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ゼロ・キロワット  作者: CIKI
SCORE:RED(赤に落ちる街)
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1-3 行動の男

1-3 行動の男


(視点:カイ・オオツキ)


送電塔の影は、いつもより深かった。


空気が湿り、錆の匂いが骨に染みる。カイ・オオツキは膝をつき、割れた回路板の破片を丹念に拾っていた。古い軍用ドローンの残骸。財団製の照準モジュール。再利用できる銅線。


ノーコード域の生は、拾える物を拾うだけだ。それ以上でも、以下でもない。


音がした。


金属を軽く叩くような衝撃。規則性がある。足音だ。それも二人。その背後に、空気を振動させる追跡波のうなりが。


(財団のドローンだな)


カイは振り返らず、呼吸をひとつ整えた。判断のために、あと数秒がほしかった。


そのとき、


「……こっちへ!」


女の声。震えているのに、芯がある。必死だが、折れていない声。カイはため息をひとつ吐き、ゆっくりと立ち上がる。影を出て、通路の先を見た。


走ってくる女二人。片方は小柄な子どもだ。腕輪の赤い点滅は、誰が見てもわかる死の色。


後方の角から、ドローンが二機飛び出した。照準光が壁を焼き、電磁音が耳を刺す。


(追跡式モデルR8。財団の本気じゃねぇか)


カイはためらわなかった。銃ではなく、工具を握りしめた。


「……チッ。死にてぇわけじゃねぇだろ、お前ら」


独り言に近い。だが身体はもう動いていた。廃材の陰に潜ませていた自作の遮断装置を起動する。瞬間、空気がひっくり返り、静電気の波が走った。


閃光。金属が裂ける音。焦げた匂い。


二機のドローンは、そのまま地面に叩きつけられた。


煙の奥で、女たちが立ち止まり、こちらを見ている。その瞳にあるのは恐怖ではなく、理解の外のものに触れた驚き。


カイは残骸を踏み越えながら言った。


「動けるうちに動け。ここじゃ、立ち止まった奴から死ぬ」


子どもが大人の女の背に隠れる。大人のほうの女は息を荒らげながらも、真っ直ぐにカイを見ていた。


「あなた……誰?」


問いは真剣だった。カイは振り返らず、炭化したモジュールを拾いながら言う。


「カイだ。……ただのノーコードだよ」


その腕の刺青が微かに光る。自己発電回路の余熱。違法に組んだ再生装置の脈動。


子どもが息を呑む。カイはその反応に気づき、あえて口の端を上げた。


「そっちは?」


大人の女が短く答える。


「私はユラ。……この子は、ミラ」


ミラは小さく頭を下げた。震えているが、生きようとしている。


「ふん」


カイはわざと雑に回路板を放り投げた。


「あけぇな。……いい色だ。生きてる証拠だぜ」


ミラの肩が小さく震えた。その震えには恐怖だけでなく、まだ自分は死んでいないという実感が混ざっていた。


沈黙が落ちかけたとき、ユラが口を開きかけた。だがカイは手を上げて制した。


「喋るな。都市に聞かれる」


命令ではなく、経験からの忠告だった。


カイの掌から火花が散る。ノーコード域の闇が、三人の輪郭を淡く照らす。


この瞬間、三人の運命の回路が、初めて接続された。


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