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第九十三話 リベニア製




 ここに来て4ヵ月へ突入しているが、その間ほとんど調査と製作に打ち込んだ2人は相当疲労している。睡眠は取れているだろうが、それ以上にやる気に満ち溢れ、それに伴って行動する性格なので体は本人が思ってるより限界に近いはず。


 そんな中でも頑張って終わらせてくれたことには、それ相応の見返りをいつかプレゼントしないといけないな。貰ってばかりでは俺も落ち着かないし。


 「ニア、少し離れてくれ。軽く振ってみる」


 「分かりました」


 そう言うとニアは絶対に当たらず安全だろうという俺の背後へ回る。どこにいようとも当てることはないが、刀身の長さと俺の()()の力量を知っているからこその移動である。


 危険なのは刀が当たることだけ。なので正直一振りしかしない今からでは何も気にしなくていい。俺は軽い気持ちで1割にも満たない力で上から下へ振り下ろした。


 すると速く振り下ろしたわけでもないのに、シュッと音を立てて刀は俺の足元までやってきた。


 「シュッ?」


 音の違和感に気づき、振り下ろしただけではそんな音はなるはずはないと刀を持ち上げて細部まで見ようとする。が、そこには何もおかしな点はない。真っ白のオリジン刀そのものだ。


 「イオナ先輩……多分それ」


 と言いながら俺の足先を指差しているニア。一体何なのだろうと不思議感そのままにそこへ視線を向けると、なんとなんと太刀筋に沿って地面に亀裂が入っていた。それも無駄のない、ガタガタしていないキレイな一直線。


 「わぁお……え?……振り下ろしただけですけど……」


 呆気に取られながらも、振り下ろしただけでこんなになるっけ?とありえない光景に口を開けたままにされる。今までどんな刀を握って振ってもこうはならなかった。


 若干気派を込めたのは事実でも、それだけで亀裂を入れるなんて例外にもほどがあるってものだ。


 「おそらく流し込み過ぎたんだと思います。今までも見たこと無いですし」


 「……今まで通りなんだけどな。力も量も調整して送り込んだつもりだったが」


 想定外のことに驚いたのはもちろんだが、俺は工房を少しとはいえ壊してしまったことに罪悪感を募らせていた。他国のとなれば更にその念は強まる。誠に申し訳ございません。


 改めてニアはその刀を凝視して何が問題なのか探る。しかし、その答えを知っているという雰囲気を出しながら、手を止めて黒真刀を持ちながらシルヴィアは言う。


 「それは魔人特有の気持ち悪い気派と同調しやすい黒奇石で作ったからだと思うよ」


 「シルヴィア……」


 いつの間にか製作を終わらせていたシルヴィアは珍しく飛び込んでくることもなく、真剣にその原因を解明してみせる。その姿はサイコパスで可愛げのない姿ではなく、任された役目を果たす刀鍛冶として美しく、最優と言われるに不足なし。


 「ニーナ、どういうこと?」


 「ニアも気づいたと思うけど、リベニアの黒奇石は気派の質が低いの。でもその代わりのように、魔人特有の禍々しくて読みにくい、扱いにくい気派が組み込まれてるんだよ。多分魔人が多くやってくる理由にも繋がってるんだと思うけど。だからその黒奇石を使って製作した刀は勝手に、送り込む気派を倍にしたり、その人の気派の調整度によってあべこべの力を発揮するんだと思う。それがたまたま今出たってとこかな。推測でしかないけどね」


 「俺は刀鍛冶じゃないからそのへん疎いが、ニアはどう思う?」


 「言ってること全部分かりました。その上で納得してます」


 「ほうほう」


 俺の解釈では、この刀を使うのはあまり良くないと思っているが、逆にそれを制御可能になれば更に強い力を纏わせることが可能という捉え方をしている。


 同調するのなら俺の力量でその度合いを左右出来るということだろう。ならば莫大な気派で無理矢理調整するのもありで、最悪ルミウの力を借りてでも言うことを聞かせることが出来る。


 どちらに転んでも扱えるようになるのは時間の問題ってとこだろうか。


 「とりあえず黒真刀を握ってみると分かりやすいかも。オリジン刀より抜かれないけど、同調には違和感を覚えるから」


 「ああ。やってみる」


 オリジン刀ほどではないが気派を抜かれるため覚悟が必要。シルヴィアに渡されるとそのままギュッと軽く優しく握る。と、ガァッと一瞬にしてヒュースウィット製のオリジン刀並に持っていかれる。


 うぇぇ、気持ち悪い。


 「……確かに違和感は覚えるな」


 「それがリベニアとヒュースウィットの違いで、デメリットかな。ハイリスクハイリターンを求めるか、安定を求めるかでイオナに合った刀を私たちは製作するけど、リベニアの刀はオススメしないかな」


 「俺も、別にニアとシルヴィアの刀に不満はないし、この王国の黒奇石は俺を好んでも俺は好きになれないし、いつも通りの刀を求めるかな」


 「いい判断だと思うよ」


 「でもその場合、黒奇石は大丈夫か?ヒュースウィットから取り寄せたりするのか?」


 「いいや、しっかり運んでもらってるから」


 親指を立てて後ろを差す。そこには山積みにされ、布で覆われ若干下から顔を覗かせる黒奇石が大量に置かれていた。


 「流石、先読みはお手の物だな」


 「えへへー、もっと褒めてくれてもいいんだよ?」


 これ以上は危険区域だ。少しでもテンションを上げれば飛び込むこと間違いなし。まぁ、飛び込まれてもいい覚悟は常にしてるが。


 俺は馴染み始めた2本の刀を両方ホルダーに収める。取り出すことは緊急時以外になさそうだが、新しくヒュースウィットの黒奇石で製作された刀を握るまでは保管する。


 もしかしたら今持つ刀が折れるかもしれないしな。

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