3/23
始まりの夜…突然の自由
第一章始まりの夜(千佳目線)
千佳は帰り際、支配人に呼び止められる。
「……千佳さん。もうお客につかなくていい。休みでも、店に顔を出すでも、好きにしていいよ」
驚きと戸惑いのままに頷く千佳。
理由も説明もされない。ただ、重くのしかかっていた義務から解放されるような安堵と、不気味な不安が胸を交錯させた。
(……どうして? どうして急に……?)
「でも……借金が……」
千佳は思わず食い下がった。
支配人は首を横に振り、低い声で言った。
「それももう気にしなくていいから。……ともかく、明日は休みにしてもいいし、好きにしでいいよ」
何がなんだかわからなかった。
ずっと、生理のとき以外は必ず店に出るように言われ続けてきたのに。
それが急に「休んでいい」「借金のことも気にするな」なんて——。
胸の奥に小さな灯りのような希望と、説明のつかない不安が同時に灯った。
千佳は深く頭を下げ、足早に店を出た。
外の夜風はまだ冷たかったが、その冷たさよりも心臓の鼓動の方が強く響いていた。
(……なにが起きてるんだろう)
次大河目線