表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロ・キロワット  作者: CIKI
SCORE:RED(赤に落ちる街)
4/4

1-4 ノーコード境界帯

1-4 ノーコード境界帯


(視点:ミラ・コール/ユラ・ナナセ)


街の光が途切れた瞬間、世界が止まった。


ミラは息を切らしながら暗いトンネルを駆けた。足元には黒く焼けた送電ケーブルが幾筋も這い、断線部分から青白い火花がときおり震えている。それはまるで、死んだ街の神経がまだ痙攣しているようだった。


前を走るカイは振り返らない。ユラはその背を追いながら、胸の動きだけで呼吸を抑えていた。沈黙は、どんな銃声より鋭い。


トンネルを抜けると、空気の質が変わった。焦げた鉄と湿った土の匂い。崩れた天井の隙間から差す薄明の光が、漂う埃を照らす。そこは廃電施設だった。


壊れた変圧器、折れたケーブル。鉄骨の影に、人影がいくつも佇んでいる。


ミラが立ち止まると、カイがちらりとだけ視線を送り、歩を進めた。近づくにつれ、人々の姿が見えてくる。老人、子ども、片目を失った者。誰も三人に注意を向けない。だがその手元では、瓶にそっと息を吹きかけるように囁く声があった。


息と囁きが混じったかすかな響きが、瓶の奥で微弱な光へ変わっていた。ミラが息を呑むと、ひとりの老婆がふっと笑った。


「電気がなくてもな、人はまだ、響きで照らせるんだよ」


カイは建屋の奥を伺いながら短く言う。


「ここじゃ、生きる理由すら電力じゃ測れねぇ。だが……誰かの声があれば、それで十分だ」


ユラは黙って壁に残るケーブルを指でなぞった。一本一本が、切断された神経束のようだ。だがその断片の奥に、微かな流れがまだ残っている気がした。


ミラがそっと尋ねる。


「ここ……電気がないのに、どうやって生きてるの?」


カイは振り返り、口の端だけで笑う。


「生きるってのは、動くことだけじゃねぇんだ。感じることだ。数字はそこを測れねぇ」


ユラの目が揺れた。そんなはずは、ない。でも胸の奥で、小さな波が確かに生まれた。

老婆が瓶を差し出す。


「ひとつ、声を入れてごらん。電気の代わりに、あんたの記憶を少しだけ灯りにできるよ」

ユラは瓶を見つめた。手に乗せた小さな光が、心臓の鼓動と同じ速さで明滅する。


観測しなくても、光は在る。


記録しなくても、在り続ける。


それが共鳴。


ユラは、初めてその言葉の意味を身体で理解し始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ