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千年の約束〜恋綴り風に舞う夢  作者: 愛龍
終章 千年の約束

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未来へ…約束は永遠に

―――白の帳を割るように、

氷のような冷気と、鈴の音のように澄んだ足音が響いた。


障子が開かれる。


そこに立っていたのは、純白の装束に銀糸の帯を纏う女。

髪は雪のように白く、肌は透き通るほど冷ややか―

雪女一族の長・羽月はづき


その隣に、凛とした眼差しの女が並ぶ。

艶やかな黒髪に紅を差した唇。

背筋を正し、深々と膝をついた。


「――お待たせいたしました。」


静かな声。

その女こそ、義経の妻―静御前。


羽月と静御前が並んで跪く姿は、まるで冬と春の女神が並び立ったようで、

広間の誰もが息を呑んだ。


始皇帝がゆるやかに玉座に身を戻す。

その瞳が、彼女らの背後に立つ蒼白い光を映す。

封印の氷に閉ざされた小さな姿――座敷わらし。


「……して。」

始皇帝の声が、静寂を裂く。


「これより、どうすればよい。」


羽月が顔を上げようとした瞬間、

義経が一歩前に進み、深く頭を下げた。


「覇王陛下。冥黒と、番様に宿る魂を―使います。」


その言葉に場が凍りつく。


「冥黒を……?」


始皇帝の声が重く響く。

義経は頷いた。


「冥黒は神に鍛えられし剣。

 その清浄性は、穢をも魂ごと浄化する。

 その力を……この方に。」


義経の指先が、そっと千佳を示す。


「千佳殿に封じる。」


一瞬、大河の瞳が揺れた。

周囲の空気がわずかにざわめく。


「………………それで、千佳は無事なのか?」


静御前が目を伏せ、羽月が静かに息を吐く。

凍りつくような沈黙を破ったのは、始皇帝の低い声だった。


「封じることができれば――な。」


その言葉に含まれたわずかな憐憫が、千佳の胸を締め付ける。


「ただし……その身は神に近き器となる。

 凡俗の命を超え、永劫の時を生きる。


 ゆえに―大河、お前よりも長く生きることになる。」


沈黙。


千佳はゆっくりと立ち上がった。

その瞳には迷いがなかった。


「……私は。」


その声は小さいが、芯があった。


「私は、鬼の番として生きます。

 共に生きて、共に死にます。

 封じるのなら……どうか、“器”として預かるだけにしてください。

 すべてを受け入れることはできません。

 でも……護りたいんです。」


その言葉に、広間が静まり返る。

羽月がわずかに微笑み、静御前が涙をこぼした。


始皇帝が、口元を綻ばせた。そして千佳の奥に宿る魂を見る…


「うむ。……やはり、この子ならばいけるだろう。」


その瞳が、まっすぐに千佳を射抜く。

「こやつはどうやら、次の覇王となる器らしい。」


どよめく場。

千佳は息を飲み、大河は立ち上がったまま言葉を失う。


始皇帝はゆっくりと立ち上がり、

その手を千佳の腹にかざした。


「……ただし、その魂が生まれるのは――あと百年先だ。」


その唇が、わずかに笑みを含む。


「どうやら、そなたの伴侶――鬼藤大河が、

 気に食わぬらしい。」


「…………っは?」

大河が固まり、義経が噴き出す。


「ははっ!気難しい。親に似たな、大河!」


「うるせぇ!!」

顔を真っ赤にして怒鳴る大河に、場の緊張がほどけた。


静御前が微笑み、羽月が深く頭を下げる。


「では――封印の儀を始めましょう。」


障子の外で、春の雪が止み、

夜空には白い月が浮かんでいた。


それは、まるで世界が息を潜めて、

“新たな覇王の誕生”を見届けようとしているようだった。

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