第九十話 淀みと重み
それにしても、居合をレベル6まで引き上げたのに止められるのは予想外だった。峰打ちのための威力に軽減していたが、それでもここまでキレイに止められるとは。
流石は神傑剣士といったところか。同じレベル6とフィティーから聞いていたが、それなりに力はあるらしい。久しぶりに痺れさせたのなら上出来とでもポジティブに受け取るか。
ここでやっと俺の刀が強く押されて弾かれる。同時にザーカスはミストを抱えて距離を取る。これがミストの余裕の理由か。来ることを見越しての挑発と時間稼ぎ。引っかかったのが悔やまれる。
「まさかザーカス、君が首謀者かい?」
「さぁ、それはどうだろうな。少なくとも近い位置にはいるとでも言っておくか」
「どちらにせよ君たちが味方ではないというのは正しいらしい。国務で追ってるんだから、それなりの処罰は覚悟するんだよ?」
「おいおい、老いぼれに何が出来るんだ?」
「その老いぼれを超えられず第2座で満足してると嘘を付く君が止められるとでも?」
そうだ。この男はレベル5でありながら第1座に就くという、努力と才能を発揮している男であった。俺のように本気で刀を交えないことはなく、全身全霊で挑んだ結果の星座らしいので紛うことなき実力順だ。
「調子に乗りやがって。お前は俺が殺す」
嫉妬から憎しみが生まれているのだろう。レベル6でありながら最高の地位と名誉を持っていないことがどれだけ気に食わないかは、今発している殺意でだいたいは把握出来る。
が、それよりも禍々しく重くて気持ち悪さの増す空気感が次の瞬間に出来た。
「それは不可能。絶対にありえない。私に勝つことが可能な人はここに存在しないんだ。殺す?やれるなら今やりたまえ。刀を抜かずとも返り討ちにしてあげようじゃないか」
隣にいないのに直ぐ側で俺に向けて放たれる殺意のように淀んでいる。すぐに俺の気派で流を変えて、その気派を受けないようにするが、それが出来ないウェルネスの2人は気分悪そうに顔を顰めて立っていた。
「相変わらず気持ち悪いジジイだ。俺らは一戦交える気もない。今は優先順位があるからな」
「そうかい。なら私の気が変わらない内に逃げた方がいい。でないとここで死ぬことになる。それはここの被害を考えて私も避けたいから早く」
「分かってるさ」
そう言い残すと逃げ足だけは速いと言えるほどピュンと消えていった。俺もこれ以上危機が迫ることはないと判断し納刀する。
「良かったのかよ」
「ああ。彼らは早かれ遅かれ私が始末する。ここでない本拠点もある程度の調査は進んでいてね。問題は何もないんだよ」
「そうか」
10秒前の気派とは真逆の落ち着いた気派をしやがって。マジで読めないな。それにその時出した殺意はなみのものではなかった。絶対になにか特別な理由があってのものだろうが、それすらもこの荒れた気派からでは推測も不可能。
難攻不落のジジイめ……。
「それよりも君の剣技は素晴らしいものだった。本当に居合なのかい?」
「どう見ても居合だったろ。これ以上の詮索は止めてくれ、プライバシーは完全に隠す主義なんでな」
「連れないね。まぁ、そのおかげで今後活動しやすくなったよ。感謝する」
抑止力ってとこだろうな。刀を受ければ相手がどれほどの力を持つ剣士か、神傑剣士なら余裕で分かる。故に同等程度と最悪でもそう評価しただろうザーカスは、マークス以外にも驚異になる存在を見つけたと思うだろう。
マークスザーカスって似てるな。
「とりあえず私は報告を済ませるために王城へ戻る。その後は2日ほど君とは行動を共に出来ないから覚えていてくれ」
「別に構わないが、どこか行くのか?」
「ああ。頼まれ事があるからそれを済ませるんだ」
この男実は真面目でいいやつなのかもしれない。いや、気まぐれって思われてる時点でいいやつではないか。それでも何だかんだ遂行はするとか、頼まれたことはやり遂げるなんて似合わないことを、当たり前だろって顔で言うから多少は良いやつなんだろう。
「なるほどな。なら何かあればすぐに王城内にいる俺に知らせてくれ。俺も何かあれば探しに行く」
「分かった。そうしよう」
これで情報共有は大丈夫だろう。わざわざ探すなんてしたくないので、何も情報が出回らないことを願っている。
「俺は先に戻る」
「私もこれからは何もすることがないから戻る。何か話しながら帰るかい?」
「お誘いはありがたいが、あんたと話しても何もいいこと無いだろ」
「それはどうだろうかね。話してみると君の知りたいことが分かるかもしれないじゃないか」
「いいや、あったとしてもあんたと過ごす時間は少し厳しい。どうせ話すってそれも、後で分かることだろうしな」
「寂しいね。そんなに私が好きではないのかい?」
「好き嫌いの話じゃないんだよ」
受け付けないんだよな。初対面がもっとましなものだったなら気持ち悪いと思うだけで、一緒に帰っていただろう。しかし、予想外の展開からあの気持ち悪さはトラウマものだ。背後を取られるのも久しぶりのことだったしな。
こうして、ルミウたちはどうしているか気になる俺は、これから何を言っても時間の無駄だと思い、俺は無理矢理にでもその場を抜け出すように「じゃあな」と残してその場を後にした。
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