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第九十一話 消息不明




 だんだんと日が落ち、後1時間で夜と呼べるほど暗くなるあたりを颯爽と走り抜ける彼は、何用か、急ぎながら目的地へ向かっていた。王国民なんて目に入れず、用事のある男を探すために必死に。


 彼が駆けるのは紛れもなく世界で最も栄えて、最強剣士団の存在する王国――ヒュースウィットだった。何故ここでそんなに用事のために急ぐのか、それは誰もが共感出来ない理由だ。


 はじめましてばかりのこの王国で一体何をするのか、すぐに分かるだろう。


 彼は王城へ辿り着いた。一切の迷いなく、ここに来ることが予め決められていたと言わんばかりに、ここを知っていたと言わんばかりの速さだ。足も相当速いようだ。無駄なく回転されるそれは、ヒュースウィットの神託剣士をも凌駕するだろう。


 そして王城内を歩き回る。敵意など一切ないのは余計だと考え、目的達成のために邪魔だと判断したから。僅かな気配を頼りに正確に追いかける。距離は徐々に詰められる。


 背後まで来ると、流石に気づかれる。レベル5は伊達じゃない。


 「なんだ?!」


 「おー、流石はレベル5ですね。思ったより気づかれるのが早かった」


 なんて思ってもいないことを、相手を機嫌よくさせるために嘘を付いて言う。これも慣れたものなのか、はたまたこれがこの世界では普通なのかと模索した結果の発言かもしれない。


 「はじめまして、訳あって名乗ることは不可能ですが、顔だけでも覚えてください」


 怪しいオーラを撒き散らしながらも、決して敵対するつもりはないと穏やかで落ち着いた気派を放つ。それを意図的だと知るのは彼以外ここには存在しない。


 「誰だか知らねぇが、俺に何の用だ?」


 「はい。私は、ロドリゴ・リュートさん、貴方に面白い提案をしにここに来た」


 「なんで俺の名前を知ってる?それに提案だと?」


 一気に2つのことが意味不明として処理される。彼の話しかける相手はヒュースウィットの現守護剣士ロドリゴ・リュートだった。メンデのお遊び心により、リュートは半ば強制的に守護剣士へと引きずり込まれてしまっていた。


 「貴方の名前は貴方の最も憎む人から聞いたんだよ」


 「はぁ?何言ってやがる。俺の憎む人だと?それは誰だ?」


 「おや、もう忘れたのかい?シーボ・イオナの名前を」


 「……あのゴミクズから俺の名前を聞いただと?やつは今リベニアにいるはずだが?」


 「ああ知っている。リベニアで聞いてからここに来たんだよ」


 いつ聞いたかを知らないリュートは逆算して正解か不正解かを導き出すことは不可能だ。そもそもそんな賢くないので、どの道リュートに信じるしか選択肢は無かった。


 「分かった。そんじゃ提案ってのはなんだ?」


 イオナの名を聞いてから若干殺意や憤りの念を感じたが、それを堪えるようにして気になる話を進めるように催促する。リュートもそれなりに更生して成長しているのだろうか。あれだけ傲慢で慢心大好きな男が簡単に変わるとは思えないが。


 そして提案を聞いた瞬間にその場の雰囲気がガラッと変わる。もちろん気派の揺れに鈍感なリュートは気づかない。本当にレベル5の才能を持った天才剣士なのかと疑うが、紛れもないレベル5なのだから可哀想なやつだと思うしかない。


 「シーボ・イオナに復讐をしないかい?」


 「は、はぁ?!……復讐?」


 目を見開いて驚きも驚きで、まさかの提案に後ろに一歩引いて仰け反る。バカのリュートでも、ほんの少しだけその提案かもしれないと予測していたが、それでも、まさかそれが正解だなんて仰け反るには十分だった。


 「屈辱だろう?まさか神傑剣士ともあろう人間に正体を隠して見世物にされるなんて」


 「……まぁな」


 「だからその手伝いをするので、一緒に復讐をしないかい?」


 「……知らねぇのか?相手はこの王国、いや、この世界でも最も強いと謳われる剣士だぞ?そんなバケモノに俺が勝てるとでも?」


 少しは丸くなったか、リュートもイオナの力を認めている。もちろん悔しさや妬ましさ、憎しみなんてものはある。その証拠に今もなお言いながら下唇を噛み締めているのだから。


 「勝てるから提案をしているんじゃないか。私だって彼のことは知っているさ、その上で言っているんだから」


 「どうやって勝つっていうんだ?」


 「それは賛否を聞いてから教えるさ。無駄に教えて復讐しないのなら私が損をするだけだからね」


 妥当な判断だろう。世界最強に刀を振り下ろすのにはとてつもないリスクが伴う。それを簡単に撒き散らせばいつ命を狙われるか分かったもんじゃない。まぁ、こうして提案してる時点で命を棒に振るってるのも一緒だろうが。


 「……良いだろう。俺も復讐出来るなら何だってしてやる」


 長考の後、様々なことが過るがそれを全て無視して、己の復讐したい気持ちだけを胸に決断した。この言葉にどれほどの重みがあるのか、リュートはまだ知らない。


 「賢い受け入れだと思うよ。それではこれから君には付いてきてもらうところがある」


 行動は早いに越したことはない。今ちょうど守護剣士としての1日を終えたリュートにはきついが、それでもやる気に満ち溢れた今ではドーパミンドパドパであるために、さほど関係なかった。


 黙って刀を下げて付いていくリュート。日は落ち続け、ついにはあたりを暗くしてしまった。そんな時間でもまだ歩き続けた2人は、その日から消息不明となった。

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