そのなぞなぞは歌うもの?(タマゲッターハウス:ヒューマンドラマの怪)
このお話は『小説を読もう!』『小説家になろう』の全20ジャンルに1話ずつ投稿する短編連作です。
舞台や登場人物は別ですが、全ての話に化け猫屋敷?が登場します。
小さな森に珍しい形をした神社がありました。
その神社は猫を祀っているそうです。
いでっち51号様主催『歌手になろうフェス』』参加作品です。
既設の小説『魔法少女がピンチ! 黒衣の玉子様が助けに来た』の登場人物が出ますが、前作を知らなくてもお楽しみいただけます。
宇須美町は、山と海に挟まれた美しい港町である。
町の北側に、上から見ると平仮名の『へ』のように見えるへの字山が広がっている。
への字山のふもとから少し海側に木々に覆われた小高い丘があった。
丘の上の玉子神社には多くの参拝者が訪れていた。
その中に長身の中学生、海堂ノノの姿があった。
彼女は境内で馴染みの青年を見つけて声をかけた。
彼はノノがよく訪れる駄菓子屋のお兄さんだ。
「あれ? 零児さん。こんなところで会うのは珍しいよね。仕事?」
「そうだよ。ノノちゃん。この神社の社務所にお菓子を届けていたんだ。サキちゃんに頼まれたんだよ。この神社、サキちゃんのお祖父さんが宮司を兼任してるんだけど、急にこられなくなったって」
山宮サキはノノと同じ中学で同じクラスである。
「あ、きいたぜ。サキのおじいさんってギックリ腰だっけ。いい歳だからなぁ。サキが看病しているみたいだな」
「ところで、今日はイオリちゃんやヨツバちゃんは一緒じゃないの?」
「あの二人は補習で土曜授業に出てるぜ。先日のテストで赤点だったからよ。わたしはギリでセーフだった」
ノノは両手を水平に動かしてセーフのポーズをとった。
「ははは……。ギリだと危ないね。この神社って学業のご利益もあるみたいだから、参拝にきたのかな」
「ま、それもあるけどよ。零児さん、知ってる? この玉子神社ってウミガメの加護があるんだよな」
「たしか、ウミガメの玉子を模した丸い石がご神体だったかな」
宇須美町は美しい海に面しており、海岸にはウミガメが産卵にくることもあるようだ。
海堂ノノは魔法少女である。
少し前まで、この町では異形の怪物による事件が多発していた。
ノノは亀の聖獣・玄武の力で魔法少女に変身し、怪物と戦っていた。
最近は怪物は出なくなっており、しばらく平和な日々が続いている。
「わたし、この神社にちょっと興味があってね。さっき参拝はすませてきたぜ。あ、そうだ。ここって猫屋敷みたいな神社も併設されてるよな。さっき見たら分かれ道のところに立り入り禁止の看板がでてたぜ。何か知ってる?」
「いや、俺は聞いていないな。何かあったかな」
「さっき他の参拝客が話してたのをちょろっと聞いたんだ。最近、猫の神社の方でお供えの食べ物がなくなることが何度かあったらしいぜ」
「え? まさか、あの人じゃないだろうな……」
零児のつぶやきはノノには聞こえなかったようだ。
「野良犬や野良猫、タヌキの類がもっていったのかもしれないけど、人が盗ったならバチあたりな話だな。ノノちゃん。あの神社の謂れは知っている?」
「えーと……。たしか、町を荒らした化け猫を封印したんだっけ?」
「そう。それを何人もの行者が念力を合わせて封印したらしい」
昔、この町に美しい娘がいた。
その父親が悪い人間に騙されて、冤罪で捕まるという事件があった。
娘は父の無罪を晴らそうとしたが、役人も買収されており彼女も捕らえられた。
罪のない父子が処刑されたのち、彼女の飼い猫が復讐のために化け猫になった。
化け猫は飼い主を陥れた者や役人を殺し、さらに無関係な住民まで襲ったという。
「ひでえ話だな。それじゃあ、人間の方が悪いじゃねえかよ。猫の方はかたき討ちをしたんだよな。関係ない被害者がでたのはいただけねぇけどよ」
「そうだね。ノノちゃん。人の悪意、悪行が怪物を生み出すこともある。だけど逆に、人の善意が悲劇をふせぐこともあるんだけどね」
「うん。そうだよね。わたしもそう思うぜ」
話をしながら、ノノはビクッとなった。
嫌な気配を感じたのだ。
かつてこの町で怪物が出たときの感覚に似ている。
ノノは気配の方向を探る。たった今、話題をしていた猫の神社の方だ。
「零児さん、すまねえ。急用を思い出した。先に帰っているぜっ」
「ああ、ノノちゃん。気を付けて」
ノノは駆け出した。
立ち入り禁止の看板を無視して、森の小道を駆け抜ける。
その先に和洋折衷の珍しい形の社殿がある、西洋屋敷のような神社があった。
そこから黒い瘴気が湧き出て実体となり、猫に似た容貌の怪物になった。
「キシャーーーーーーー」
ノノは木陰に身を隠した。
自分の左手を見ると、トランプのダイヤ形の模様がでていた。
「ひさしぶりに、やってやるぜっ」
ノノは左手を開いてそこに右拳を打ち付ける。そして両手を前に出した。
両手の人差し指と親指の先を合わせて三角形を作る。
「マリンパワー・チャージアップ!」
両手の間に三角形の光が現れた。三角形がクルリと半回転し、六芒星となる。
そこからあふれ出る光の奔流が、ノノの身体を覆い隠した。
カンフー着に似たスーツにセーラー服に似た胸装甲がノノに装着される。
ノノの背後に荒波のイメージが浮かび、黒い巨大なカメが姿を現す。
カメの姿が小さくなり、銀色のカチューシャに変わった。
中央部にはイルカを模した飾りがつき、ノノの額に装着される
魔法少女の登場である。彼女は木陰から飛び出し、猫の怪物の前に立った。
「待てぇい! セーラー服魔法少女イーカポッポ、ここに参上! この世の悪事をやめさせる。私たち、セラレンジャー!」
イーカポッポは両手を胸前でクロスしてポーズをとった。
「フーーーーー」
怪物は二本足で立ち上がり、その両手から鋭いツメが伸びた。
「発散したいなら、わたしが相手をしてやるぜっ。ひと暴れしたら、社殿に戻りなっ。てめえの飼い主を虐げたやつらはもういないんだっ」
振るわれた怪物の剛腕がイーカポッポを襲う。
紙一重でそれをかわした。
「てめえはだれも傷つけちゃいけねぇ! 何も悪くない人をてめえが襲ったら、てめえのご主人さまが喜ぶのかよぅ」
続けて振るわれたツメの攻撃。
イーカポッポは裏拳で受け流した。
「そのへんでやめとけって。てめえが無実の誰かを殺したら、その人も、残された者も悲しむぜ。てめえの飼い主だって、悲しむだろうがっ」
次々に振るわれるツメの攻撃をイーカポッポかわしていく。
大ぶりの一撃をかわされた怪物は、バランスを崩して大きく身体をグラつかせた。
イーカポッポは無意識に右拳を怪物に顔に放とうとして、とっさに当たる寸前で止めた。
が、それが隙をつくってしまった。
怪物の体当たりを受けてイーカポッポは跳ね飛ばされた。
イーカポッポは近くの大木に叩きつけられ、その木はへし折れた。
「ぐっ……しまった……」
ツメを振り上げた怪物がイーカポッポに迫った。
その時、複数の黒い礫のようなものが上空から飛来した。
礫は怪物の足元でパパパパン!と炸裂した。
イーカポッポがそちらを見ると、近くの木の枝の上に人影があった。
黒の燕尾服に黒のシルクハットを被っている。
こちらに背を向けて、黒く長細い旅ギターを鳴らしていた。
黒いマントが風になびいている。
黒衣の者は演奏を止め、振り返った。
帽子をかぶった顔は目も鼻も口もなし、つるりとした焦げ茶色の玉子型の仮面をつけている。
「スカッと参上、スカッと回復。さすらいの回復師ハティ・ダンディ、ここに推参!」
黒衣の玉子仮面は木の枝から飛び降り、イーカポッポを助けおこした。
「玉子の兄ちゃん、ありがとよっ……。痛てて……」
「しっかりしろ、セラレンジャー。本日の回復アイテムはこれだっ」
黒衣の仮面は駄菓子の『おさかなとんかつ』をイーカポッポに渡した。
「おう、今日のお菓子もうまそうだぜ」
イーカポッポは袋をあけ、立ち上がった。
そのまま怪物に向かって、歩き出した。
「お前も食うか? 腹減ってんだろ。これ、うまいんだぜ」
彼女は駄菓子を少しだけちぎって自分の口に入れた。
魚肉であるが、ソースの味もあってとんかつに似た食感である。
駄菓子に不思議な力が付与されていたのか、身体の痛みが消えていく。
「力が湧いてくる! うまいっ! やっぱりこれだぜ!」
イーカポッポが駄菓子の残りを差し出すと、怪物は顔を近づけて臭いを嗅いだ。
そして、駄菓子をくわえた。
かつて、この町には美しい娘がいた。
その娘は一匹の猫を可愛がっていた。
『今日はよい魚が手に入りましたのよ。あなたもお食べなさい』
幸せな日々だった。それがいつまでも続くと思っていた。
悪い人間にそれを奪われなければ。
「なあ……。この時代のこの町にだって、悪いやからはいる。だけど……だけどよ。正しい心をもったやつだっているんだぜ。人知れず、悪いやつらをやっつけて、困った人を助けてくれる。そういう人だってこの町にはいるんだ。だからもう、あんたの飼い主のような悲しみは、繰り返されることはないんだよ」
怪物は動きをとめて、イーカポッポを見つめていた。
やがて、身をひるがえし、社殿に向かって歩き出した。
その姿はだんだんぼやけて消えていった。
イーカポッポの目には、社殿の前に立つ着物姿の女性が見えた。
女性はその腕に猫を抱きあげていた。
それは一瞬だけのことで、女性と猫の姿は消えていた。
「……この町で、悪い人間をこらしめてくれてんのは、玉子の兄ちゃんなんだろう? って、もういないか」
イーカポッポが振り返ると黒衣の仮面はいなくなっていた。
変身を解いて、海堂ノノの姿に戻った。
先ほど折れた木の幹は、いつのまにか復元されていた。
* * *
その社殿の裏側で、零児は一人の僧侶と向き合っていた。
「あの猫の怪異はあなたの仕業だったんですね。ザンネンさん」
「前にも言ったが、拙僧の名は懺念である。もともと封印が解けかけておったからな。拙僧が自分で払うつもりで封を解いたのだ。山宮のじいさんには話は通しておったが、聞いておらんのかね」
「いえ、俺は聞いていません。その宮司さん、ギックリ腰で寝込んでますよ。そう言えばあなたは動物霊を払うのは得意でしたよね。また何か退魔の法具を作られましたか?」
「古い三味線の灰である。必要なら売るぞ。零児くん」
僧侶は紙袋を取り出した。
『死不再生 窮鼠噛猫』と書かれている。
「いりません。別の霊にたたられそうですね」
零児はやれやれと肩をすくめた。
* * *
町の北側に広がるへの字山。
山のふもとにその駄菓子屋『射手舞堂』があった。
駄菓子屋のレジに立つ青年、児玉零司が店内を見ている。
店内にはいつもの中学生四人組の姿があった。
画・ひだまりのねこ様
「零児さん。おじいさまからお手紙を預かっていますの」
零児は山宮サキが差し出した手紙を受け取った。
への字山の神社の宮司からだ。要件は想像がついていた。
そこでモルモット形のヌイグルミを抱いたイオリが、零児に声をかけた。
「零司くーん。いつものギターやってー」
零児は駄菓子屋の中で歌を披露することがよくあった。
以前に半ば冗談でミニギターをつま弾きながら歌ったところ、お客さんには好評だったのだ。
それ以来、イオリ達からも店に来るたびに歌を頼まれ、手の空いた時に歌っていた。
歌はマザーグースが多かった。
「わたしも聞きたいぜ」
イオリにつづいて、店内で『おさかなとんかつ』を物色していたノノも言った。
いっしょにいたサキ、ヨツバもギターをききたいようだ。
「くすっ……。ああいいよ。では一曲」
零司はミニギターをとり、演奏を始めた。
ひとりの女性が 旅をする
セントアイブスへ あるいてく
たびする彼女は その道で
商人のだんなと すれちがう
だんなのかみさん 3にんだ
かみさんりょうてに カゴをもつ
カゴにはそれぞれ ネコ2ひき
ネコには子ネコが 2ひきずつ
いっしょにカゴに はいってる
ネコと子ネコを あわせたら
セントアイブスへ 向かうはなんびき?
歌い終えると、イオリ達は顔を見合わせた。
イオリは零司に声をかけた。
「零司くん。これって、マザーグースのなぞなぞ歌? 算数だよね」
続けてヨツバが困ったように言った。
「ウチ、電卓がないと無理。っていうか、おくさんが3人ってすごい」
サキはニコっと笑って答える。
「わかりましたの。3かける2かける2で親猫は12匹ですの。子猫はその倍で24匹。猫の数は合わせて36匹ですの」
「ちょっと待って、サキ。わたしは違う答えになったぜ?」
「そうですか? ノノさん。わたくし、どこかで計算を間違えたかもしれないですの。紙と鉛筆を貸してほしいですの」
「いや、たぶん紙も鉛筆もいらねえぜ。町に行くのは商人じゃなくて姉ちゃんだろ? だから猫の数はゼロだぜ」
「「「あっ」」」
「結論から言うと、ノノちゃんが正解。さすがだね」
零司がギターを置いて拍手をすると、他の三人も拍手をした。
玉子神社のモデルは徳島市にある『王子神社』です。
(小説の舞台は関東のどこかという設定で、徳島ではありません)
零児やノノが登場する小説『魔法少女がピンチ! 黒衣の玉子様が助けに来た』や、他の『歌手になろうフェス』参加作品は、この下の方でリンクを設定しています。
零司くんの歌うマザーグース"As I was going to St. Ives,"の原詩はこちらです。
(原詩の著作権は切れています)
As I was going to St. Ives,
I met a man with seven wives,
Each wife had seven sacks,
Each sack had seven cats,
Each cat had seven kits;
Kits, cats, sacks and wives,
How many were going to St. Ives?
原詩ではネコの数がとんでもない値になりますね。
さらに男と妻と入れ物の数も入ります。
(ゼロが正解なので、がんばって計算しても不正解)