黒い狂犬の牙
夜霧が鬼の里を覆い尽くしていた。
石畳の上を靄が這い、月は厚い雲に隠れて青白い光だけが残る。
その静寂を破るように、重い靴音が三つ響いた。
霧の帳を割って現れたのは、黒いスーツを纏う三つの影。
同じ顔を持ちながら、纏う気配はまるで異なる。
ケルベロス三つ子――
裏社会の帝王たちの本体である。
先頭の男は、冷ややかな微笑みを浮かべた紳士。
完璧に整えられたスリーピース、その姿は社交界の貴公子のよう。
だが瞳には一片の情もなく、冷たい支配欲だけが光っていた。
隣に立つのは巨躯な男。
ノーネクタイでジャケットのようにスーツを纏う。
吐息ひとつで空気を震わせ、その存在は暴力そのものだった。
最後の一人は細身の若者。
逆立つ髪に月光が稲妻のように走り、瞳には狂気と激情が揺らめく。口元に浮かぶ笑みは、獲物を前にした獣のものだった。
三人が広場に並び立つと、霧は濃く渦を巻き、里の空気が凍りつく。
そして――紳士が冷徹に告げた。
「……鬼の番。殺してやる。」
その言葉は夜を切り裂く刃となり、鬼の里に決戦の幕を下ろした。




