繋ぐ想いと護りの夜
大河と千佳の婚礼。
第3話
里で日々を過ごし婚礼を明日に控えた夜。
屋敷の奥の一室で、千佳は侍女たちに支度を整えられていた。
白地に淡い紫の花模様をあしらった打掛。
肩には薄絹が重ねられ、髪は結い上げられて玉簪が揺れる。
鏡に映る自分の姿を見て、千佳は小さく息を呑んだ。
「……とても綺麗にしていただいて。ありがとうございます」
頬を少し染めながら、侍女たちに深く頭を下げる。
障子の外で控えていた大河は、ふと息を詰めた。
その姿に重なるのは、かつての千姫。
白無垢を纏うはずだったのに、血に濡れて散っていった婚礼前夜。
護りきれなかったその笑顔。
あのとき腕の中で冷たくなっていった千姫の面影が胸を締めつける。
(……千。見てるか。今度こそ、守り抜く)
大河は静かに障子を開けた。
振り返る千佳の瞳が、少しだけ不安げに揺れた。
「大河さん……」
大河は一歩近づき、その手をそっと取った。
指先が小刻みに震えている。
「怖いか?」
「……いいえ。大河さんが隣にいてくれるなら」
その言葉に、大河はわずかに笑みを浮かべ、額を千佳の額に寄せた。
低く囁く。
「俺は二度と誓いを違えない。
お前を、必ず幸せにする。
どんな運命が来ようと、今度こそ守り抜く」
千佳は驚いたように目を瞬かせ、それから柔らかく微笑んだ。
「……信じています」
その微笑みは、千姫の影を払うように温かく、大河の胸に深く刻まれた。
――婚礼の前夜。
鬼の総領は、再び誓いを立てた。
過去を悔いるためではなく、今を生きる千佳のために。




