第五話 はじめての外の世界
セイが生まれて一年半ほどが経った。
歩く距離も少しずつ伸び、言葉も「トト」「カカ」「あーとん(ありがとう)」くらいは言えるようになった。
ミーナは今日も元気いっぱいだ。
「セイちゃん、今日はね……。外にお散歩に行きましょう!」
(お散歩?……。ついに来たか。幼児の世界からの脱出だ!)
ロウも笑いながら言う。
「外は広くて危険が多いぞ、セイ。気をつけて歩けよ。」
(いや、父さん……。その言い方、完全に「冒険の始まり」なんだが……。「汗」)
ミーナはセイの手を優しく握り、家の扉を開けた。
■ 世界が広がる瞬間
扉が開いた瞬間、セイの視界に広がったのは――。
果てしない草原と青い空。
うっすらと見える白っぽく見える二つの月。
そして遠くに見える森と山々。
(……。うわぁ……。)
(地球の風景ほぼ一緒だぁ!気持ちがいいなぁ。)
赤子の身体でも、胸の奥がじんわりと熱くなるほどの光景だった。
「セイちゃん、これが外の世界よ!」
(いや、母さん……。想像以上にファンタジー世界だなこれ。)
そして、ハンターらしき人が上手に肉を焼いている。
(上手に焼けましたって。父さんかい!)
「おーい!メシにするぞ!」
風が頬を撫で、草の匂いが鼻をくすぐる。
(これが……。この世界の「空気」か。)
前世の政治家として、国会の空気や街の匂いには慣れていたが、こんな自然の匂いは久しぶりだった。
故郷の北海道を思い浮かべる瞬間でもあった。
(なまらいい匂い。)
■ 村の人々との出会い
村の道を歩いていると、村人たちが声をかけてくる。
「お、ロウの坊か。もう歩けるようになったのか!」
「ミーナちゃん、今日も可愛いわねぇ。」
「セイちゃん、ほら、これお菓子よ。」
(何というお菓子なのかわからんが、とにかくうまい。)
ミーナは笑顔で頭を下げる。
「ありがとうございます。セイ、ちゃんと“ありがとう”は?」
「……。とと?」
「違うわよ〜!」
(いや、母さん……。まだ無理だって)
村人たちは優しく、温かかった。
(人間の国は滅んだって聞いたけど……。この村は平和だな。でも……どこかに影がある気がする。)
セイの観察癖が、静かに働き始めていた。
■ 村の外れにある石碑
村の端まで来たとき、セイは一つの石碑に目を奪われた。
古びた石に刻まれた文字。
《暁の風 ここに集い、ここに散る》
(……。暁の風?)
ロウが少しだけ表情を曇らせた。
「昔な……。この村というか、この国には、五人の英雄がいたんだ。」
「まぁ、こどものお前に言ってもまだわからんだろうがなぁ。」
(五人……?言ってることはわかるんだが、暁の風って何?)
ミーナが優しく続ける。
「勇者ライト、戦士ロウ、狙撃手ロビー、賢者リョウメイ、ヒーラーの私。みんなで……。人間の国を守ろうとしたのよ。」
(……。暁の風って、もしかして父さんたちのパーティの名前とかなのか?)
セイは石碑に刻まれた文字をじっと見つめた。
(父さん……。母さん……。そして、父さんの兄のライト……。この世界の過去が、少しずつ見えてきた。)
■ 小さな危険
そのときだった。
「ガサッ……!」
草むらが揺れ、何かが飛び出してきた。
「きゃっ!」
ミーナがセイを抱き寄せる。
飛び出してきたのは、小さなウサギのような魔獣だった。
「ピギィ!」
ロウがすぐに前に出る。
「大丈夫だ!ただの草食魔獣だ。」
(いや、父さん……その構え、完全に戦士のそれなんだが……。)
魔獣はロウを見ると、ビクッと震えて逃げていった。
(……。父さん、やっぱりただ者じゃない。)
セイはその背中を見つめながら、胸の奥に小さな火が灯るのを感じた。
■ 外の世界を知るということ
帰り道、ミーナがセイを抱きながら言った。
「セイちゃん、外の世界はね……。綺麗だけど、危険もいっぱいなのよ。」
(危険……。かぁ。)
ロウも続ける。
「だが、怖がる必要はない。お前が強くなれば……。自分を守れるようになる。」
(守る……。)
セイは二人の顔を見上げた。
(やっぱり、この人たちを……。守りたい。)
(この気持ち。いつも湧き上がってくるんだよなぁ。)
それは、さらなる今世での決意だった。誰かを守りたい。誰かの役に立ちたい。ミーナとロウと過ごしていく日々が、今世でのセイの原点となっていく。
誠一はなぜこの世界に転生してきたのか。3人で過ごす日々是好日の中で、天命なのか宿命なのか。原点との向き合いの中で自問自答の日々を繰り返し始める。




