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第九十七話 蹴り飛ばし




 背中を屋根につけ、手を後頭部に添えながら無音で涼しい風の吹き付けるだけの時間を退屈に過ごす。最近はこの時間を有効活用して何か別のことを出来ないかと考えているが、夜中に付き合ってくれるほど暇をしている人は誰もいない。


 そもそも夜中にすることなんて何1つ思いつかないのだから、結局は何かが来るまで寂しく1人で口笛でも吹き鳴らしながら待つしかない。


 習慣化してしまったこの時間が変わればどれほど楽しいか。


 しかし、タイミングには恵まれる俺。だからか、その時間が一瞬にして俺の求めていた時間へと変化する。


 「……珍しくお客さんか」


 寝起きの欠伸をしていると、俺のテリトリーに堂々と侵入してくる命知らずがいた。敵であることは間違いないが、侵入したからといって即座に息の根を止めに行くわけでもない。


 俺はその場に立ち、侵入された方角を向く。


 そこには昼過ぎに出会って、しっかりと顔と気配と名前を覚えさせてもらったザーカスとミストがいる。2人は俺のテリトリーに侵入したことには気づいてない。


 すぐさまその場を離れ、2人のいるとこへ急ぎ向かった。


 「こんな夜遅くに何用だ。暇を潰してくれるならありがたいが、面倒を増やされるのはありがたくないぞ」


 到着する前に気づいたか、突然話しかける俺の方を見て目を合わせる。


 「やはりここか。お前は最近出来たフィティーの護衛ってとこか」


 「なんだ、俺を探して来たのか?」


 「間違いではない。が、いつであれ俺らの目的はフィティーだ。その前にお前らを始末しなければ進まないと思ってここに居る」


 「ってことは俺たちのことを殺しに来たってことでいいんだな?」


 「そうだな。運良くフィティーも始末出来るならそれが1番良いが」


 暗闇の中、王城内の明かりが届くわけもなく、暗順応した両目で2人を捉える。ここで戦うとなれば被害は甚大だろう。神傑剣士と神傑剣士が本気を出して戦うなら、王城なんて5分で全壊出来る。


 そうなるのはお互いに避けたいだろう。ではどうするか、それは場所を変えるが最善であり、求められるものだ。ルミウたちを起こすのも申し訳ない。何より、こいつら程度の相手に1人で戦えずして何が王国最強か。


 2対1、しかもルミウにはミストと再戦させるとまで言っていたのに、自ら破るスタイルは最高にダサいな。こればかりは許してくれないだろうか。いや、無いかもな。


 「どこで殺り合うんだ?」


 と言いながら俺はあたりで人気(ひとけ)のない広場を探す。


 「正直殺し合いに場所なんて関係ないとは思っていたが、こちらとしても隠密を心がけていてな。強そうなお前とは騒がしくても良さそうなとこを――」


 ザーカスは話を止める、いや、俺が遮らせた。止めたというのが正しいかもしれない。あたりを見渡し、人通りの少なく、音を荒立てても問題ないだろう良さげな広場を見つけた俺は常人を遥かに凌駕するスピードで間合いを詰めた。


 それに気づいた瞬間に言葉を止めたが、既にその後の対応は不可能。


 「――はっ?!」


 驚くザーカスの腹に肋骨を砕くほどの強烈な蹴りを入れ込む。あまりの速さに少しばかり足が腹にめり込むと、その広場へ向けて王城の屋根上から途轍もない速さで飛ばされる。


 「それじゃ、お前もだ」


 「――まっ!待ってく――」


 今度はすぐ横に棒立ちしていたミストの腹へ回し蹴りで同じように飛ばす。威力は激減したが、臓器や骨に苦痛なほどのダメージを与える。


 飛ぶ距離は直線でおよそ200mほど。剣技なんて使わずとも、こいつらとは渡り合えるようだ。そして知るはずだ。刀を抜かないとこいつには勝てないと。


 「おー、キレイに決まったな」


 邪魔も入らず、俺の素性を知らないため油断をしていたのだろう、あっさりと飛ばされた王国の神傑剣士と神託剣士。その2人となら暇つぶしにはなるだろう。そう思いながら俺は飛ばされたとこへ急がず向かう。


 軽度の負傷はしているだろうし、逃げるなんて考えに至るほど甘い覚悟で殺し合いを望んでるわけもない。ならばゆっくり行って、少しでも万全にして整えさせてやろう。


 軽快な足取りで広場へ向かう。どんな高さから落ちようと、気派の調整により体が悲鳴を上げることはないので一気に地面へと足をつける。


 それから3分ほど歩くことでその広場へ着く。


 そして目の中に飛び込んでくる光景。強烈なダメージを受けたにも関わらず、なんとか凌いだ様子の2人が息を切らしながらも立ち構えていた。


 「あれ?耐えたのか?」


 「当たり前だ。俺たちはこの王国の神傑剣士と神託剣士だぞ?そんな蹴りではやられん」


 そうか。腐っても実力はそれなりにあるんだな。レベル6なだけあるザーカスは咄嗟に気派の調整を、レベル5であるミストはザーカスに起きたことを瞬時に理解しての防御と受け身をとったってことか。


 「殺り甲斐ありそうだな」


 「一方的になるかもしれないぞ?人数差は実力差よりも大きいんだぜ」


 「それが正しくとも、その差を埋めれる実力があるやつなら話は変わるだろ。目の前の敵の実力を計らずに適当言ってると、やり返しがくるぞ」


 「笑わせるな。今までどれだけの猛者を沈めてきたと思ってんだ。マークスがいないお前と俺らとでは天と地ほどの差があるんだよ」


 自信満々で何よりだ。これは少しばかり遊び過ぎるかもしれないな。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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