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第十話 時の儀式と十五歳の夜、そして……。

 小人族の王、アルゴに導かれ、ロウとミーナ、そして幼いセイは城の最深部へ。


 (もうすぐ儀式とやらが始まるようだ)

 

セイはまだ2歳にも満たない。

 歩くのもおぼつかず、ミーナの腕の中で不安そうに指を握っている。

 最深部までの地下通路壁画には、これまでの歴史を感じさせる壁画で埋め尽くされていた。

 前世でも見たことがあるような、象形文字や異世界人の渡来のような描写など。

 セイにとっては、いつかこの世界の歴史について学ぶことを覚悟する時となっていた。


 やがて、巨大な石扉が姿を現した。

 古代文字が刻まれ、淡い光が脈打つように揺れている。


「ここが……。時の扉だ。」


 アルゴ王は静かに告げる。


「この扉の向こうは、我らの世界――。セブンドミニオンの時の流れから切り離された場所。外界の数日が、内では何年にもなる。」


 セイはまだ状況を理解できず、ただ光る扉をじっと見つめていた。


 ロウはアルゴ王に向き直る。


「王よ。セイを……。必ず強くして戻ってくる。魔界の脅威に備えるために。」

「そして、昔のような平和な日々を取り戻したい。」


「そうじゃな。」


 王は深く頷いた。


「さすれば、儀式を始るとしようぞ。」


■ 三つの誓い

 アルゴ王は杖を掲げ、厳かに言葉を紡ぐ。


「時の扉を開くには、三つの誓いが必要となる。

 一つ、己の弱さを認めること。

 二つ、守るべきものを胸に刻むこと。

 三つ、未来を恐れぬこと。」


「そして、扉の向こうの世界では、己が何者かという原点を深掘りし、その原点により立志の確立なくしては戻ってくる事が許されない。」


 ロウは扉の前に立ち、静かに誓う。


「俺は弱い。だが、家族を守るために強くなる。」


 ミーナも続く。


「私は迷うこともある。でも、セイとロウと共に歩む未来を信じる。」


 幼いセイは、意味もわからず両親を見つめていた。

 だが、その瞳には確かに光が宿っていた。


 王が杖を地に突き、宣言する。


「時の扉よ――開け!」


 ――ゴゴゴゴゴ……!


 石扉がゆっくりと開き、眩い光が三人を包み込んだ。


「友よ!しばしの別れじゃ!急いでいる時こそ立ち止まれ!そしていぞぎ戻るのじゃ!」

「待っておるぞ!戻ったら祝宴じゃ!魔王軍を蹴散らす予祝といこうぞよ!」


 ロウは振り返りながら大きく手を振った。


「爺さん!すぐ戻る!それまでの時間稼ぎをよろしく頼む!」


 石の扉がゆっくりと閉まる。


■ 時のダンジョンでの十三年


 時のダンジョンは、外界とは異なる時間の流れを持つ。

 外では数日しか経たぬ間に、内部では十年以上が過ぎていく。


 ロウは剣術を、ミーナは魔法と生活の知恵を、セイに教え続けた。


 父と母の姿は勇ましかった。

 ロウはカラダに多くの傷跡があり、母も時折見せるたくましいカラダに圧倒された。

 多くの戦いをくぐり抜けてきたことをあらためて脳裏に焼き付けた。

 母は太陽が大好きで左肩に太陽の入れ墨が入っている。

 こどもの頃に太陽のように明るい振る舞いの母を忘れない。


 父や母とこんなにも充実した日々を過ごすことができるなんて思ってもいなかった。

 厳しく楽しく、笑いの絶えない修行の日々だった。


 私は前世では貧しい家庭に育ち、父は酒乱。いわゆるDV家庭だ。夜中に近所に逃げ込んで一夜を過ごす事は何度もあった。母も懲りずによく連れ添ったものだ。こどもたちの為に絶えていたのだろう。

 私が中学3年生の頃だ。

 父がギャンブルに溺れ、自己破産した。

 それを機に母も離婚することができたが、当時は離婚家庭ということがとても恥ずかしく、隠しながら生きていく時代だった。

 親父にはぶたれたことはなかったが、一緒に酒を酌み交わしたこともないし、成人しても顔を合わせたことはあったが、村八分の関係だった。


 ロウとミーナには本当に感謝している……。


 そして、小人族が残した古代の書物や修練場、魔力の泉―― 。

 すべてがセイの成長を促した。


 あっという間に十三年が過ぎた。

 時のダンジョンは春夏秋冬があり、毎年咲く桜のもとでの食事が楽しかった。


 幼かったセイは、今や十五歳。

 背も伸び、瞳には強い意志が宿ってきた。


■ 十五歳、最後の夜


 時のダンジョンの最深部までやってきた。

 焚き火の炎が揺れ、三人の影を壁に映し出す。


 今日は十二月七日。

 セイの十五歳最後の夜だった。


「セイ。明日で……。お前も十六歳か。」


 ロウが焚き火を見つめながら呟く。


「お前も歴史や書物が読めるようになって、セブンドミニオンのことを理解し、分かっているとは思うが、十六歳は成人。セイ……。お前も、もう立派な一人前ということになる。」


「あっという間にセイもロウに負けないくらい強くかっこいい男になっちゃったわね。」


 ミーナの声は誇らしさと寂しさが混じっていた。


 セイは静かに頷く。


「父さん、母さん……。ここまで育ててくれて、ありがとう。」


 ロウは笑った。


「礼なんていらん。お前が強くなったのは、お前自身の努力だ。」


 セイはふと、焚き火を見つめながら問いかけた。


「父さん……母さん……。「セブンドミニオン」はなぜ混沌としてきているの?」


 ロウとミーナは一瞬だけ視線を交わし、ロウが答えた。


「七つの種族が共に生きる大地――それがセブンドミニオンだ。だが今は……。その七つがバラバラになってしまった。」


「なぜ?」


 セイの問いに、ロウは静かに語り始めた。


■ 十年前の戦争と、暁の風の終焉


「魔界の魔人達も昔は仲良く暮らしていた歴史があった。」

「しかし、魔界の気候変動で魔界の者たちは自分達で暮らしていく事が難しくなった。」

「そして、魔界の王の娘が他国に呼びかけて助けを求めようとした。」

「しかし、旅の途中で何者かに殺された。」

「怒りに狂った魔界の王、鬼の王デーモンキングは侵略することを決める。」

「魔族の魔界軍は進軍をはじめ、人間と他の部族の連合軍による長い戦いが始まった。」

「魔界との戦争は五年間続いた。俺たち暁の風は、人間の部族の中で特別な力を宿した者達の組織として、連合軍のリーダーとなって、魔界軍を壊滅寸前まで追い込んだ。」

「俺たちは、その暁の風の中でも特に秀でた集団として、五勇星と呼ばれるパーティーを組んでいた。」


 ――とロウは話を続ける。


「最後の戦いで、俺の兄である勇者ライトが……。鬼王を追い詰めた最後に捨て身の術で取り込まれてしまった。」


 焚き火がパチ、と音を立てる。


「鬼王はライトの身体を使って言った。我らは十年後、必ず戻る。」と、


 その宣告は、人間たちの心を折った。


「人間たちはまとまりを失い、最強の勇者が取り込まれた先の未来を不安に思い、不安は恐怖を増大させていった。そんな人間達の乱れを目の当たりにした他部族も愛想を尽かした。戦うべきではなかった。巻き込まれた。と責め合い…… 。暁の風も解散し、身を潜めることにした。」


 ミーナが静かに続ける。


「その後、私たちは小人族に頼み、ここで隠れて暮らすことにした。そして……。あなたが生まれたのよ。」


 セイは静かに目を閉じた。


(俺は……。そんな世界に生まれたのか。)


 胸の奥で、何かが強く脈打つ。


 ロウは再び話し始めた。


「ただ、鬼王の完全復活までにはまだ時間がある。」

「復活までの間、その希望の光となったのが、セイおまえだ。」


 「明日、最深部の扉の前で、俺たちの原点を告白し、扉がその覚悟を認めれば、無事に戻ることとなる。」


■ ダンジョンの終わりと告白


 ミーナが焚き火に薪をくべながら言った。


「セイ……。時のダンジョンは、もうすぐ終わるわ。」


「明日、十六歳の誕生日を迎えたら…… 。時の扉が現れる。外の世界へ戻る時が来るの。」


 ロウが真剣な眼差しでセイを見る。


「セイ。お前は……。光の子だ。だが、それ以上に――。俺たちの息子だ。」


 セイは深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。


「……。わかってる。俺は逃げない。明日、外の世界へ出る。」


 焚き火の炎が、三人の決意を照らしていた。


「父さん、母さん、俺からもはなしてもいいかなぁ。」


 セイは、正直に父と母に感謝と前世のことについて話した。

 こんなに愛されて育ててくれたこと。前世の世界のこと。暗殺されたこと。前世の幼少期のこと。父と母について。セイとして生まれてきた時から、前世の記憶とすべての出来事は内なる神谷誠一として理解していたこと。おそらく俺の知っている異世界モノはこんな告白をしないだろう。私の性格上、隠し事ができないし、すべてをさらけ出してそれでもロウとミーナに認めてもらいたかった。

 

 ロウが話はじめる。

「セイ。隠さずに話してくれてありがとう。」

「なんか、俺たちが親のはずのなのに、セイに多くのことを教えられたよ。」

「その、ソウリダイジンってやつになれなかったのはとても残念だとは思うが。」

「その暗殺がなかったら、俺たちと出会ってないわけだろ?」

「何かそれって天が授けし運命じゃないか?」

「俺はセイを大歓迎するよ!」

「そして、俺たちを選んでくれたのかは分からないけど、大きな使命を背負わせてしまったな。」


「それは、いいんだ。それ以上に、父さんと母さんのこどもとして生まれてこれてうれしかったんだ。」

 セイは、素直に言えたことがとても清々しかった。


「わたしも大歓迎よ!ようこそ!セブンドミニオンへ!そして私たちの家族として!」

「前世の記憶があるなんて、うらやましいくらいだわ!」

「私たちも前世があったのならって思ったりもしたけど、前世でも私はロウと結ばれてたはずと言い切っちゃわよ。てへっペロ。」


「照れるねぇ。」

「まっ、こんな父と母だがこれからもよろしくな!」

「そして、セイ、この世界でお前が思い描く、血の流れない選挙という争いのなかで話し合いでものごとを決めていく世界を。」

「このセブンドミニオンで成し遂げてくれ!」

「そのために、俺たちもお前とともに戦うことを誓うよ。」


「何度も言うけど、父さん、母さん、本当にありがとう。」


(中身は中年のおっさんなんだが、この世界にきて始めて素直になれた。)


 父と母はその後もことあるごとに、セイに前世のことについて問い合わせては驚いていたが、これから待ち受ける戦いに備えてしっかりと受け止めてくれた。


 こうして、十五歳の最後の夜は静かに更けていく。


■ 時の扉の前で


 翌朝、

 「セイ!ロウ!いつまで寝てるの?起きなさい!」

 昨晩の野営のたき火がかすかに残っていぶっている。


 「さぁ、アルゴ爺さんに成長した姿を見せるとするか!」

 ロウはいきなり張り切りだした。


 セイもこれまでの約十三年間を振り返り、何度も父と母に殺されては、蘇生されて鍛え上げられた自分自身に心の中で褒め称えた。


 (今日までありがとう。そして、これからが始まりだ!)


 三人は時の最深部の時の扉の前に立つ。


 時の扉が話し始めた。


 「さぁ、汝自身を知り、己の原点と確固たる志を念じよ。」


 三人は扉の声に誘われ、セイは父と母と手をつなぎ、三人は念じ始めた。


 そして、扉が開き、まぶしい光が彼らを包み込んでいった……。


 (俺は絶対にぶれない。すべてのものを守り抜く。この世界を平和に導くために……。)


 第一章 完


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