《☆》婚約破棄は滅亡の始まり……かも
☆さらっと読めるショートショートです。
「サブリナ! 貴様とは今日で婚約破棄だ!」
王立学園の卒業パーティーで、チェルシー男爵令嬢を腕に絡ませたバルドル第二王子が言い放ちました。
二人の後ろには宰相の息子と騎士団長の息子が控えて、婚約破棄を言い渡された私を睨み付けています。
予定通りに婚約破棄が始まりました。
私、サブリナは幼い頃にバルドル殿下の婚約者に決められた侯爵令嬢です。
元気いっぱいの悪ガキだった殿下には、礼節と常識で動く私は煙たい存在だったので、仲が良かった事などありません。
その関係は、王立学園に入学してバルドル殿下とチェルシー嬢が出会った事で、最悪へと変わりました。
私としては婚約破棄など大歓迎なのですが、だからといって軽んじられるのは許せるものではありません。
「バルドル殿下。そのお言葉に責任を持ってくださいますね」
「当たり前だ! 貴様と婚約破棄して、私はこのチェルシーと」
「国王陛下! お聞きの通りです!」
私の声に会場の扉が開かれて、パーティーに参加予定では無かった国王陛下が登場しました。
慌てて礼をとる参加者の中を陛下はゆっくりと歩き、私の横に立ちバルドル殿下と向き合います。
「バルドル……。お前に北の塔行きを命じる」
「な、何故です!」
「お前がやがて帝国に戦争をいどみ、この国を滅亡させるとサブリナ嬢が予言した」
壮大な理由に、会場が静まり返りました。
唖然としてたバルドル殿下が我に返って抗議します。
「よ、予言だなどと。父上ともあろう方が、そんないい加減なものを信じるのですか!」
「信じてなどいなかった。お前が衆人環視のパーティー会場で婚約破棄を宣言する、という非常識な予言が当たるまでは」
「あ……」
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「やはり卒業パーティーで婚約破棄を言い渡すのが一番だな!」
「でも、サブリナ様がおかわいそうですぅ」
「チェルシーは優しいな!」
学園のギャラリールーム。気軽に名画にふれる事が出来るように常時十数点の絵画が展示されている部屋なのですが、あまり人は訪れません。その部屋の真ん中にあるソファーセットが彼らの溜まり場でした。
彼らは隣の倉庫になっている部屋を覗こうともしないので、私は毎日のようにそこで彼らの話を聞かせてもらってます。
「仕方が無いのですよ。サブリナ様はバルドル様に相応しくない」
一度も私より上の成績になった事が無い宰相の息子が、物知り顔で言います。
「わあ、優秀なあなたでもそう思うのですねぇ」
「俺もサブリナ嬢は優しくないと思うぜ」
あなたに優しくする筋合いは無いと思うのですが。殿下のボディーガード気取りの脳筋男さん。
「優しくないだなんてひどいですぅ」
「卒業パーティーが楽しみだな! もちろん、チェルシーには素晴らしいドレスを贈るぞ」
「わあ! 嬉しいですぅ」
「それだけじゃなく、大きなバラの花束も届けよう」
「うわぁ、花束なんて初めてもらいますぅ。でも、バラって棘があるから怖いですぅ」
「チェルシーは可愛いな。なら、何の花が好きだ?」
「水仙とかぁ、鈴蘭とかぁ」
「チェルシーにぴったりだ。そうだ、王宮の庭園の一角に水仙と鈴蘭の花園を作ろう! チェルシーを招待するぞ」
「素敵ですぅ~!」
呆れて聞いてる私に筒抜けだなんて思いもせず、彼らは盛り上がるのでした。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
卒業間近、私は国王陛下に未来を予知したと申し出ました。
もちろん、簡単に信じるほど陛下は愚かではありません。
「私と婚約破棄した後、バルドル様は国王となり、帝国に戦いをいどむのです」
「待て、第一王子は!」
「事故で亡くなりました。ニラと思って料理したのが毒のある水仙の葉だったようです」
「水仙?!」
「はい……。何か?」
「いや、まさか……。しかし、確か鈴蘭にも毒が……」
花に興味なんて無いバルドル殿下がいきなり水仙と鈴蘭の花園を作ったら、そりゃあ周りは不自然に思いますよね。
「バルドル国王が国を滅ぼす未来」が、陛下の中で僅かに現実性を持ちました。
そして、卒業パーティーでバルドル殿下はやらかしてくれたのです。
その後、バルドル殿下が「そんな事など考えていない!」と訴えるのも虚しく、予言通りにならないように第一王子が即位するまで北の塔に幽閉になりました。チェルシーら三人もお世話係として一緒に行かされるそうです。
仲良く幸せにやって欲しいものです。即位しても王都に戻されるとは限りませんから。
そして、私は第一王子の妃の補佐として働く事になりました。
いつかまた予言するかもしれないので、王宮に留めたいのでしょう。
大変だけど、新しい婚約者を宛てがわれるより自分で働く方がいいなぁなどと思う日々です。