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はじまりの時

 今の自分を捨て、現実と違う場所に一度は行ってみたいと思ったことはないか?by俺


―――ってこんなことを思ってる場合じゃない、俺は現在森の中を必死に逃走中。

何から逃げてるだって?それはアレだよアレ。

俺の後方には体長180cmもあろうかという赤毛の大猿が、木々を渡りながら迫ってきている。

俺がたまに方向を変えて走ると、猿も方向転換する際に、勢いで木が倒れてしまうほどの猛スピードで迫ってきている。


だが猿がそんなスピードにもかかわらず、俺はまだ追いつかれてはいない。何故か俺はこの世界ではいつもより体が軽く、俺もまた、普段ならありえない速度で木々を避けながら走っているからだ。


猿から何度目か分からないくらいの火炎弾が飛来してくる。放たれるたんびに走る方向変えたり、避けたりして俺はなんとか生き延びてきた。俺が避けるごとに火炎弾を変わりに受けた木が、燃えあがっていたりする。わずかにだが辺りの気温も上がってきたように感じる。


―――うお!

俺は何度目かの方向転換をする際、木の陰で見えていなかった樹の根に足を引っ掛け躓いてしまう。もちろん、普段とは違う速度で走っていた俺には反応などできず、地面にダイビング。

「くそっ!何でこんなとこに突き出てんだよ!」

俺は悪態をつきながらも起き上がる。だが俺の背後で何かが着地した音が俺の耳に届いた。

俺は嫌な予感とともにゆっくり振り返ると、大猿は燃えている太い腕を振り上げ、今まさに俺に振り下ろす瞬間だった。

猿は俺が転んでる合間に素早く接近し、頭上の木から飛び降りて俺の真後ろに着地したようだ。

ちっ、俺の人生はこんなとこで終わるのか…


◇◆◇◆◇◆


今日は2月14日、世間一般ではバレンタイの日。女性からチョコを貰えたりする日。だが俺には関係ない、彼女もいた経歴もないし、今日は彼女のいない連中と馬鹿騒ぎをしてくる予定である。

俺なんて珍しい奴を本当に受け入れてくれる人は、もうこの世にはいない。


俺は見た目は普通の日本人のように黒髪に黒目だが、本当は白い髪に白い目の姿をしている。髪は黒く染め、目にはカラコンを入れて常に黒くしている。

両親は生まれたばかりの白い俺を気味悪がり捨てた。それどこかで聞いたのか、伯母の時子さんが拾ってくれて育ててくれた。時子さんは金髪で碧眼で見た目は外国人のようだが、生粋の日本人。結婚はしておらず、一人寂しく暮らしていたため、こんな俺でも実の息子のように可愛がってくれた。


そんな時子さんも交通事故で亡くなった。対向車線からトラックが突っ込んできて衝突、時子さんが運転していた車は大破した。それでもわずかに息があったのか、時子さんは死ぬ間際『ネメシス』と窓ガラスに血で書き残して亡くなった。


俺は時子さんが残した『ネメシス』というのが気になってネットで調べると、ギリシャ神話で神の怒りと罰とを擬人化した女神を示した言葉であると分かった。時子さんは神の怒りでもかったとでも言いたかったのか?とも思ったが、なんとなく違うような気がする。時子さんが残した最後のメッセージは今でも俺にはしっくりくる解答が出てきていない。


後から時子さんの事故を詳しく調べてみると少し奇妙な点がある。相手のトラックを運転していた人物は、事故現場にトラックを残して消えた。まさしく『消えた』だった。警察がトラックを人物を捜索したがこの世界に居なかったのごとく消息を絶っていたし、会社も部屋もそんな人物は存在しないかのごとく消えていたらしい。


そんな事故もあったが、今では俺は一人暮らし状態だ。金は十分あるから何も問題ない。

時子さんの葬儀の際に、実の親を始めて見た――やっぱり金髪―――が、特段話すことも無かったし、相手も俺とは一言二言話しただけで、ほとんどしゃべらなかった。

時子さん生きていた時、チラッとだけ両親は海外を飛び回っていると話をしていたことがあったが、本当かどうか分からない。今までと同じように1度も連絡はしてこない。まあ今更連絡してきても、俺の親は時子さんだけなんだが。


いつの間にか昔のことを少し思い出してしまった。何気なしに腕時計を見てみると、

―――げっ

連中と待ち合わせの時間は18時、現時刻17時50分。ここから集合場所に行くまでに走って約10分

。マズイ…非常にマズイ…

去年の時は一番最後に来たと言うことで、飯を一人1品ずつおごらさせられた。奴等はこういう時は容赦なく高い物頼むから勘弁して欲しい。


俺は部屋を出てダッシュで集合場所にむかう。俺より遅い奴がいてくれ!と祈りながら走り、普段は使わない近道を使うために十字路を右に走りながら曲がろうとした時、曲がり角の先から突如車が現れ―――

駄目だ!当たる!

反射的に目をつぶり衝撃に備えたが・・・・・・・

アレ?

車が俺の体にドンとぶつかるかと思っていたんだが・・・


1分たっただろうか…本当はたった数秒かもしれないが、いつまで経っても衝撃はこない。

薄っすらと目を開けると俺の目の前には衝突すると思った車が、俺に数ミリというところまで迫って停止していた。


助かった・・・・どうやら運転手の反応が早かったからギリギリで俺は無傷で済んだらしい、車の進路から退いて運転手に謝ろうっと思ったが・・・その車には誰も乗っていなかった。気づけば周囲に誰一人もおらず、静まり返っている。


何だ?何が起こってる?そんな理解できない状態に置かれた俺に、突如背後から声をかけられた。

「そこの貴方、ネメシスのこと知りたくないですか?」

足音もなく突然話しかけられ飛び上がりそうになったが、ネメシス・・・俺の伯母が最後に残した言葉、その単語が出てきたのが一番俺を驚かせた。この状況は伯母と何か関係があるのか?


俺が恐る恐る振り返るとそこには白いシルクハットに、白いマント、さらに白いスーツまで着た全身真っ白な長身の得体の知れない人物が、俺の少し離れたとこに立っていた。親戚の人かと思い顔を覗いたが、そこには顔ではなく黒い仮面をつけていた。目の所には横に細長く穴が開き、口のところにはUの字に、まるで俺のことを笑っているかのごとく穴があいている。


「アンタなにもんだ?」

「コレハコレハ失礼しました。ワタクシ、白紙はくしと申します。案内人をしております。貴方がトキコさんの息子さんですよね?」


最後にケタケタケタと笑うかのごとく言うのは、癖なのか?非常に気に障る。案内人か、ますます得体の知れない人物だが、こいつはネメシスについて何か重要なことを知っている、そう俺の直感がつげている。


「ああ、そうだ。お前の言っているトキコさんが俺の知っている時子さんならな。」

「トキコさんは貴方の時子さんと間違いなく同一人物ですよ。この状況が証明しています。アナタ、ネメシスのこと知りたくないですか?どうです?」

やはり聞き間違いじゃなかった。確実にネメシスとコイツは言った。


「お前、ネメシスが何を示しているのか知っているのか!」

「ええ、もちろん知っています。それに貴方の伯母の時子さんもよ~く知ってますよ。しかしネメシスのことを言葉で説明できません、日々変化しているものですから。体験していただくのが最も理解できると思われますが………行きますか?ネメシスへ……」

「ネメシスというのは場所のことなのか?・・・あぁ、行ってやる。それでネメシスが何を示しているのが分かるというのなら!」

「では行きましょう。ネメシスへと…」


白紙とかいった野郎が白いマントを広げると、中から大量の本が飛び出してきくる。大量の本は自分の決まった場所でもあるかのごとく、それぞれ俺を囲むように空中で停止したかと思うと、誰も触れてもいないのにペラペラとめくれ始める。


「ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタ…」

すべての本が空中で停止しと思ったら、突然白紙って野郎がそう笑いだすと本も合わせるかのようにバラバラと勢いよくめくれだし、俺の目の前に光の玉が出現する。光が物凄い早さで膨張し、一瞬眩い光に包まれ俺の視界を覆ったかと思うと、いつの間にか俺の前には1本の木が立っており、周囲を見渡すと俺は森の中に一人立っていた。


「はぁ~、もしかしてテレポートしたの―――」

ガサッガサッと俺の頭上から音がし、咄嗟に身構えてしまう。

音のした方向を見ると、太い木の枝の所に、葉っぱとは反対色の大きな赤毛の猿が存在していた。

ヤベェ。生物の本能的に分かる。あの猿は危険だ。


頭の中では警報が鳴りっぱなしだが、俺は音を立てないよう慎重に後ずさる。だがここは森の中、葉っぱや草、木の枝などが地面にあり、音を鳴らさずに動くことなどできるはずがない。

パキッ―――俺は細い枝を踏みつけてしまい、音が聞こえたのか猿はこちらに目をむける。それと同時に俺と目があった。


俺は即座に猿に背を向け逃走、追ってきていないと希望を持ちながら走りながら振り返ると、猿も少し遅れて追ってきているのが見えた。

やっぱり追ってきたか…

しばらく全力走って分かったが、いつもより体が軽い気がする。そして全力で走っているが俺の体は一向に疲れない様子も無く、周りの景色もいつも以上に速く過ぎていっているように感じる。

これなら逃げ切れるのでは?と一瞬思ったが、猿も物凄いスピードで追っかけてきているため、離れることはなかった。

だが俺の体がこの状態で助かった、いつもの調子なら一瞬にして追いつかれていたことだろうからな。


大猿と俺の鬼ごっこは少しの間続いたが、猿は何を考えたのか、俺を追いながら口を大きく開ける。

すると猿の口の前に、突然何処からか火の玉が出現する。火の玉は人間の顔くらいの大きさがあり、小動物くらいなら楽に燃やせるかの如くメラメラと燃えている。

ガフッ――っと叫びながら猿は火の玉を、俺に向かって物凄い速さで放ってきた。

俺はなるべく走る勢いを殺さず方向を変えると―――

火の玉は俺のすぐ側を通りぬけ、木に直撃した。

火の玉が木に衝突した瞬間、爆発ともに炎が燃え広がり、森の一部分が火の海と化した。

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