第八十七話 成長
イオナ視点に戻ります
急いで戻ってきて良かった。でもルミウなら心配ないと思っていたが、まさか傷をつけられるとは。それほどまでに追い込んだというのなら、実力はそこそこらしい。
「ところで、さっきの男は?」
「この王国の神傑剣士第1座らしい。国務でミストたちを追ってるらしくてな、たまたま居合わせたんだ」
「なるほど」
居合わせたというか、意図的に俺に接近してきた気もするが、答えは分からない。目的すらもミストたちを捕まえることなのか不明瞭だ。
「ミストから情報は聞けたのか?」
「もちろん」
そしてルミウからミストがウェルネスとかいう呪い人を殲滅する組織に加入していることや、リーダではないということが聞かされる。ついでにどんな戦い方だったのか、傷はどうやってつけられたのかも事細かに聞いた。
必要事項だと分かっていてもルミウは自分の失態を晒しているようで嫌そうな表情をしていた。俺にはそれが幸せなことなので全く不快感は無かった。最高。
「そいつらとは今後戦いそうだな。俺の予想ではあの第1座は役に立たないだろうし、俺たちで解決するしか無さそうだ」
「第1座……マークス様?」
「そう言ってたな」
「……確かに、マークス様は不思議な人で気まぐれで動くと言われている剣士。実力はその座に相応しいとは聞くけど見たことないから分からない。でも……うん、当てには出来ないかな」
フィティーでも酷評するほどの剣士。やはり俺の感じているあいつのおかしな気派はマジらしい。人間というかは、デズモンドが魔人化した時の気派と言うのが正しく、言ってしまえばもう純正の魔人だ。
我が王国では国王に圧倒的な忠誠心があり神傑剣士に就いていたが、この王国は国王からイカれているのでその下のことなど見ずとも、感じずとも終わりだと分かる。だから余計に分からない。誰を信じればいいのかすらも定まらないのに、その段階でこんな問題が起こればパニックになってもおかしくはないだろう。
まったく、この王国は問題だらけじゃないか。頭おかしくなるぞ。
「私が言えたことじゃないけど、神傑剣士は信じれる人が少ないんだよね。みんな裏ありそうだから」
「最悪の王国じゃないか。フィティーもよく耐えたな」
「私も裏持ってるし、そんなに関わる機会もなかったしね」
フィティーも王女として振る舞うのなら俺に文句を言うのだろうが、1人の王国民としての立場なら共感し、王国の有り様を否定する。それが普通だが、何も変わらない動こうとしない国民も異常を来しているようだ。
魔人が1日2体来るのに慣れるなよな。ってかよく耐えれてるわ。神傑剣士と神託剣士の差がそんなに無いし、質が良いから対処は間に合ってるのか?
んー、と考えているとそう話すフィティーの体全体に目が止められる。
「フィティーは……いつの間にか気派が整ってるな。今さっき戦闘中に気派を使っただろ?その時の使い方が完璧にフィットしたんだろうな、目で見て完璧の文字が浮かび上がるわ」
練り上げられ極致に達したとも見て取れる陽炎オーラ。フィティーの立つ場所だけ異次元のようだ。隣のルミウは隠すのが得意なのでそうは見えないが、隠さなければ体から1mは常に歪んだ気派を放っている。しかし、そう考えると50cmは見える歪みはそれだけフィティーの成長と才能を表していた。
「そう?でもまだまだな気がするんだよね。もしかしてこれってもっと成長可能ってことかな?」
「もしかしなくても成長は止まらないだろ。剣技を極めればそれだけ質の高い気派を練ることが出来るし、結局は自分がどれだけの剣技を使えて努力が出来て才能があるかによって左右されるから、自分次第ってことだ」
「深いね」
「狭く深く極めるのが気派、広く浅く極めるのが剣技だからな」
発と還の2種類の気派に対して、各レベルで最低20はある剣技は極め方がほぼ真逆。だから相性が良いってのもあるが、使いこなせたらの話なので猛者だけの基準だ。
「まぁ、剣技の鍛錬中に邪魔が入ったのは残念だが、今後は何も起きないだろうし、2人が万全なら続けてくれ」
「私は問題ない」
「うん、私も大丈夫だけど、1つ気になることがあるんだよね」
「何?」
「今のミストって敵、私が2ヶ月前にイオナに相談した視線の気配と似てるんだよ」
「ああ、それか。それは間違いなくミストだな。以前からフィティーを狙うウェルネスたちは何人かルミウが処理してるんだ。その時はまだ正確なことを掴めてなかったから言わなかったが、もうあからさまに敵意を向けてきたなら確定だろうな」
「そういうことね……なら、私も強くならないと。守られてばかりじゃ申し訳ないし」
その言葉と共に、グッとやる気が目に見えて上がる。この空間が少し暑いのはフィティーが巡る気派を隠さずブワッと放出し続けているからだ。制御は難しいようだが、それでもこの短期間で練り上げれるとは思えない気派を使えるのだから文句はない。
「よし、ホントは俺がしたかったが、ルミウとイチャイチャしててくれ。俺はマークスを追うから」
「うん、分かった!」
「……気をつけて行きなよ」
何かを言い返そうとしたが面倒くさくなることを先読みしたルミウはなんとか堪えていた。フィティーはノリノリだったようで、ルミウにニコッと微笑みかけている。映える2人には元気を貰えるものだ。
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