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千年の約束〜恋綴り風に舞う夢  作者: 愛龍
第5章 Breaking the Chains of Fate

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黒い狂犬の牙

咆哮が夜を裂いた。

三人のケルベロスの背後から、影の軍勢が一斉に飛び出す。

獣の唸り、骸骨の兵の槍のきしみ、羽音が里を覆い尽くす。

鬼の里は、一瞬にして戦場となった。


「―― Devour!!」

巨躯のケルベロスが吠えると同時に、千の影が前線へ押し寄せる。




大河が刀を抜いた。

紫煌が月光を弾き、唸りを上げる。

「――来い!」

振り下ろされた刃は光の弧を描き、十体もの影を一度に薙ぎ払った。

飛び散る闇が煙のように消え、空気が震える。


紅蓮が火焔のような気迫で叫ぶ。

「燃えろォッ!」

炎のような剣閃が走り、前線の軍勢を一掃する。


鉄紺は黙して一歩踏み込み、無駄のない斬撃で次々と影を切り伏せた。


翠蓮は背を守るように仲間の間合いを広げ、流れる動きで影を押し返す。

蒼真は一言も発さず、ただ一突きで五体を貫き、冷たく刃を払った。



リオナが口を開いた。

白銀の髪をなびかせ、声を放つ。

旋律が空気を震わせ、音の刃となって敵を切り裂く。

影の翼が一瞬で霧散し、軍勢の士気が揺らいだ。

「女王の歌を侮るからよ。」



陽明の扇が開かれる。

地を這う式神の影が陣を描き、骸骨兵の足を縛り上げる。

「吠えるな、犬ども。」

呟きと共に炎の狐が躍り出て、敵を丸ごと焼き尽くした。




その横で、若手四人も声を張り上げた。


常磐が先頭で刀を振るい、烈火が雄叫びを上げながら拳を叩き込む。

紫苑は冷静に刃を走らせ、浅葱は軽やかに敵を翻弄する。

まだ震えはある。だが、その瞳に宿る決意は本物だった。

「俺たちだって、護れるんだ!」


刃と刃、声と咆哮、光と闇が交錯する。

鬼の里の夜は、轟音と火花に包まれた。


その中心で、大河はケルベロス三つ子を見据える。

「……覚悟しろ。犬共」


霧を割って、三つの影が同時に歩み出した。

冷徹、暴力、狂気――三頭の獣が、大河へ牙を向ける。



冷酷な瞳の男ステュクスの動きは冷徹で無駄がない。計算され尽くした軌跡が、大河の死角を正確に突いてくる。


「怒りに任せるな、鬼藤大河。」

氷のような声が響いた。

「その感情こそが、お前の最大の隙だ。」


紫煌が受け止めた瞬間、力の均衡が崩れる。

ステュクスは冷徹な瞳で刃を押し込み、大河の喉元へナイフを抜き放った。

だが、大河の眼に恐怖はない。

「……感情を捨てて生きてきた奴に、守りたいものを賭ける強さは分からねぇ!」


紫煌が弾き飛ばし、火花が闇を裂いた。



――――


轟音が戦場を揺らした。


巨躯の男クレイオスの拳が大地を叩き割り、石畳が粉砕する。

蒼真は一歩も退かず、その斬撃で拳を受け流す。


「……強いな。」

クレイオスが唸るように言葉を落とすが蒼真は無言を貫く。


巨拳が唸りを上げ、蒼真の肩口をかすめた。鮮血が飛ぶ。

それでも蒼真は表情を変えず、ただ一歩踏み込む。

刃が閃き、巨体をかすめて赤が散る。


「……日本の鬼風情がよくも。」

クレイオスの瞳に初めて戦慄が走った。

無言の蒼真、その沈黙が巨人を追い詰めていく。



稲妻が奔り、雷鳴が戦場を震わせる。



雷の男ライオは狂ったように笑い、雷光の軌跡を描いて縦横無尽に飛ぶ。

「もっと歌えよォ! もっと僕を痺れさせろォ!」


リオナは微笑みを崩さず、歌声を重ねた。

透明な声が波紋のように広がり、ライオの雷撃を次々と弾き返す。

「女王の舞台で踊れるのは、選ばれた者だけ。」


ライオの瞳が狂気に輝く。

雷鳴が一瞬で収束し、槍のようにリオナへ突き刺さった。

白銀のドレスが裂け、頬に血が流れる。


「……あら。」

リオナは血を指先で拭い、笑みを深めた。

「少しは楽しませてくれるじゃない。」


歌声が次第に強くなり、雷鳴と旋律がぶつかり合う。

嵐はさらに激しく、戦場を飲み込んでいった。


――――


ステュクスは冷徹な計算で間合いを測り、大河の死角を突き首を狙い続ける。的確に。

「怒りに任せる剣など、何度でも崩せる。」


「……俺は崩れない。あいつを護るために千年…この刃はある!」


紫煌が月光を裂き、白銀の軌跡を描いた。

ステュクスの剣が弾かれ、その冷徹な瞳が初めて揺らぐ。

「なに……!」


大河は全身を込めて一閃を叩き込む。

「感情こそが、俺の力だッ!!」

轟音と共に、紫煌が胸を貫き、ステュクスは驚愕のまま闇に崩れ落ちた。



巨拳が振り下ろされ、大地が砕けた。

「沈めェ!」

圧倒的な力が夜を揺らす。


だが蒼真は一歩も退かない。

無駄のない呼吸、研ぎ澄まされた眼差し。

「……力だけでは、沈まぬ。」


刹那。

静寂が走り、光の筋が巨体の胸に刻まれた。

蒼真の一太刀は、音すら置き去りにするほど鋭く速い。


クレイオスの巨躯が震え、赤い血が溢れ出す。

「馬鹿な……」


その言葉を最後に、山のような身体は地響きを立てて崩れ落ちた。

蒼真は目を閉じて刃を払い、ただ静かに刀を納めた。


―――


雷光が奔り、狂気の笑い声が響く。

「もっとォ! もっと痺れさせろォ!」

ライオは稲妻のように舞い、雷槍でリオナを貫こうと迫る。


だが女王は一歩も退かない。

「舞台は、女王のものよ。」

白銀の髪を揺らし、唇から歌声が解き放たれた。


その旋律は刃となり、雷鳴を切り裂き、嵐を呑み込む。

ライオの瞳が狂気の奥で揺らぎ、思わず立ち止まった次の瞬間、音が雷を完全に圧し潰した。


旋律の衝撃がライオを貫き、狂気の笑みは掻き消える。


リオナは返り血を拭い微笑んだ。

「お前如き喝采はいらない。幕は下りたわ。」

雷鳴の残滓を背に、彼女は静かに背を向けた。


ケルベロス三つ子は全て打ち倒され、鬼の里を覆っていた影の軍勢も霧のように掻き消えた。


夜の空気は、血と鉄と誓いの匂いだけを残していた。


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