃ行けない造りだから面倒だなぁ。


「壁は抜くなよ」


「はい。すいません。ごめんなさい」


 バレた。

 苦笑いで誤魔化しつつ外へ出る。

 青い屋根の建物に入り、支給品だけ貰って門の外へ出る。

 それにしても、物資売ってたお姉さん達(街の各商会の売り子らしい。)美人だったな。行列だったし。安いけども、あれだけ売れたら凄い利益だろうなぁ。こまかい事わかんないけど。


 さて、門の前からは、魔物達の姿は見えない。東門付近は門に向かった下り坂であり、1キロ程度までしか見通せない。魔物達は10キロ程離れたところにいるらしい。先行している遠距離攻撃組は門から5キロの場所で迎え撃つそうだ。最大射程が1.5キロらしいので、今から向かえば遠距離攻撃組より前に魔物達へ攻め込める事になる。


「じゃ、頑張ろっと」


 身体に魔力を巡らせる。

 それを徐々に加速させる。循環する魔力が身体を保護し、血液の代わりをする。


術式起動レディ幻装ドレスアップ加速アクセル〉」


 循環する魔力量が増える。

 戦闘で使うつもりの魔力と保険を除いた魔力を廻す。


「Go!」


 走り出す。


―――――


「うわぁ」


 4キロ先、魔物達を見つけた。

 見た目、黒い蠢く波なんだけど‥‥。なんで、黒く見えるって多分モザイクだと思う。つまり、赤、青、緑の点を集めて描いて、遠くから見ると黒く見えるみたいな? 単純に黒い色の比率も高いみたいだけども。


 さて、遠距離攻撃組から3キロ先くらいみたいだなぁ。急ごう。


幻装解除パージ術式起動レディ幻装ドレスアップ加速アクセラレイト〉」


 加速する。

 視界が、ギシリと歪む。三歩で遠距離攻撃組の200メートル手前まで行き踏み切る。500メートル程の滑空からベクトルをずらすだけの最小限の着地。

 接敵まで8秒。さて、容赦しないよ。


「存在すら灰燼へと還す劫火よ。私の命を火種に世界を灼侵けしされ」


 詠唱しながら疾駆はしる。接敵まで2秒。

 全身に色無き焔を纏う。

 さあ、消えて貰いますか。


 亜人型の魔物に近づく。構えようとしてるんだろうけど、止まっているようにしか見えないな。


 一閃。


 固まっていた亜人(ゴブリンじゃないなぁ。なんだろう。)を5体ほど斬る。切り裂いた亜人が燃え上がる。燐光を撒き散らし全てが世界に還る。ほんの少し掠っただけの亜人すら倒れ燃え上がる。

 無色の焔があらゆる色の燐光を作り上げ世界はそれを受け止める。


「還れ〈葬焔〉」


 剣が振るわれる。

 それを伝い色無き焔−〈葬焔〉が広がる。

 葬焔は触れた物をことごとく灼き祓い、世界に還して逝く。


「弱いよ〈葬焔〉」


 また振るわれる。

 一度に数十の魔物達が灼かれる。


「数が力? 幻想でしょ?」


 焔が走り去った。


「1+1=2じゃないよ」


 無数の燐光のラインが描かれる。


「そして、1+0が零になるの」


 一瞬にして6000もの魔物が世界に還った。最初の一撃から30秒足らず。


 それでもカレ等は止まらない。


「闘おうっか」


 無色の焔が消える。

 代わりにそこには笑顔の狩人がいた。


 狩られる者達は止まらない。


――――


 後ろから轟音が聞こえた。

 どうやら、遠距離攻撃組の射程圏内に魔物達が入ったようだ。

 流石に剣だけだと効率低いなぁ。まぁ、もうほとんど魔力量無いからどうしようもないけど。

 それにしても、さっきは意味不明なこと言ってたなぁ。アレ使うと若干トランスしちゃうんだよね。恥ずかし。


 さておき、段々遠距離攻撃組に近づいてきたみたい。音が近づいてきてるし。

 それにしても変だなぁ? 向こうからこっちは見えない筈、何だけれど視線を感じるんだよね。まさかね~?

 チラッとその方向を見る。確かに視線を感じる。正体不明なのが気持ち悪い。まぁ、心当たりが無いわけでは無いんだけど。

 でも見られてる理由が分からない。


 よし。気にしたら負けだ。

 薙ぎ倒す!


――――


 パッと炎が奔る。ほんの数m横の地面が紅く爆ぜた。


 今のは危なかった。

 もうそろそろ一度後退したいんですけど? 何なのカナ君たちは!

 多いから! 下がれないから! 回り込んでくるな!


「じゃぁーまぁー!!」


 何で味方の攻撃かわしながら戦わなきゃいけないの!?

 突出したままなら平気かと思ってたのに‥‥。

 無理でした。多過ぎて一緒に流されました。


「うっさぁーい! どけぇーーー!! キエロー!」


 叫びながら剣を振り回す。

 型も無く、力任せなだけの剣撃でも、十分敵を屠れる。まぁ、私の剣はかなり速いからねー。


(っ!? また視線だ)


 近い。間違いなく攻撃の真っ只中にいる。


(っ!! 近づいてきてるし)


 結構なスピードでこちらに近づいてくる。

 敵意は感じないけど、一応警戒しておく。


 意識を戻し、目の前に迫るオーガ種(何オーガかはわかんない(笑)勉強しておけば良かった‥‥。)の大刀を弾き上げる。

 空が陰った。


(っ!!!)


 空から男が降ってきた。

 男の握る槍が、オーガ種の頭蓋を打ち抜き一瞬で絶命させる。


(ジャンプ!!)


 〈ジャンプ〉-それは単純かつ強力な、槍による急降下攻撃だ。剣で云う一閃に近い。極めれば斬鉄ならぬ貫鉄が出来るらしい。普通にやると槍が折れます。剣も斬鉄に失敗すると簡単に折れます。武器って意外と簡単に壊れます。

 テストには出ません。


 で、だ。誰さん? って思ったら、


「セントさん!? 何で!?」


 宿屋の主人セントさんでしたよ。


「いやー、こんなオチだと思ってさぁ。助けに来てみたが、思ったより元気そうだな。必要無かったか?」


 いや、そんな爽やかな笑顔で言われても困るよ(笑)


「助かりました(笑)流されました(笑)」

「とりあえず下がるか」

「はーい」


 二人で苦笑しながら構える。


「詠唱しまーす。陣作るので援護お願いします」

「はいよ」


 少ない魔力量で高い効果を得るには、陣と詠唱を併用するのが望ましい。色々仕込めるし。


「刻まれた紋章は殺意の証」


 地面に2mほどの陣が刻まれる。


「詠う歌声は狂気の絶叫」


 詠われる声が徐々にひび割れる。


「幻想抱くこの胸は失意に染まり、絶望に砕かれ、燐光となりて世界へ還る。遺された器に残響は注がれ、狂嬉の緋を灯す。壊れゆく中に見えた最期の光は黒く燃える。

 終わりの始まり

 -ただ、あなたは見つめていた。ただ、その瞬間ときを。瞬きもせず。決してを逸らさず。ただ、見つめていた」


 黒く染まる焔が纏わりつく。


黒焔見つめるゼルドヴェント血染めの騎士ダインスレフ


 そこにはあかと黒の騎士がいた。


「交代!」


 セントさんが叫ぶ。


「はぁっ!」

「始まりは虚空から」


 セントさんの周りを薙払い、地面を斬りつけ黒焔を刻む。それが壁となり、魔物達の行く手を阻む。それと同時、セントさんが詠唱を始める。


「終わりは奈落へと」


 黒焔を避けて入ってくる魔物を切り裂いて、そこに新しく黒焔を刻む。


「ただ、其処に在る事を望むなら」


 セントさんが詠う声をBGMに剣を振るう。


「確かに在る自らを信じなさい」


 後退するために一角を切り崩す。


存在の証明プルーフ・エクシステンス


 強化か。単純だけど曖昧で難しい。

 普通は特定部位の特定強化が限界だけど。私の幻装ドレスも一度に3つが限界だし。

 明らかに今の全身強化だよね。

 やるねぇ、セントさん。


「さて、いきましょうか!」

「おうよ」


 突撃♪


――――


 私、剣士。強者


――――


「はぁ。疲れた」

「あー、右に同じ」


 私とセントさんは簡易キャンプのベンチにぐったりと座り込んでいた。

 簡易キャンプは放棄が前提の為、大した設備はない。ただし、負傷者の為のベッドは沢山ある。大体一時的に戻ってきた人が仮眠してるけれど。負傷者来ると叩き起こされる。


「どの位でこっちまで来ると思う?」

「いつもなら、小一時間かねぇー。今回は三十分ってところだな」

「うわぁ。魔力量半分も戻らないんだけど。嫌だなぁ。疲れた」

「知らんわ。俺は大して魔力量消費してないし」


 話疲れた。短い会話すら駄目だぁー。


「うん。来たら起こして。Zzz」

「おいっ! って早!!」


 何か言っへるよぅなきがするけろ、きのへぇらよへぇ‥‥。


 Zzz‥‥。


――――


 ゴッ

「痛っ!」


 頭への痛みで目が覚める。


「起きろ。来たぞ」

「あぅ? ぅーん。Zzz」

「寝るなぁー!」

「ぃづぁあぁあ!?!?」


 グーで殴られた!?


「痛いよ!?」

「起きろ‥‥」

「ひゃぃっ!! お、起きまっ!? ‥‥痛い」


 セントさんが黒い。噛んだ痛い。


「怖いから睨まないで」

「大丈夫か?」


 心配していたんですか。顔怖すぎるんだけど‥‥。


「マトモに喋ってるので、察してもらって構わないかな」

「要は大丈夫だな?」


 何で睨むかな!


「ん。そゆこと〜」


 説明が遅れたけど、現在進行系で戦闘中です。殴られた直後辺りからもう戦ってたりするんだなぁ。


「灼くか‥‥? いや、観衆が多すぎる。駄目か」

「また、黒魔術モドキでもやるのか?」

「にゃあ!? いきなり話掛けないでよ! びっくりして猫化したじゃない!」


 後ろからとか悪趣味だね! もう。


「先詠唱するわ。援護よろしく」

「んー? 5秒待って」

「おー」


 身体に魔力を巡らせ廻す。


術式起動準備セットアップ第一ファースト幻装ドレス影鎧シルエット〉」

第二セカンド幻装ドレス核焔剣コロナ〉」

第三サード幻装ドレス加速アクセル〉」

幻装ドレスアップ起動スタート


 幻装を重ね掛けする。見た目は少し影が濃くなったのと、剣が赤味を帯びただけ。


「いいよ」

「おー」


 セントさんの身体に幾何学的な模様が浮かび上がる。刻印魔術か。直接陣を身体に投影する魔術。ハイリスクハイリターンだねぇ。自信あるんだろうな。

 私、刻印魔術で一週間寝込んだからなぁ。ムリだね。うん。


「我が身に刻まれるは罪状。詠う歌声は判決。代償は罰。その罪は、災禍の解放。判決は災禍の滅却。償おう。我が身果てるまで」

最初の愚者パンドラ


 セントさんが闇に包まれる。


「私にやるか訊いて自分でやっちゃうのね」

「まァ、手っ取り早イからナ。リセイが削られルのがもンだいだガ。慣れダ」


 うん。黒さ200%だね。喋り方も怪しい。


「まぁ、いいや。行こうか?」

「おウ」


 二人して魔物達へ突っ込んだ。


――――


 多い。

 私とセントさんを除けばほとんどの人が門近くで戦っているようだ。なぜなら、そちらの方向から閃光や爆音が聞こえるからだ。


「セントさん! 後どの位?」

「3000! 他ノ門の魔物ト防衛隊もこッち来テル! 1000切らナいと市街戦は厳シイぞ!」


 門が突破される前に2000やれと‥‥。


「あーもぅ! 焼くから! 魔物達集めて!」

「おウ!」


 魔物達の注意を引き寄せ始めたセントさんの下に直径20メートルはあろうかという陣を刻む。


「俺ヲ巻き込ムなよ!?」

「問題無し! 清浄なる蒼炎! 我が友を守るため、渦巻き燃え上がれ! 我らに仇なすモノをことごとく灰燼に帰せ!」

「即席カよ! 失敗しタラどーすnだよ!」


 ギロリッ‥‥。


「すいません。ゴメンナサイ。お好きニどうZおっ!」

蒼炎ブループロミネンス


 高温の蒼い炎がセントさんの周りに立ち上り、ふわりとセントさんの頬を撫でてから渦巻き始める。


「うオあぁ!? 今のワざとだロ!?」


 蒼炎は勢いを増し、近くにいた魔物達を容赦なく引きずり込む。


「ヤバいかなぁ?」


 魔力量を増やし過ぎて、規模が大き過ぎる。私、巻き込まれない!?


「アンカー起動!」


 場所としては範囲外だが、引き寄せる力が強すぎる。シルエットのレッグアンカーを打ち込み引きずり込まれないようにする。

 あ‥‥。


「魔力切れた!」


 地面に打ち込まれた楔が僅かな間で消えてしまい、ズルズルと蒼い炎に引き寄せられる。

 加害範囲ギリギリめで引きずられたとき、炎が膨張した。


「うえぇ!?」


 内側から破裂するように蒼炎が霧散した。


「なに? これ?」


 そこに居たのは人型の何か。


「気をつけろ。かなり強そうだぞ!」


 人型を挟んで向こうにいるセントさんが叫ぶ。

 人型が声に反応する。


「五月蝿いぞ人間」

「喋れるんだ。引いて貰えないかな?」

「断る」


 沈黙が降りる。

 魔物は周りに居た分は全て焼き払った。ここにいるのは三人だけ。

 私は沈黙を破る。


「私はフェンリル。あなたの名前は?」

「聞いて何になる」

「どうもしないよ」


 セントさんが何か言いたそうだが、目線で抑える。


「ガンドだ」

「そっか」


 私とガンドは無言で得物を構える。

 ガンドの得物は手甲と脚甲。相性悪そう。


 先に動いたのは、私。相手の動きを見るため、隙を作らないよう攻撃する。


「ぬるい」


 攻撃は全て弾かれるか受け流された。ガンドのうごきが加速する。


「‥‥ッ!」


 薙いだ剣が大きく弾かれる。

 中腰で放たれた一撃が腹部に割り込んだ左腕に直撃する。


「アイタタ‥‥折れちゃったよ」

「ずいぶんと余裕だな」

「それほどでも」


 痛いなぁ。全力でやらないと駄目かな。

 今度はガンドが先に動いた。低く疾駆するガンドを下段を薙ぐことで止める。


「お返し」


 切っ先を返し、右下から斜めに振り上げる。一撃目は防がれる。

 防がれた直後から、小手先を滑るようにして突きを放つ。


「クッ」


 二の腕を裂き肩に突き刺さる直前、ガンドは飛退いた。


「人間風情が」

「悪かったね。ニンゲンで」


 ガンドが着地するのとほぼ同時、深く踏み込んで切り上げる。

 防がれたが、ガンドはバランスを崩す。切り返しの斬撃は蹴りで弾かれる。


「ゴメンね」


 一言呟きながら、弾かれた勢いのまま左下から右上への斬撃。


「なっ


 ヒュン


 小さな風斬音と共に続く筈の言葉は途切れた。

 一瞬遅れてドサッと何かが落ちた。


――――


「大丈夫か?」

「とりあえず腕痛い」

「そりゃな」


 そこにいるのは二人の人間と一つの亡骸。地面に転がる二本の腕と驚いた顔の首。


「こいつ、魔族か」


 魔族。姿形こそ様々だが、高い知性と魔力の保有者だ。魔族については情報が非常に少ないため、いわゆる未分類ともいえる。


「いや。彼は違うよ」

「なに?」

「彼は魔物化したただの人だよ」

「‥‥そうか」


 何も聞かないんだね。

 私は門へ無言で歩き始める。セントさんも無言で後に続いた。


――――


「市街戦終わってるね」

「そうだな」


 門に戻った時、戦いの気配は既になかった。

 代わりに負傷者を運んだり、散乱したものを片付ける人が何人もいる。


「とりあえずギルド行こっか」

「そうだな」


 セントさん反応薄! まぁいいけど。


 ボーっと歩いているとすぐにギルドに着いた。東門からギルドまでは結構近かったりする。

 ギルドに入り、カウンターへ向かう。まだ他の人たちは片付けで忙しいらしく、人がほとんど居なかった。


「ご苦労様です。報酬はこちらになります」


 手続きを手早く済ませ、宿に向かう。正面だけど。

 宿の扉を開けた瞬間、二人は凍りついた。


「店が‥‥」


 つぶやいたセントさんは呆然とした様子で宿の中へ入って行った。

 扉を開けて最初に目に付いたのは、大きな床の溝。見回して気付いたのは壁の大きな穴。逆側にあるのは四足の大型獣型モンスターの死体。


「えっと、ドンマイ?」


 セントさんはカウンターの椅子に座って苦い顔をした。私はその向かいに椅子を置き座る。


「あーあ。結構高かったのに」


 すっかり苦笑いになって呟く。


「どうする? これから。私、泊まるところないよ」

「俺は家がねえよ(笑 」

「あはは‥‥。そだね」


 二人で乾いた笑いを吐き出す。


「あー。またギルドで働くのか。短い休暇だったな」

「そうなるのかぁ。そうだ。パーティ組まない? 一人でやるのじゃ良い依頼無くって」


 ちらりと見た依頼書には二人以上という依頼もかなりあった。


「おー。そうするか。連携はどうにかなりそうだったからなぁ」

「じゃ、決まりで。早速憂さ晴らしに行く?」

「もちろん。ついでに言うなら、大型の獣狙いで」

「あはははは‥‥」


 セントさんの眼がちょっとやばかった。

 誘っといてなんだけど、私腕折れてるんだった‥‥


――――


 二ヶ月。そろそろ家の食料事情が怪しそうなので、家に帰ることにした。


「んー? 戻ってくるのか?」

「うん。すっかり冒険者も板についたし。でも、治癒術増やしてから戻ってくる予定だから暫らくもどらないかなぁ」

「そうかい。まぁのんびり採集依頼でもやってるか」


 テキトウな別れの挨拶をして家のドアを開ける。セントさんが色々売り払って買った家だ。少々小さい。部屋別々だからいいけど。そういえば、私は居候になるのか。

 扉を閉める直前に気付く。


「セントさん! たぶん戻ってきたら三人増えるから! お金があれば増築ヨロシク!」


「おー。って、勝手なことゆうなよ! ってもういねぇし!」


 何か叫んでるが関係ないだろう。


 私はすっかり温まった財布と共に帰路についた。





 -おーわりw-


ま、まさかよんでくれたの!?

ありなたやありがたや(合掌

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