第九十五話 ホルダー
「それもこれからの調査に加えておくか」
「大変じゃない?私の指導と並行で調査って」
「いいや、どうせ夜の活動が増えるだけだからな。全員が寝てる間にこっそり調査するから問題ないぞ。これまた特異体質に感謝だな」
「よく体壊れないね」
「そういう生命体ですから」
これまでだって何度も言われたし聞かれたことだ。なんで寝ない?ホントに体も丈夫だな。今の、普通なら攻撃通ってただろ。なんていうのは日常茶飯事だった神傑剣士成り立てを思い出す。
今ではルミウとシルヴィアの前では当たり前のように振る舞っても何も言われないが、ニアとフィティーには衝撃の毎日らしい。1日1個も特異なものは出してないし教えてないが、もし特大級の誰も知らないことを言ったらどれほど驚くのか知りたすぎるほど、その驚きには味があるので飽きない。
「でも、調査については現在進行系で調べてるんじゃないの?」
シルヴィアに貰った刀をホルダーに収めながら、それぞれの仕事を把握しているルミウらしい疑問を投げかける。
「これまでの調査はあの殺意云々に関係していたミストについてしか出来てないんだよ。それに、ウェルネスって組織も今さっき聞いた程度だしな。だから御影の地については俺も進めたいが、進めれてなかったってとこだ」
「なるほどね。珍しく手こずってるってわけか」
私なら絶対にイオナより早く解決出来る、と顔に書いてある。負けず嫌いをこんなとこで出されると、俺にも悔しさは出てくるものだ。鼻を鳴らして、隠密行動はまだまだと分からされてるようで久しぶりにルミウの性格を思い出した。
「ルミウこそ何やってるんだよ。俺がフィティーと剣技の鍛錬してる時」
「パトロールしながら、リベニアについて学んでる」
「……ですよね。それなりに頑張ってますもんね」
聞いただけでは俺よりも何もしてないと思う発言。しかし実はすごいことである。ルミウがリベニアに入国してからというもの、王都での殺人や違法取引、誘拐といった犯罪が激減してるのは証拠として残されているので、紛れもない犯罪抑制の神である。
プラスでリベニアについての勉強というのを加えているので、これはもう何を言われても反論不可能だ。
これを聞いた時は俺の存在意義を考えたが、フィティーへの指導は最重要任務というふうに、ポジティブに考えることでなんとか釣り合いを取れてると思い込み、存在意義として立てている。
やっぱり努力の第1座は伊達じゃない。
「とにかく、イオナは大変だろうけど夜の間は御影の地から来る魔人の調査も加えて頼むよ」
「了解。ルミウが言うんだから俺は夜忙しい。ってことは残念ながらシルヴィアとは寝れません」
と言った瞬間、背筋の凍るほど尋常じゃない寒気とともに1言。
「ダメだよ」
めちゃくちゃ怖ぇ。鳥肌ビンビンなんだけど!
振り向くと、そこには殺意は全く感じられないのに、殺意よりも恐ろしく強大な負のオーラを纏ったシルヴィアがいた。ヤンデレとかメンヘラとか言われる問題児ちゃんよりも、サイコパスは怖いのだと俺の第六感は教えてくれた。
そんな問題児ちゃんは続ける。
「今日の夜から調査始めるわけじゃないんだから、黙って私の言うことを聞いてな」
可愛げのある顔のくせに、サイコパスの片鱗が見え始めるとだんだんと目のハイライトが消えていく。
「……は、はい」
否定という言葉は存在しない。もう答えを間違えれば実験体にされるか、俺の10分という僅かな睡眠時間で、いつの間にか永眠することになるだろう。もうサイコパスは懲り懲りだ。
「はいはい、いつものはいいから。私たちも暇じゃないし戻って時間を有効活用するよ」
「あっ、待って待って」
戻ろうとするルミウをニアが工房を漁りながら止める。えーっとえーっと、と言いながら探す姿は癒やされる。まさに天使だ。なんて思ってると、それなりに気派を使えるシルヴィアは鋭利すぎる視線を飛ばしてくる。
意外と痛いんだからな?
「イオナ先輩とルミウにこれ、作ったから多分取り替えた方がいいと思うよ」
「ん?ホルダーか?」
「そうです。この前先輩たちのホルダーを見た時、ヒビが入っていたように見えたので、ルミウのも一緒に作っちゃえって思って製作しました」
渡されたのは、今左腰上に付けているホルダーとは形の少し違うホルダー。基本縦横どちらも20cmの正方形であるホルダーが、15cmほとになってコンパクトにされていた。
この世界と隔たりのある異空間へ繋ぐため、相当な技術が必要となるホルダーは、王国でも専用の人が多くても7人ほどしかいないと言われている。その1人となりうる存在が目の前にいることが驚きだった。
「こんなコンパクトにするって……ホルダー製作もヒュースウィット1なのかよ……」
「……やはりニアはイオナの専属なだけある」
「それほどでもないよ」
神傑剣士が揃って驚きを隠せない。それほどニアのしたことはレベルが違う。もし刀鍛冶にもレベル6が居るのなら、おそらく唯一無二の存在だろう。
ちなみに、ニアの隣で俺を睨むサイコパスもホルダーを製作可能な天才。元々このホルダーはサイコパスが作ったものである。
腰の上に新しいホルダーをセットする。するといい意味で違和感を覚える。たった5cmとはいえ、幅が狭くなったことでローブの捲り方や刀へ手を伸ばすときの邪魔になり具合が段違いだ。繊細な指動かしをする剣士にとってこれは大きなアドバンテージとなるだろう。
天才とは敵対したくないものだ。
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