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巫女さんが優しすぎて、受験に集中できない件  作者: 波浪


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第五話 受験当日、思い出す声

目覚ましが鳴るより先に、目が覚めていた。


 まだ暗い部屋の天井を見つめながら、深く息を吸う。

 今日は――受験当日。


「……行くか」


 制服ではなく、少しだけ大人びた私服に袖を通す。

 机の上には、参考書と、あの小さなお守り。


 “迷わないため”。


 ポケットに入れると、不思議と指先が落ち着いた。


 会場へ向かう電車の中は、同じような顔をした受験生ばかりだった。

 みんな無言で、スマホか単語帳を見ている。


 俺も単語帳を開いた――はずなのに、文字が頭に入らない。


(大丈夫)


 どこからか、あの声が聞こえた気がした。


(ちゃんと悩めてる人は、強いよ)


 澪さんの声だった。


 試験開始の合図。

 問題用紙をめくる手が、一瞬だけ震えた。


 ――迷うな。


 そう言い聞かせて、ペンを走らせる。


 分からない問題に当たっても、立ち止まらなかった。

 完璧じゃなくていい。今できることをやる。


 昼休み、空を見上げる。

 冬の空は高くて、澄んでいた。


(今頃、何してるんだろう)


 神社は、きっと静かなんだろう。

 でも、あの場所は、もう逃げ場所じゃない。


 午後の試験が終わり、すべてが終わった。


 会場を出た瞬間、膝から力が抜けそうになる。


「……終わった」


 結果は分からない。

 でも、不思議と後悔はなかった。


 帰り道、いつもの神社の前で足が止まる。

 鳥居の向こうは、静まり返っている。


 誰もいない境内。


 それでも、俺は小さく頭を下げた。


「ありがとうございました」


 誰に向けた言葉かは、自分でも分からない。


 夜、部屋に戻って、机に向かう。

 もう勉強する必要はないのに、自然と座っていた。


 ポケットからお守りを取り出す。


 裏に、小さな文字が書いてあるのに気づいた。


 ――「信じて。迷わなかった君を」


 思わず、笑ってしまった。


「……ずるいな」


 でも、そのずるさに救われた。


 受験が終わった。

 そして、約束はまだ終わっていない。


 再会の時が来るまで、俺は胸を張って待つ。


 あの優しすぎる巫女さんに、

 「頑張った」と言ってもらうために。

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