閑話 青い月に祈る夜
睦月の話
鬼の傘下の一族。東北の要。雪女…
その一族は女しか産まれず子をなすために他家へ奉公に出される。
大河の護衛。四天王の一人、蒼真
雪女の長、蓮月
その二人が睦月の父と母。
大河は幼馴染。縁の番は自分…
侍女頭として大河に仕えて数百年……その夜は眠れず見回りをしながら縁側に立つ。白い吐息が夜に滲み、世界は音を失ったように静かだった。
睦月は月を仰ぐ。
青ざめた光の中、胸の奥で呟くように願う。
――願いを叶えて。
青ざめた月に祈る。
あの夜を、忘れることはできない。
婚礼の前に千姫を失った大河。
腕の中で冷たくなっていった姫を抱きしめ、獣のよう叫ぶ。
かける言葉もなく自分は、ただ見ていることしかできなかった。
2月の終わりには珍しく降る雪は夜更けから世界を変えた。
千姫を喪った大河の瞳は、二度と戻らない何かを宿していた。
その哀しみは、今もなお胸の奥を刺す。
ため息を落とし、睦月は唇を噛んだ。
大河の悲しみを癒せるのは千姫だけ。
それを知りながらも、幼馴染として何もできなかった自分。
だからせめて――この命を尽くして支えると誓った。
だが、その胸に抱くもう一つの想いは、誰にも告げていない。
冷静で、どこまでも大河を支える縁。
その背中を追いながら、睦月はずっと焦がれてきた。
触れたい。抱きしめたい。
けれど口にすれば壊れてしまう気がして、ただ胸の奥に閉じ込めている。
「切なくても、どかしくても……それでも優しいの」
千佳を見つけた夜、睦月は心の中で呟いた。
大河を失わぬよう守りたい。
縁の隣で生きていたい。
二つの願いが交差しながら、雪は絶え間なく降り続ける。
それは祈りのように静かで、切ない旋律だった。




