閑話 殺戮の残響、仔犬の鼓動
若手護衛が何故犬ころになったのか
千佳に「陽明さん」と呼ばれて胸を詰まらせた陽明。
そのやり取りを横で聞いていた若手護衛の犬ころたち――常磐、紫苑、烈火、浅葱が、互いに目配せをし合いながら、わらわらと千佳の周りへ集まってきた。
「千佳様!俺も……俺の名も呼んでください!」
常磐が勢いよく身を乗り出す。
「ずるいですよ。僕だって……“紫苑”と、呼んでいただきたいです」
耳まで赤くしながら紫苑。
烈火は尻尾でも振りそうな勢いで声を張る。
「千佳様!俺も!“烈火”って!」
最後に浅葱が、腕を組みながらもにやにやと笑って言う。
「俺もだ。千佳様、“浅葱”って…」
千佳はぽかんとしながらも、少し頬を染めて笑った。
「えっと……常磐さん、紫苑さん、烈火さん、浅葱さん」
一人ひとり呼ばれるたびに、犬ころたちは耳を赤くして悶絶。
(呼ばれた!呼んでもらえた!)と、胸を押さえて床でのたうち回る様は、まさに犬ころそのものだった。
そんな光景に陽明が額へ手を当て、ため息をつく。
「……躾けてやろうか、この犬共。番に群がるなど無礼千万だ」
冷ややかな目線を犬ころたちに投げる陽明。
そして…
大河が背後から低い声で割り込んだ。
「……騒ぎ足りねぇなら、俺が稽古つけてやるぞ」
ぞわり、と大広間の空気が凍り付く。
犬ころ四人は、さっきまでの歓喜の表情を一瞬で青ざめさせ、ぴしっと正座する。
「す、すみません総領っ!」
「騒いでません!」
「落ち着いてます!」
「稽古は……やめてください……!」
大河は腕を組んで睨みつけながら鼻を鳴らす。
陽明はその様子に肩を揺らし、笑みを漏らした。
千佳だけは、皆のやり取りを見守りながら困ったように笑い、膳に手を合わせた。
「いただきます」
その一言で、場の空気がまた緩んだ。




