ありすインワンダーランドは大騒ぎ
うふ。うふふふ。
遠い目になっちゃうな~。
よみがえるのは数々の功績(悪行?)
筋肉だるまを退治するため「しょーりゅー○!」とか、「○斗ひゃくれつ拳!」とか言いながら大技披露したもんなー・・・。
やってみたかったアクロバッティックな大技が決まると、こう・・・なんていうか・・・達成感?
やり遂げた感じが沸きあがって、ものすごく、きもちよかったんだよねー。
両手ついてさ、開脚した足で四方を固めたマッチョ剣士を倒したこともあったなー・・・。「旋○脚」だっけ? あれはなかなかの出来だった・・・目が回ってよろよろしたけど。
オーバーヘッドで、投石してきた大岩を蹴り返したこともあったっけなー・・・。
肉弾戦の一方、直接打撃系じゃない技も試してみた。離れている相手に有効なら嬉しいもんね。
でも、「かめ○め波っ!」ってやってみて、ぽす☆とも、ぱす☆とも言わない完全空振りだったのには、苦笑いしたっけなー・・・。
ああ、この力は肉弾戦じゃないと通用しないんだなーって分かってから、気功技は封印した。
・・・トリップする度、わんこ天使の護衛の皆さんは、あらかた敵方に倒されてて、そりゃ、もぅはじめは、頭が真っ白になった。
あたしだって女の端くれだ。血だって一月に一回は見てる。でもでも、あんな殺伐とした現場は体験したことない。当たり前だ、普通の中学生は、戦わない!
幻想か、現実か、分からないけど血なんか、見たくないんだ。
これ以上滴るものや迸るものは見たくないし、ちっちゃい子に見せたくなかったから、天使抱えて逃げたさ。
それでも追ってくる相手は、渾身の一撃で昏倒させて回った。
自分の怪力考えると、過剰防衛かもしれないよ?
でもね、できれば気絶したまま、起き上がらないでほしい。
追いかけてきて、剣を振り回さないでほしい。
・・・そのむき出しの剣、あたったら怪我するだろうが! 花の乙女に傷残す気か! そっちからかかってきたんだ。しかも女子供だと思って、優越感に満ちた目で、ねずみを甚振るつもりでいたんだろう!
だから、殴り倒すときは、起き上がるなと祈りをこめて。
蹴り倒すときは、再起不能になあれと願いをこめて。
金髪天使を脇に抱え、殴り倒し蹴り倒し踏み倒しながら、人気のないところを探して走った。
何より、生きるために。
腕に抱えた暖かなぬくもりを、一刻も早く安全な場所に送ってやりたかった。
一時のショートとりっぷで出会った金髪天使。
彼を守り抜く事が、唯一の使命で、唯一の帰る道。
だから、脇目もふらずがんばって戦場を駆け抜けたさ。
それが・・・金髪のわんこ天使は実は一人じゃなかったという、この、事実。
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今じゃすっかりあたしより成長しきった(身長も肩幅も、胸も腰も、太腿も)美人や、渋めの無骨なおっさんや、お髭がナイスなアールグレイのおじさま達。
極めつけは王様も。
こんなに、助けてたなんて、知らなかったよ・・・。
「金髪わんこは一人じゃなかったんだねー・・・」
まあ、いつもすぐに帰還してたからなー・・・。お互い名を尋ねることもできないことが多かったのに、いつも「ありす!」って金髪わんこに名前を呼んでもらってたっけー・・・。
そうか。おんなじ顔にしか見えなかったから、なんとも思わず同一人物だと思ってたけど。
・・・上目遣いで成長した金髪わんこ達を見上げた。
・・・ああ・・・。
なんだか、じんわりと喜びがこみ上げてくる。
だって、さ。
この子たち(おっさんだったり、おじ様だったり、おねえさまだったりするけど)は、あたしが助けた命なんだ。
あたしは、金髪わんこをちゃんと助けられたんだ。だって、生きてこんなに大きくなってくれてるんだよ! あたしの胸にも達してなかった小さな小さなわんこ天使が。
こんなに、大きくなってここにいる!
「・・・そっか。よかった。みんな無事だったんだねー」
とたんに周りにいた彼らが、真っ赤な顔をして焦りだし、口々に、それぞれの「危機」の礼を言い出した。
・・・いや、だからその、ぐ・・・具体的な描写はいい!
どこでどのように助け出されて、あたしがどのように敵を倒したかは、もぅいいから!
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・・・これを外せばきっと帰れるのは間違いない。まあ、こっちで長居した分、時間はたっているだろう。
向こうで寝てるはずの自分の体が少し心配になった。
心優しい、けれどお茶目なクラスメートの面々を思い浮かべる。はじめやさしく揺り動かし、その内がっくんがっくん体を揺らし、平手打ちを五往復食らわせて、それでも起きないあたしを前にしたら、みんなはどうするだろう・・・? みんな、みんな・・・。
「・・・ひ・・・ひたいに肉とかやだからね!」
がばっと顔を上げて虚空に叫んだ。
やりそうだ。
イヤミのとんがりひげとか、ほっぺにぐるぐるとか、閉じたまぶたにパッチリ目とかぁ! あたしのクラスメートの面々なら、笑ってすごくやりそうだああ!
うわあん、早く帰らなきゃ!
首輪外して急いで現実に戻って・・・乙女としての何かを守り抜くために!
・・・そうよ。
わんこ天使が嫌がっても、ジン以外の金髪天使に頼んで、外してもらえばいいじゃんと、軽く考えていた。
・・・ああ・・・甘かったなー・・・。
「・・・申し訳ない、ありす。それは、その手で嵌めた者しか、外せないんです」
・・・・・・マジですか。
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「・・・ジ・・・ジン! ありすが困ってるだろう、外しなさい!」
「いやだ!」
金髪わんこはますますあたしにすがり付き、ぎゅううううと腕に力を入れてくる。
「ありす、ありすぅ・・・やっと会えたのに、消えちゃうなんていやだ・・・」
すがりつくわんこは可愛い。
はた迷惑なまでに可愛い。
でもだめだ、甘やかしてはいけない! 心を鬼にするのよ、ありす! 幼児教育は早期教育!
だめなことはだめだって、今教えなくちゃこの子はいつ覚えるの!
すうっと息を吸って、一喝して終わらせようとしたあたしに。
「・・・外したら消えてしまうのだろう? ならば、せめてわたしが死ぬ少しの間だけでも、ここにいてくれはせんだろうか・・・」
ごほごほ咳き込みながら、息も絶え絶えな様子でじいちゃんが懇願してきた。
こ、これは・・・困った。
こんな高度な精神攻撃、あたしに回避する能力があるとお思いか!
しかも畳み掛けるように「・・・王はもう長くはないのです」と来たもんだ。
「王は、死ぬ前に一度で良いからあなたに会いたいと仰っていたんだ、ありす。どうか、その気持ちを汲んでやってはもらえまいか」
筋肉マッチョな過去天使、今、ヒグマの武官さんが懇願してきた。流されるな、ありす!
「ありす・・・」
「ねえ、ありす・・・」
「おねがいです、ありす、」
ふ。ふふふ。ふふふふふ。
・・・さて皆様、質問です。
ここまで懇願されて、断れる・・・?
感情じゃ分かってる。
有無を言わさず帰るべきだし、帰らなきゃあたしが偉い目にあうんだ。主にお笑い系の何かを寝てる体に施されて、乙女としての何かを失っていくのよ。
でも、ね、断ることはできないことも知っていた。
白髪のご老人は、玉座に腰掛たままあたしを凝視しているままだ。
潤んだ瞳に見つめられて、手を差し伸べられて。
その手がプルプルと小刻みに震えているんだよ? ・・・握りしめずにいられよか。
がしっと手を掴んで、両手で包み込んでしまったよ。
そしたらさ。
「ほん、もの、だ・・・」
小さく呟いた声。しわの深い顔の中、落ち窪んだ碧のまなざしが、歓喜で揺れていた。
かさついた唇が一度二度動いて、声を絞り出すように発した。
「・・・あい・・・あい、たかった・・・。わたしの、ウワンコウ」
・・・いや、あたしわんこじゃないし、にんげんだものー。
「あなたに助けてもらったあの時、名前も名乗れず、すぐにあなたは消えてしまったから・・・ずっと、夢だったのだ、と。あれは、わたしの願望に過ぎないと、思って・・・」
・・・そだね。いきなりトリップして、いきなり戻されるあたしを、金髪天使は目の前にするんだ。
急に現れて、息つく暇もない内消えてしまうんだ。
幻。夢。正気を疑ったって仕方がないくらいだろう。
・・・あやしいよねー・・・。あたしったら、存在があやしすぎるー。
王様にとって感動のご対面らしいのは肌にびんびん感じます。
しかし・・・周りにいる筋肉マッチョな美形がそれぞれ泣いているのは、どーしたもんかなー・・・。
なんか、もー、周りのウンウンなんでもわかってますよって感じの良い雰囲気、どう受け答えれば良いの・・・?
と、言うより何より。
ぶっちゃけたところ。
「・・・ファーストコンタクトから、今って、その・・・何年たってるの・・・?」
・・・あたしったら、気分はすっかり、浦島太郎よ。