第九話 小人族の王と由緒ある扉
黒い瘴気が消えた広場には、焦げた土と、守り神の亡骸だけが残っていた。
やさしい大地の風が吹くたび、灰が静かに舞い上がる。
ロウはゆっくりと膝をついた。
「……。すまなかった。もっと早く気づいてやれれば……。」
亡骸に深々と頭を下げ、その後、両手を合わせて祈りを捧げるロウ。
亡くなったものへの敬意や合掌の姿は、セイにとっても前世の文化を彷彿とさせる。
その声は、戦士ではなく、ただの村人としての痛みに満ちていた。
ミーナもセイを抱きながら、そっと亡骸に手を合わせる。
「守り神さま……。いつも村を見守ってくださって……。ありがとうございました。」
セイは幼い身体のまま、胸の奥が締めつけられるような感覚に包まれた。
(俺のせいで……。巻き込んでしまったのか……?)
そんな思いが、言葉にならずに胸の奥で渦巻く。
■ 守り神の墓
ロウは立ち上がり、村の外れへ向かった。
ミーナとセイも後を追う。
村の裏手には、昔から使われている小さな丘がある。
村人が亡くなったとき、彼らが静かに眠る場所だ。
「ここに……。眠ってもらおう。」
ロウは鍬を手に取り、黙々と土を掘り始めた。
戦士の腕力ではなく、農夫としての確かな動きだった。
ミーナは花を摘み、セイは小さな手で石を集める。
やがて、静かなお墓ができあがった。
ロウは守り神の亡骸を抱き上げ、丁寧に土の中へと寝かせる。
(何か念力のようなチカラで軽々と抱き上げているように見える。そんなちからも親父は持っているのか。)
「……。長い間、村を守ってくれてありがとう。」
ロウは深く頭を下げた。
ミーナも涙を拭いながら祈る。
「どうか……。安らかに。」
セイも小さな手を合わせた。
(俺……。大きくなって強くならないと……。)
「見て!ロウ!セイも一緒に手を合わせているわ!」
「本当だな!俺たちの様子をしっかり分かってくれているんだろう。」
胸の奥で、何かが静かに燃え始める。
■ 旅立ち
墓の前でしばらく静寂が続いた後、ロウが立ち上がる。
「よし……。行こう。小人族の王に報告せにゃならんし。」
「これからのことも相談したい。」
ミーナはセイを抱きしめ、頷いた。
「うん。守り神さまのためにも……。前に進まないと。」
「ロウが考えていることもわかっているわ。」
「あの場所に行くしかないんでしょ……。私たち……。」
「あぁ、そうだな。」
「この世界でゆっくり過ごしたい気持ちもあったが、魔王の手先が迫った以上、あの場所に身を隠して生きていく必要がある。」
セイは二人の会話に耳を澄ます。
(俺たちは、どこにいくのだろう?逃げるのか?逃げたくはない。)
三人は村を後にし、森の奥へと続く古い石畳を歩き始めた。
■ 小人族のまちへ
森を抜けると、巨大な大樹が姿を現した。
その根元には洞窟のような入口があり、小人族の兵士たちが整列している。
「ロウ殿、ミーナ殿、セイ様。王がお待ちです。」
案内されるままに中へ入ると、空間が揺らぎ、異次元のような広大な地下世界が広がった。
光る苔が星空のように輝き、中央には白い石造りの城がそびえている。
「相変わらず……。すごい場所ね。」
「ここが小人族のまち、久しぶりで懐かしいなぁ。」
小人族はホビット族とも呼ばれ、自然との調和を重んじる一族である。
すべてのものに意味のないものはないとし、自然は神様から与えられし恵み。
すべてのものに神様が宿っていることを信仰している。
■ 王との対面
玉座の間に通されると、小人族の王、アルゴ王が静かに立ち上がった。
「ロウよ。久しいな。」
「王よ……。守り神が、魔獣に憑依され、倒れました。」
王の表情が曇る。
「苦しゅうない。昔のようなに話そうではないか。」
「そうだな。俺たちの仲だしな。久しぶり過ぎてどんな会話をしていたかとは思うが、あらためて久しぶり!アルゴ爺さん!まったく歳をとってねぇ感じが元気そうで何よりだぜ。」
「ロウちゃん!ありがとよ。久しぶりに会えてうれしい限りじゃわい。」
「爺さんはどうせ俺のことより、ミーナに会えた事の方がうれしいんだろうがよ。スケベ爺が。」
「ロウ殿!王に向かってスケベ爺は失礼でございます!」
ホビットの衛兵がロウを諫める。
「こらこら、アルゴじーじ?さっそく私のお尻を触ってますが……。」
「ミーナ。衰え知らずのお尻に感謝。」
「どこに感謝してんのよ。じーじ。」
「この世に意味のないものは何一つないからのう。ひっひっひっ。」
「……。あの穏やかな守り神が……。魔界の瘴気がここまで及ぶとはのう。」
アルゴはセイを見つめる。
「そして、その子が……。光の子か。」
セイは思わず身を縮めたが、アルゴは優しく微笑んだ。
「恐れることはない。光の子よ。世界に希望をもたらす者よ。だが同時に、魔界にとっては脅威となる存在でもある。」
ロウが一歩前に出る。
「アルゴ爺さん。今日はお願いもあって来たんだ。」
「おまえさんのことじゃ。時の扉のことじゃろう?」
「そうなんだ。時の扉を開き、時のダンジョンへ入らせてほしい。セイを鍛えたいんだ。魔王軍の進軍に備えるためにも。」
アルゴは長い沈黙の後、静かに頷いた。
「……。覚悟はできておるのだな。」
「お前さんたちが息子に同じ思いをさせたくない事を一番に願っているのでは?」
「ああ。その思いで毎日生きてきた。ただ状況が変わった。俺も父親だ。家族や仲間を守るためなら、どんな道でも進む。セイも分かってくれると思うし、そのときが来たらしっかり話すさ。」
「ミーナもそれで良いのじゃな?」
「……。うん。セイが生まれて楽しい日々がいつまでも続けばと思っていたけど。どこかでいつかこのような日が来ることから逃げ続けていたのだと反省しています。」
「……。よかろう。時の扉はこの街の最深部にある。ワシが誘うとしよう。時間の流れが外界と異なる、由緒ある試練の地だ。」
ミーナはセイを抱きしめる。
「セイ……。一緒に頑張ろうね。」
セイは小さく頷いた。
(俺は……強くなる)
ーーカン!カン!
アルゴ王が杖を床に二度叩き鳴らす。
「それではいざ!誘おうおう。時の扉、時のダンジョンへ――。」
その瞬間、地下世界の空気が震えた。
遠くで、何かが軋むような音が響く。
「……。嫌な気配だ。」
ロウが呟き、アルゴ王も険しい表情になる。
「どうやら……。時は、我らを急かしておるようだな。時間稼ぎも限りを設けた。」
「さぁ、儀式を始めようかの。」
セイの運命は、さらに深く動き始める。




