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ありすインワンダーランドはマッチョばかり

誰のせいって・・・ねえ。

 さて皆様お立会い。


 あたしは三年間、ずっとこれは小旅行しょーととりっぷだと思っていた。


 旅行先が異世界なのが問題なだけで、言葉も風景も食習慣さえ違う国は、世界中どこにでもある。


 同じ日本の中でだって、北と南じゃ言葉も生活習慣も風習さえも違うでしょー?


 だから、見知らぬ異国の日常を垣間見て(・・・たとえそれがものすごくバイオレンスだったとしても)


 異国の人と片言でお話をして、意思疎通を楽しんで(・・・それが有無を言わせぬ格闘技ボディトークだったとしても。死んでくれ! 嫌だ! な感じで荒みきってたとしても)


 街角を散策して、その国の風を肌で感じるのが、実は楽しかった(・・・わんこ天使と一歩二歩よろよろ歩くだけだったり、抱えあげて走り抜けるだったけどさー・・・)


 出会う刺客の皆さんは、血走った目であたしを見たけど、その衣装たるやもう!


 中世のがっちりマッチョな騎士様(血染めの剣付き)や、ボンネットかぶった淑女(毒塗りナイフ添え)や、レースフリルで飾られたメイド服に身を包んだ可愛い娘さん(実は暗殺者)が沢山なんだよ!

 まさしく目の保養! 萌えいでか!


 山中に放り出された時だって、見慣れない樹木のもたらす香りと風の心地よさに異国情緒を感じたし、室内にとりっぷした時なんか、もぅ、もぅ、至福だったね!


 たっぷりとしたカーテンの見事なドレープ(ところどころに血痕あり)、陰影も麗しのアールデコな調度品(の前に蹲って呻いている暗殺者の皆さん)、精緻に織られたじゅうたんの見事さ(吸い込んだ血潮で湿ってた)は、まさしく博物館か美術館収蔵物。


 この世の贅を極めてるけど、一本筋の通った品があってね、決してけばけばしくないの。


 これぞブルジョワ。その場に立って、その空気を吸える幸せ。


 ・・・一瞬だけどね。


 一瞬だってわかってたから、すぐに現実に帰れるってわかってたから、目の前の現象を片付ける事に集中できた。


 時折訪れる小旅行。それ以上のことはないんだ。


 それだけで良かったんだよ!


 

 ********




 「ええと・・・えええと」


 目の前には、一段上の玉座から身を乗り出したまま感極まって泣いている、白髪のおじいさん。


 ・・・なんか、この国の一番偉い人っぽい・・・?


 「あり、す。ありす・・・」


 ひゅうひゅう言いながら手を伸ばして来る。


 あたしに向けて伸ばしているその手。


 ・・・なぁんか、いやぁな予感がするんだけど。


 すると、金髪天使ががっちりホールドしてきた。あれよね、お気に入りのおもちゃを取られまいと必死な子供。

 けどさ、あたし今、非力なんだよねー・・・。


 「あり、す?」

 「ありす? どうしたんだい?」

 玉座の老人と、玉座の脇のナイスミドルなおじ様が、なんで振りほどかないのかという顔で、あたしを見たんだ。


 ・・・ふぅん。

 あたしの怪力知ってるのね? わぁ、ますますもって、まずい。

 

 「ありすは僕のものです」


 金髪天使がホールドしたまま玉座を見上げて言い放った。


 「ぇ」

 「ジン! おまえ、」


 背後に立つ誰かが警告した。

 足元でまつわりついてた金髪わんこ天使が、ちっと舌打ちしたようだけど、えええー、空耳だよねぇ?

 なんか、周りから、すげーガン見されて・・・いや、見てるのは金髪わんこだ。


 みんな、この子を見ている。

 厳しい目で、見ている。


 「ジン。ありすがつけているのは、拘束の環だな。外しなさい、可愛そうに」


 壇上の、王様の後ろに立つおじ様がそう言った。


 拘束の環って、この首輪のこと?


 「嫌です。これを外したら、ありすがいなくなっちゃうんですよ?」


 「それでも、だ。王家の守護精霊を隷属の首輪で繋ぐなど!」


 「いなくなって、出会えるかどうかも分からないまま、無為に過ごすのはごめんです」


 「ありすは、我らの守護天使だ!」


 「いいえ」


 金髪わんこ・・・ジンと呼ばれた少年が碧の瞳を細めて笑った。


 「ありすは、僕のものです」


 ・・・・・・。

 ええ、と。

 推定十歳児に、僕のもの認定されてしまったよー。


 あは、あははは、と乾いた笑いが口をついて出た。


 あーもー、笑うしかないな、これは。笑うしかないよ、ここは。


 笑ってごまかせ!


 乾いた笑いを張り付かせ、さあ、どうしようかなーっと逡巡していたら。


 ぎらぎらした碧を怒らせて、その場にいた成人金髪天使の一人がわんこ少年を睨みつけた。


 「たいした度胸だな、ジン! ありすは、あのありすだぞ! あの時わたしを救うため、なみいる敵兵の中を駆け抜けた、戦女神だ!」


 ・・・わー・・・戦女神に昇格したー・・・。


 「お前だけじゃない! 俺を助けてくれたときは、刺客を完膚なきまでぼこぼこにしてくれたぞ! 目を見張るほどの腕力と脚力! あれを見て自分の貧弱さに泣けてきたんだ! いまの俺がここにあるのは、ありすのおかげだぞ!」


 筋肉マッチョにあこがれられる女子中学生・・・なんか、終わった感じがする・・・主に、女の子としての存在価値が。


 「まあ! わたくしの時は、攫われて手篭めにされかかったところ、さっそうと現れたありす姉さまが、わたくしを救い出してくれましたのよ! 素敵でしたわ! ありすねえさまは、わたくしを軽々と抱き上げて下さって、一緒に逃げてくれましたの。飛ぶように変わる景色、時折追いついた追っ手を容赦なくけり倒した雄雄しいお姿! かわいらしくいらっしゃるのに、信じられないくらいお強くて・・・あれからむさくるしい男の下になど嫁ぐ気が失せましたわ!」


 わー・・・妹属性のレズっこ製作してたー・・・。


 「わたくしの時は!」

 「何を! 俺のときはな!」

 「黙れ、私を背にかばいつつ、漆黒の闇の中を駆け抜けたあの脚力!」

 「群がる敵兵をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、振り下ろされた刀を素手で・・・」

 

 えー・・・えええー・・・。


 そりゃあね金髪天使を助けるために、敵をふるぼっこにしたとも。

 なんたって怪力が約束されてたから、最初恐る恐るだったのが、回を重ねるうちに吹っ切れて、ムーンサルトも真っ青な月面宙返りをしながら、華麗に敵をけり倒したさ。

 

 「相手の獲物を奪い取り、まるで、お手玉をするように弄んで、敵にお返ししてくれた!」


 ああ、それもやったなー。

 敵の武器を見よう見真似で振り回して、金髪わんこと逃げたとも!

 武器をお手玉なんて序の口だったさ!


 「・・・なにをっ! 私を救おうとありすは、あの華奢なからだからは考えられない力を発揮して、相手兵士を三人、お手玉よろ、」


 「いやあああああああっ! それは言っちゃだめええええっ!」

 

 イメージが!

 あたしの可憐なイメージ(いや、ない)ってもんが!


 筋肉だるまを文字通り手玉にとっていたなんて(本当のこと)言っちゃだめー!


 穴! 穴はどこっ! 穴に入って耳をふさいで恥ずかしい出来事が過ぎ去るまで出てきたくないっ!


 「ありす、ありす、どうしたの?」


 金髪わんこ天使が、あたしの前で、妙におろおろしていた。


 声をかけられても見ざる聞かざるで、うずくまり・・・、気がついたら小一時間が過ぎてました!


 「ありす、ありすぅ・・・」


 ふと、顔を上げると、金髪わんこが今にも泣きそうな顔であたしを覗き込んでいた。


 うわ、可愛い顔が台無しじゃん。


 「・・・これ外してくれたら許したげる」


 「やだ」


 ・・・くそ。


 敵は頑固だ。


 あたしは長期戦になることを、覚悟、した。





 


 

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