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役目を終えた転生聖女様は、余生を推しカプに捧げたい  作者: わたぬきうづき
プロローグ お前が聖女になるんだよ
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-2-

そう、転生しちゃったのである。


前世より古今東西あらゆる従者を好んで摂取していた都合上、もちろん異世界転生についての知識も持ち合わせていたので己の置かれている状況をすとんと理解することが出来た。

ここにきてまだ見ぬ従者(性癖)目当てに異世界モノを延々読み耽っていた知識が生きるとは。このテンプレ展開(お約束)100万回は読んだよね、私は詳しいんだ。



今世の私が住んでいるレーヴェガルド王国は、レミリア大陸の中央に位置する大陸最大の王国だ。

そして世界観は完全にファンタジーである。魔法もあれば魔物もいるし、なんなら魔王様も一応いらっしゃる。今は封印中らしいけども。



今世での私はフィローネという名前を与えられていた。

夜を溶かしたような艶やかな黒髪に、イエローダイヤモンドを彷彿とさせる黄金の瞳を持つ美少女である。

来世では絶対に黒髪ストレートロングの美少女に生まれ変わるって決めてたけど、渾身の願いが実を結んだのか良い感じに反映されたらしい。前世でひたすら徳を積んでいて本当に良かった。



幼女の頃にハマったゲームでうっかり姫騎士の概念を知ってしまった前世の私は、坂を転げ落ちるように『従者萌え』の性癖を会得してしまった。


あちらに王道モノの従者キャラがいると聞けばまずSNSで情報収集をしてからしっかりと沼落ちし、こちらに少し陰のある従者キャラがいると聞けば躊躇なく沼へと飛び込む生活をしていた。

最早生き甲斐、いや人生と言っても過言じゃないくらい私は従者キャラを愛していた。




そう、今世の舞台はファンタジーな世界観。


前世では終ぞリアルで相見えなかった王様とか王子王女様とか貴族とか騎士様とか執事とか騎士様とかメイドとか騎士様とか騎士様とかがごくごく当たり前のように『存在』しているのである。しかもフィクションではない、完全なるノンフィクション。

生きてる従者をナマで見放題の世界なんですよここは。興奮のあまり絶叫しても仕方がないじゃないですか。だってこの世界は私にとって性癖の宝石箱であり、毎日が従者のバーゲンセールなのだから。



前世で!!徳を積んでいて!!!本当に!!!!良かった!!!!!サンキュー神様!!!!!!








「は?じゅうしゃが銀河で一番好き?じゅうしゃって誰?俺が一番好きじゃなかったの?」


神に対して感謝の祈りを捧げていたところ、先程の絶叫で目を覚ましたらしく、隣で寝ていたはずの少年に背後から抱きこまれながら若干不穏な言葉を吹き込まれる。


彼の名前はヴィルフレド。私の5歳上の10歳で、お月さまみたいな銀色の髪に、菫青石を溶かしたような紫紺の瞳をした美少年だ。


彼も私も孤児で、生まれてすぐ孤児院の前に捨てられていた私を、先に入所していた彼がたまたま見つけて保護してくれたらしい。

そんな経緯もあってか私は物心がついたころには既に彼にべったりで、そんな私を彼は文句ひとつ言わずに面倒を見てくれている。

基本的に人形みたいに無表情な少年ではあるが、私にだけはほんの少しだけ感情を見せてくれる時がある。例えば今も背後にいるため顔こそ見えないが、声がいつもより僅かに低いので間違いなく不機嫌である。


なお『俺が一番好き』発言については、私がもっと小さい頃に半ば無理矢理言わされたような気がしないでもないやつである。まあ確かに美少年だしかわいいし現状一番好きな(推してる)ので特に問題はない。いやでも従者と比べると……これ以上はやめておこう、彼の地雷の気配がする。



「まってまって、違うのヴィーくん。『じゅうしゃ』は人間じゃない……いや人間だけど。『従者』だよ、騎士さまとか執事とか。」


「それなら俺がフィーの騎士になるって前に約束したじゃないか。つまり俺が一番のままなんだよね?」


「そうだね……」



その一番に対する貪欲な姿勢はなんなのか。とりあえずご機嫌なときの声色に戻ったのでよしとする。これも私じゃないと気付けないぐらいささやかなものだけど。



「それにしてもフィーはどうしてそんなに騎士が好きなの?」



本当に何気なく聞いたのであろう、私の頭に顎を乗せ、髪の毛を弄りながら彼に問いかけられる。



「それを説明するとす~っごく長くなるし即ち私の推し語り(プレゼン)が聞きたいってことでいいのかな?!」



背後のヴィルフレドに向って勢いよく振り返り、逃げ出さないように両手をぎゅっと握りしめて拘束する。勢い余り過ぎて思わず彼の顎を頭で強かにぶつける形になってしまった。痛みに呻く美少年めっちゃそそるな?いやいやそんなことはとりあえず置いといて。


どうしよう推し語り(プレゼン)してもいいのかな?久しぶりに性癖を自覚したせいか今すっごい語りたい気分なんだよね。まあ前世では周囲に従者萌えの同志がいなかったから語れる機会が全くなかったんだけど。つまり今回が実質初めての布教な訳で。

基本私に対しては全肯定な彼でも流石に引きそうな気がする。ああでも私が絡むと結構ちょろいからちゃんと聞いてくれるかな、それにあわよくば従者萌えに目覚めて同担になってもらえる可能性があるかもしれない。

前世では布教することすら叶わなかった私だけど、今世では従者がより身近なものとして存在しているので、前世よりはずっと受け入れやすいのではないだろうか、そうに違いない。



「フィーのことなら何でも知りたいから教えて欲しいな。今後の参考になるかもしれないし」



今後の参考とは一体何なのか、大変気になるところではあるけれど今は時間が惜しい。

自我(記憶)を取り戻したことに興奮しすぎてついうっかり忘れてたけど、私聖女に選ばれてましたよね、結構雑なノリで。

もしかしたら孤児院を出ないといけないかもしれないし、そうなるといつ戻ってこれるのかもわからない。

ヴィルフレドも騎士を目指すのであればそれがどれだけ素晴らしく尊いポジションなのか、前もって知っておいた方が良いのかもしれない。それこそ今後の参考になるだろう。

従者の全てを語るには一月あっても足りないので、特に重要なところだけを抜粋する形で伝えることにしよう。



高ぶった心を落ち着かせるため、大きく深呼吸をする。


それでは聞いてください、今世初めての布教活動(推しプレゼン)を。



「何処から話そうかな?やはりここは王道の姫騎士モノにおける忠臣系生真面目騎士様からだよね!ヴィーくんも騎士様好きだし導入としてはちょうどいいかな。

姫騎士モノにおける忠臣系生真面目騎士様と言えば正しく王道中の王道、どの時代どの年代どの世界線における従者推しでも一度は通ると言っても過言じゃないグローバルスタンダード従者ですよね。

王道ってことは即ち誰にも受け入れやすいって意味でもあるから他の性癖の持ち主でも比較的スムーズに受け入れられると思うんですよ。

今世における私の神絵本(イチオシ)『姫様と救国の騎士』はまさにその王道を行く作品だけど、絵本という媒体もあって幼児相手でも読みやすいし何よりも挿絵も凝っていて随所随所に幼児でも飽きないよう工夫がされていますね本当に良い仕事してるわ。まさに主従カプ入門書の最高傑作といっても過言じゃないですね。

作者は私と同じ性癖の持ち主だと思ってる割とガチで。あれ絶対に主従を理解(わかって)ないと描けないやつだもん。特に作者の拘りをより強く感じる部分が25ページ目にある『私は、貴女がいなければ生きていくことができません…!』っていう騎士さま渾身のセリフで……!」



オタク特有の早口で熱く推しについて語る幼女、それを真面目に聞く美少年。晩秋に似合わぬ異様な熱気に包まれた孤児院の一角に凄まじい勢いで院長先生が飛び込んできた。



「フィローネ!?起きていますか!!たった今、貴女に聖女の信託が下ったと大神殿から連絡が入りましたよ!何と喜ばしいことでしょう……!」



涙を流し天に感謝の祈りをささげる院長先生、それをガン無視して熱弁をふるう幼女、やや情緒がおかしくなってきた美少年、騒ぎを聞きつけてやってきた孤児院の兄弟姉妹たち。

混沌は一角のみならず孤児院中へと広がっていった。


そんな混沌に一切気付かず、一通りお祈りを捧げて満足したらしい院長先生が私の手を取り推し語り(プレゼン)を遮る。先生邪魔しないで私まだ触りの部分すら話し終えてないんです!



「すぐに大神殿へ向かう準備をしなければなりませんわ。迎えに来られるのは早くても5日後かしら……。

ええとフィローネ?貴女が何を話しているのか私にはさっぱりわかりませんが、今は悠長におしゃべりをしている場合ではありませ」


「院長先生すみません今本当に従者萌えにおける極めて重要な部分を語っているところなのでとりあえず後にしていただけると助かるのですが!!!!いいですかヴィーくんここは従者ガチ勢的にはサビの部分だからたぶん後でまた同じ話をすると思うけど気にしないでね!さて次は従者における主人への言葉遣いについての話なんだけど」






…いくら重要な箇所だけを抜粋したとは言えど、やはり全てを語り切るにはあまりにも時間が足りなさ過ぎた。



やだやだもっと語りたい聖女やってる場合じゃないんだわと泣きながら駄々をこねる私を、遠路はるばるやってきた神官たちは半ば無理矢理馬車に乗せて、王都にある大神殿へと連れ去ってしまった。


ヴィルフレドもまだプレゼンを聞き足りなかったのか、私が連れていかれるのを必死に止めようとしていたものの、まだ10歳の子ども。院長先生や他のシスターたちに羽交い絞めにされてはどうにもできず、その美しい菫青色の瞳を涙で濡らしながら見送ってくれた。


傍からすれば仲睦まじいふたりが引き裂かれる悲劇的なシーンに見えたんだろうけど、正直に言うと私は『あらやだ普段は無表情な美少年が見せる泣き顔めっちゃかわいいじゃんマジエモい~!』って内心とても興奮していました。彼が泣いているところを初めて見たけど、破壊力が本当に凄かった……。危うく新たな(性癖)が開きそうになった。


ごめんねヴィーくん、伝えきれなかった部分は次会ったときに話すから、私の分まで孤児院で布教活動を頑張ってほしい。



しかし彼との再会が思ったよりもずっとずっと先の話 、まさか10年もかかるとはこの時点では思いもしていなかった。




☆レーヴェガルド名作劇場「姫様と救国の騎士」

原作は小説。

魔王に囚われてしまった愛する姫様を救うために騎士様が奮闘する。

レーヴェガルド王国内のみならず、レミリア大陸に住まう老若男女から愛されるロングセラー作品。

小説の他に絵本、歌劇などにもなっていて、布教する際は幼少期から絵本で攻めるのが定石とされている。

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