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第九十二話 馴染まない刀




 マークスとの謎の共闘から戻ってきた俺は、ニアとシルヴィアがそれぞれ刀を作り終えたと聞いたので向かっている途中だ。


 先にルミウたちを見に行ったが、流石は第1座なだけあり、教える剣技は様になるように指導しているようだった。容量と飲み込みの良いフィティーだからルミウについていけているだけ説も濃厚だが、多分2人の技量が相まって成長の速度は半端ない。


 ルミウにニアたちのことは教えられたが、相当はしゃいでいたというので、それなりの刀が製作出来たのだと俺もウキウキワクワクで向かっている。


 そして現在扉の前。俺は後ろへ飛ばされないようにドシッと地面と足を愛し合わせる。もちろん土踏まずもつけるほどの重みを込めて。ふぅぅ、と一息ついて扉を静かに開ける。


 「入るぞ」


 一応何か一声かけなければ邪魔になるだろうと思い、いつもこうして工房に入る。が、ニアもシルヴィアも飛び込んで来ることは無かった。


 悲しいかと聞かれれば悲しくはない。寂しさはあるが、それも理由があってそうなってるだけだと瞬時に理解した俺は無言のまま、空いた場所に腰を降ろす。


 工房には無言で刀と見つめ合う2人の姿があった。それぞれオリジン刀と黒真刀を製作してもらっているが、見た感じ良さげなものが気派を通して伝わる。やはり天才であり最優は違うな。


 2人は共に、集中すればその他一切のことを受け付けない途轍もない集中力の持ち主だ。故に俺が入ってきたことにも気づかず、この刀で問題ないかの最終確認を綿密に行っている。


 これが今の2人の秀才ぶりに繋がっているのは言うまでもない。元が努力家なため、レベル関係なしに優秀になれるのは間違いないだろう。


 「……あっ、イオナ先輩、もう来てたんですね」


 先に気づいたのはニアだ。オリジン刀を見る横目は何とも可愛さからは想像出来ないほどキレイだ。


 俺も美少女を眺めるだけなら途轍もない集中力を発揮可能なんだがな。男なら普通か?


 「ああ。楽しみだったからつい早く来たけど、どうだ?最高作は作れたか?」


 「んー、最高作とは言えませんけど、リベニアでは最高作だと思いますよ。なんだかヒュースウィットでの苦労しないで取れる黒奇石が恋しいです」


 「ははっ、それもそうだな。刀鍛冶にとっては1番って言ってもいいほど重要だしな」


 「はい。あっ、でも扱いに気をつけてくださいね?今回の黒奇石はリベニアで最高、ヒュースウィットでも扱ったことのないほど質度の高い気派を纏ったのを使ったので、もしかしたら握った瞬間にごっそり抜かれるかもです」


 「へぇ、それはなおさら楽しみだ」


 新品の刀を製作した際には必ず気派を吸い取られる。それは同調するように、刀と気派を一体化させるためだ。そうすることでオリジン刀は実力を発揮する。


 もちろん黒真刀でも吸い取られるが、基本誰でも扱える四星刀はオリジン刀に比べて天と地ほど差が出る。故に誰でも刀鍛冶と相性がいいというわけではない。


 「それで、そちらのサイコパスは?」


 「ニーナはリベニアの黒奇石と相性が悪いらしくて、何度も作り直しては唸ってます。でも見るからに私では作れないほど質が高いとは思うんですけどね」


 謙遜なんかではなく、本当にシルヴィアの製作する黒真刀を勝てないものと思っているから言うのだろう。だから逆に、得意とするオリジン刀に対して絶対的な誇りと質の良さを自負している。シルヴィアの作るオリジン刀より、私の作るオリジン刀の方が俺に合っていると。


 「そうか。もう少し待つか」


 「その間に刀握ります?ここ広いですし、少し刀を振っても先輩の力加減なら壊れることも無いですよ」


 「じゃ、壊れたらニアのせいな?」


 「えっ、それはその……なんとかします!」


 困りながらも、アホらしさを出して握りこぶしを作っては元気に笑顔でフンスフンスと鼻を鳴らす。可愛すぎだろ。


 「嘘嘘、壊さないから大丈夫」


 入室早々久しぶりにニアから可愛い養分を摂取出来たので自然と笑顔が作られる。こんないじりがいのある後輩はこの世で1人だけだな。


 ニコッとまだ顔に残しながら刀を持ちに行く。歩く音にも気づかないシルヴィアはこうして見ると非の打ち所がない美少女なんだが。


 「ふぅぅ」


 一息ついてニアが言うほどなので覚悟を決めておく。血液が吸い取られる感じなので実に気持ちの悪い感覚に襲われる。これが癖になるとか言っていたヒュースウィットの第8座は頭がおかしいと思う。


 そしてガッ!と強めに握る。するとすぐに全身の気派が握った右手の先にグワッと勢いよく集められる。


 実に!不快である!!


 「……まじですごいな」


 これは一瞬のことなので既に解放されている。とはいえ、凄まじい吸い取り量だった。予想していた3倍は吸い取られたのは初めてだ。今度からは常に3倍は覚悟しておこう。


 「どうですか?握り心地とか重さ、気派の安定度など」


 「馴染むな。問題は全くない。さっきまで使ってたオリジン刀と比べると違和感を覚えるが、慣れれば相当使いやすいぞ」


 「良かった。固有能力があるとはいえ、リベニアの黒奇石を使うのは難しかったですからそう言ってもらえると嬉しいです」


 あー、朗らかな笑顔は身に沁みるものだ。


 しかし、やはり初めは馴染まないものだ。ヒュースウィットで製作した刀はどれもこれも初めから馴染んだが、リベニアは神傑剣士と同じで馴染まないらしい。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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