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第九十八話 二連撃




 「俺とマークス、どっちが強いか言ったはずなんだがな。こればかりは証明するしかないってか」


 「虚勢を張るとここまで嘘を貫き通さないといけないからな。可哀想なやつだ」


 いやいや、虚勢じゃないって分かれよな。どう考えても不意の蹴りの威力と速さは尋常じゃなかっただろ!こういう慢心男しかいないの笑えるんですけど。


 「喋るのも疲れるからさっさと終わらせよう」


 刀に手を添えて準備万端にする。奇襲も正面からもなんでもウェルカムだ。全てに寸分違わず完璧な対応をしてやる。そして心から折って、最終的には骨も折る。


 広場周りに人はいない。それはサウンドコレクトで確認済み。家の中にいるのなら様々な緩衝材により音は吸い取られ、刀同士が交じる音なんて意識してないと聞こえない。ならば蓋世心技を使わなければ良いだけ。


 レベリングオーバーという特異な力を持つからこそ、それは息をするように簡単に実行出来る。


 鞘へ手を伸ばし抜刀の構えをとる。居合でミストを沈めてやるのだ。足手まといは味方にも敵にもいらない。少しでもザーカスが万全の準備を可能にするため、四肢の1本、狙って斬り落とす。


 「心技――」


 「――ノロマだな」


 「わぁお」


 いつの間にか、おそらくまばたきをした瞬間だろう、ミストが俺の左脇腹へと己の刀で斬りかかっている。距離は10mほどだったが、0.2秒で詰めるなんて、中々俊敏なやつなのだろう。


 俺は体を後ろへ引かせ、その勢いをそのままに更に後ろへと下がる。


 「ほう、いい動体視力を持ってるようだな」


 「いや、感覚だ。そもそも目で動いてないんだよ」


 発が放出される限り、俺の皮膚に刀が接することはありえない。


 「それにしても、お前目が良いんだな。タイミングを見計らうのが上手い」


 「そうか?でも、俺よりもっと目が良いやつも居るけどな」


 目の前のミストに意識を割かれると、今度は存在すら薄っすら忘れかけていたザーカスが背中へ回り込んでいるのを察知する。ミストがわざわざ教えてくれたので、ほんの少し早く動く。体を捻ってまだ抜刀されていない刀の行き先を、指の角度や目線、重心の偏りを使って未来視で把握した俺は首元に受け止めるよう刀を持ってくる。


 すぐに交わり、流れるように往なすのは俺の刀。傷1つつかないほど繊細な操作に、我ながら惚れ惚れする。


 「コンビネーション鍛えてるのかよ。暇人も大変だな」


 距離を置きながら煽るように淡々とウザったいことを投げかける。


 「……お前、さっきの蹴りといい、この身のこなし方といい、何者だ?初対面の時も、居合とは思えない威力の居合をこの手に受けた。実力は確かだろうが、初めて見る顔だ」


 毎度毎度、敵対するやつらは全員揃って怪訝な表情になる。学園に在席していたあの時、初めて国務を任されてから何度目だろうか。全員が疑うが、勝てないほどの実力を持ってはいないと判断して結局返り討ちだ。


 今まで誰1人として、本当の俺を見抜いて力の限界を知るものは居なかった。だから御影の地に行きたいのかもしれないな。本能的に。


 まぁ、本当の俺を知るやつなんてヒュースウィットにも存在しないから、普通かもな。


 「お前よりも強い者だな。正体なんて明かしてもお前は死ぬから意味ないし、無駄に名前を広められたくないし、謎の剣士と謳われる方が好きなんで明かさない」


 「なるほど……嘘かも見抜けないほど俺の実力は落ちてない。つまり、お前の気派は俺に匹敵するのか」


 長けた気派を操るが、それでも俺の安定しすぎた気派からは、嘘か真か見抜くほどの技量と才能はない。これはルミウとエイル以外には共通だ。


 「超えてるんだよ。常にお前が1番上だって考えるのやめろ」


 「相変わらず上に居ると言い続けたい我儘な子供だな」


 「何言ってんだよ。実力は証明された上でお前らより上の存在の剣士って言ってるんだから我儘でもなんでもないだろ。まだ気づかないのか?お前ら2人とも、俺に斬りかかった時に、左裾をわざと斬られてることに」


 言われるがまま、2人は同じタイミングで左裾に目を向ける。両方の意識が刹那、削がれた瞬間に俺は抜刀する。戦いにおいて、刹那の意識阻害は命取りだ。


 「黄泉闇月下」


 極心技で、下から上へ斬りだすことで唯一2連撃を可能とする技。


 ミストの死角へ回り込むと、右腕の付け根へ刀を振り上げる。地面スレスレの態勢まで重心を下げた俺は、ミストの足元へ辿り着くと前に出した右足を、これでもかと地面に踏みつけ、慣性によって働くその反動を刀へ伝えながら振り上げ続ける。


 そしてミストが気づいた時、それは右腕に刀が半分ほど斬り込まれた状態で、脳が腕を退けろと指示した時には既に鮮血を散らして腕が胴体から斬り離されていた。


 「――あ"ぁ"ぁ"!!」


 叫ぶミストに目も向けず、黄泉闇月下を連続してザーカスの右足へ向けて放つ。黄泉闇月下は刀を肩に載せ、それを振り下ろすように放つのが普通。なぜミストに下から上へ放ったのかはこのためだった。


 より強い気派を使い対応も早い神傑剣士ならば、それ以上の研ぎ澄まされた剣技で無ければ腕は断ち切れない。相手が2人なら、より強い方にぶつける必要がある。2連撃であり、2連撃目がより強い気派を纏いながら斬りかかることの出来る黄泉闇月下だからこそ、それらを可能とする。

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