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ありすインワンダーランドで舞う

 「鍛錬?」

 あたしは真剣な眼差しの騎士たちに囲まれていた。


 半分前に出たディオが威嚇しているが、彼らも必死の様相だ。


 半分泣きながら言い募る若い・・・見習いくんだな、これきっと・・・。


 後ろに控えた金髪天使が腕組みしながら、こちらを見てた。


 「ノーティス・・・貴様」

 「ふん。いいではないか、こうしてありすが現れたのも何かの縁だ。日々の鍛錬をありすに見てもらいたいと願ってなにが悪い!」

 「貴様に惚れる事は万に一つも無いのに?」

 ベアトリーチェがぼそっと突っ込んだ。なになに?

 目の前にいた金髪マッチョ君が、ぼっと音立てて真っ赤になったが、なんだ、君、持病もちか?


 ノーティス君は、近衛兵団の分団長なんだってさー・・・。


 あああ、でもさあ。


 「あたし今、非力なんだよねー」


 うん。しかも太、細マッチョな君たち相手に、何の鍛錬をしろと? 殺生な。


 「・・・別にありすが力無しになったわけじゃないよ。環が抑えているのは、力だけ。業や動きに制限は与えてないよ」


 「・・・げ」

 で、でもね、あたりゃ痛いし、打っても蹴っても痛いし!


 「反射速度と、機転はかわらない、ということか?」

 ・・・待てコラ、ディオ。

 な、なんでそんな真剣な顔であたしを見るううっ!


 なんか、見えない尻尾が見えた。気のせいだと思いたい。



 *******



 「ウワンコウに手合わせしてもらいたいかあああああっ!」


 「「「「「「おおおおおー!」」」」」」


 「足蹴り受けて、気絶したいです!」

 「マウスル卿がおっしゃっていた、ぴんくの膝蹴りを、あごにひとつ!」

 「じゃんぴんぐにーどろっぷ、受けて勃ちます!」

 「やはり、某は呪の齎す大技、「ほくとひゃくれつけん」を・・・」


 なんか違うもん混ざってるし!


 「なんの、大技といえば「なんとすいこけん」の麗しさに勝るものは無いと、イリリアス殿が!」

 「いやいやそれならば、「ぺがさすりゅうせいけん」の方が、拳ひとつの大技で!」


 「「「「「・・・おお、そうだ、ありす殿。ところで、この呪文、どのような意味があるので?」」」」」

 ずっと謎だったのです。

 悪鬼殲滅の呪文ですかな?

 身体回復の呪文ですかな?


 「・・・き・・・キカナイデクダサイ」

 

 真剣な面持ちで質問してくる騎士さんたちの前で、あたしは真っ白に燃え尽きた。

 う、う、過去のあたしに膝蹴り食らわしたい。

 やや泣きが入って、たそがれていたら、なんか大声が聞こえてきた。

 ・・・ベアトリーチェだ。


 「・・・この姿のありすを鍛錬場へ引き出せというのか、貴様達、それでも騎士か!」

 ベアトリーチェが怒髪天をついていた。

 金髪スレンダーな美女マッチョはどこにいても目立つ。

 金髪が陽を浴びてきらきらと輝いて、碧の瞳が怒りに燃え上がる。綺麗だった。


 「ベアトリーチェ、どうしたの?」

 「どうもこうも、おねえさま! 非力な女性に組み手を願いたてる愚か者が多すぎます!」

 筋肉マッチョまんたちはあたしのドレス姿を見て、ぼっとさらに顔を赤くしてた。

 しかもなんか。


 「・・・そ、その、あのお姿で、く・・・組み手・・・」

 ぜひ寝技を極めたいと思います!

 マウントポジションはお任せしますから! 


 なんかいらん願いが聞こえてきた。ってか、マウントポジションってなに!


 「あのお姿でじゃんぴんぐにーどろっぷを、食らったら、ス・・・スカートの奥の秘密の花園が・・・」

 右翼の一角を構成していたマッチョたちが、前かがみになって鼻血をふきだした。


 「ぴんくの膝小僧だけでなく、秘められし宝を目に出来るのか・・・、れ、れ、れーすの・・・」

 マウスル卿の寡黙なお顔が火を噴いていた。

 惜しいな。寡黙な伯父様が実はむっつりスケベな爺だったことが判明しました!

 なんか・・・残念だ。

 

 「・・・・・・でも、みせぱんだし」


 「ディオオオオオ!」


 悶えるマッチョたちを見つめていたディオが、ボソッといらん事を言って、ベアトリーチェとつかみ合いをはじめた。


 みんなあたしを見上げては、筋肉をふるふるさせている。仕草がいやに乙女なのが、果てしなくヤダ。

 なんだよ、その、恋する乙女みたいな眼差しはぁっ!

 あああー。なんだかなー。

 魂ざっくり削られた感じだよー。

 

 「ありすぅ・・・」

 あたしの周りを心配そうな顔でちょこまか動くジン少年が、潤んだ瞳で見上げてきた。

 今のこの状態の中、ジン少年を思いやるいい大人がいないのが大問題だね。


 あたしは金髪わんこの金色の頭をよしよしと撫でてやった。

 とたんにうれしそうに頬をばら色に染める、可愛い子。周りがこんな筋肉馬鹿ばかりじゃ、必要な情操教育受けてこれなかっただろうなー。お母さんはいるみたいだけど、いまだに姿見えないし。

 「ジン少年。あんたはまっすぐ育ちなさいよ?」

 「うん。だって僕、ありすのみせぱんになんか、興味無いもん!」

 「うむうむ。・・・この年であったら困るわー」

 うう、癒しだ・・・。ふわっふわの金髪の手触り。このもふってと言わんばかりのかまって攻撃。碧色の瞳。

 愛い愛い。ぎゅうって抱きしめて。しばし。

 心洗われそうだよ。

 「・・・ふふ。僕が興味あるのは、みせぱんの中身だもん(下着風情に欲情して無駄玉撃つほど馬鹿じゃない)」


 ・・・あれ、今キミなんか、言った!?

 なんか、ジン少年、癒しを覆す発言をしなかった!?

 胸に抱いたジン少年をべりっと引き剥がして顔をまじまじと見つめた。冷や汗が出る。


 でも、にっこり笑ったジン少年が可愛く小首を傾げて・・・。


 「んんん、ねえありす。もっとぎゅうってして」

 ジン少年がねだる様に体を押し付けてきた。


 き、ききき、聞き間違いだよね!(汗ダーラダラ)


 ・・・でも、第六感て言うのかな?

 そんなある意味、一番危機的状態に陥っていたこの瞬間。頭の隅っこの何時もなら動かないところが、ぴくん、と動いた。

 

 ・・・だから、あたしは腕の中で尻尾振ってたジン少年を抱え込んで、とっさに地面に転がった。


 間髪いれずジン少年が立っていた場所に、無骨な矢が突き刺さる。


 刺さった瞬間の音が耳の奥で響く。同時に神経を研ぎ澄ませ、辺りをうかがった。さすがのマッチョ騎士たちも、厳しい瞳であたりを睨んでいた。


 「ありす!」

 ディオがすかさずあたし達の前に出た。


 「来る!」

 「ありす!」

 「やだ、ありすぅっ!」

 ディオにジン少年を放り投げた。ディオはジンを抱え込んで背後に隠し、身を起こしてあたしを見た。

 「ありす!」

 待て。とディオは言いたかったんだと思う。

 でもあたしは、ジン少年を手放すと同時に、地をけった。


 身が軽い。力無しでも体は自由に動くのか。今はそれがうれしい。


 瞳の奥が熱くなって、耳鳴りがするんだ。瞬きすらしないで、ぐんと加速する。


 あの、奥。あそこから矢は飛んできた。今なら、間に合う。


 だん!と地面を蹴り付けて、天高く舞い上がった。


 照準の射程内に、人影。


 「にぃぃがぁぁすかあああああああ!」


 空気抵抗をなくした体中をばねにして、半回転を加えながら、右足に渾身の力を込める。着地の瞬間、逃げを打つ奴に、延髄蹴りを食らわせた。


 でもいつもより威力が弱い。


 蹴られた首筋を庇いながら、男が懐からナイフを持ち出した。


 突いてくる剣の鈍い輝きを見据えながら、体を半分ひねって避ける。その際に左手で剣先を押さえ右肘を叩き込んだ。・・・ううん、弱いなぁ・・・。何時もならゴギャって言うのに・・・。


 「力なし、か・・・。でも」


 嵌められた首輪を思う。でも今更言っても仕方が無い、身動き取れないようにして、拘束出来ればめっけもんだ!


 「まずは、足止め。それから戦意喪失、か」

 「こ、この、小娘ぇぇっ!」

 敵さんヤル気満々だし。あたしだって、逃がす気は、ない。


 拳を握り締めて男が殴りかかってきた。

 拳を左手でいなして、右足で相手のすね目掛けて上から・・・。


 「斜め45度で打つべし!」


 ・・・いわゆる、ローキック、だ。


 しかしここで手を休めたりなんかしない!だってあたし非力な少女だもん!(←これ大事)

 非力な少女でも相手のすねを、正確に上斜め45度で蹴りつければ、骨にえげつない振動が伝わって、立ってられなくなるって、格闘技好きな先生が言ってた。実際今まではそうだった。うまくいったら骨が折れてくれるんだ。しかし、いつもどおりなら骨砕いた段階で終わりなのになあ・・・。

 そう、いつもと勝手が違ってた。


 なまじ非力だから、たいしたダメージにならず、相手の戦意喪失に繋がらない。

 技はあっても、確たる効き目が無いからなぁ・・・。


 あ、ほら、上半身が傾いだ。効き足痛めたくらいじゃ、戦意は失わない。


 ・・・だから、あたしは腰の高さで相手の腹を蹴りつけて、なお下がったあご目掛けてつま先で蹴り上げた。・・・そんでとどめに振りかぶった足で踵落とし。完璧。


 ごふうっとか言いながら男が倒れていくのをスローモーションのように見ていた。

 

 「・・・目、覚まさないでね」


 今動いたら、別な意味のとどめ食らわしちゃいそうだわー。



 *********



 縛り上げた奴は、貴族の子飼いだった。隣国の王様と手を繋いでいるらしい、古参の貴族だ。

 へえええ、お約束なお家騒動があるのねー。何々、もしかして革新的な王様と、旧態依然のどっぷり利権に浸った奴らのいがみ合い?

 わぁ。

 んじゃ、軍部はどっちの味方なの?

 へえ、王様。庶民の味方なのー。


 貴族のお偉いさんの協力者はいるのー? 中心人物はもちろんお隣の王様なんだろうけど。

 あれれ、いるんだ。へえだあれ?


 その質問に、困った顔で淡く笑ったのがディオだった。


 「ありすに見えたいと願うのは、この国に住むすべてのものの願いだろう」


 たんたんと話し始めたのは、ディオのお父さんルミナリスさんだった。


 「金色の髪に碧眼の、初代エンダールに似通った面影の子供というのが第一関門」


 「でもみんな、金髪碧眼で生まれるわけじゃない」


 「それでも、年が近づくにつれ、子供は期待に胸を焦がした。明日現れるかもしれない守護天使との邂逅を」


 「・・・でも、あえない人もいたんだ」


 会えないまますごした者はやがて、少しづつ歪んでいった。

 血筋は同じなのに受け継がれなかった奇跡。


 彼らは自分の存在意義をこの国の中で見出す事が出来なくなったのだろう。


 力で台頭しようにも、及ばず。

 知恵で名を上げようとしても。


 絶対の守護者を得られなかった負い目は、重かった。


 「彼らが逃げ込んだ先は・・・隣国」


 ルミナリスさんが嘆くように諦めるように囁いた。

 「私の兄と、マウスルの兄。イリリアスの弟に・・・・・・ディオの兄だ」


 「彼らはきっと、ありすを・・・」


 なぜ現れるのか。

 なぜ私ではないのか。

 彼らはずっと問い続けている。



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