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第八十五話 先読み




 フィティーを後ろに下げ、私は大丈夫だと思いその場に留まった。それが問題だった。私は気派を使った反動で後ろに若干だが仰け反る。ここから剣技を出すのは可能であれど、フィティーのとこへ向かうのは絶対に遅れる。


 ミストはそんな私に目もくれず、奥へと進む。そう、狙いは元々気派を扱えるだけのフィティーだった。それを瞬時に理解した私は仰け反りを一瞬にして戻し、すぐさまミストの背後へ回る。


 が、ミストもそれなりの剣士。それを知っていたと言わんばかりに私へ向けて気派の壁を作る。ただ刀をふりかざすだけでは到底破壊不可。神託剣士とはいえ、神傑剣士である私の上から下へ振り下ろされるだけの刀を防げないほど弱くはない。


 やばいかな……。


 流石に私でも危機は感じる。今まさに刀がフィティーの首を横切ろうとしているのだ。目の前で人が死ぬなんてそんなことがあっていいはずがない。神傑剣士なのだから。


 最速で決めよう。


 刀へ手を添えると力を込める。


 「鳳蝶」


 ミストの気派もろとも、首を絶ち斬るために放つ剣技。すでに気派は砕き割り、あとはミストの首だけだった。しかし、勝った、そう思うのはまだ早かった。


 後ろを振り向かず、短刀を持ち出し首元に刃を向けて構える。それでも前に進み続ける様子は、まるで未来を見ているように安心しきっていた。私の何もかもを予測して、その通りに動いている。いや、私を動かしているようだ。


 このままでは防がれる。一瞬の攻防ですら頭を使うほどの接近戦。イオナならきっと……こんなことにはならなかった。なんてことが過る。まだまだ世界最強には遠いらしい。


 フィティーは左足を引いて逃げようとしているが、これでは絶対に逃げられない。剣技が使えるならまだ抵抗しようとしていたが、負けていたと考えれば妥当な判断だろう。


 どうするか、そう考える間にも少しずつミストは近づいている。視点を様々なとこに移動させどこかに打開策は見つけられないか探す。そして見つけたミストの右足。アキレス腱にはまだ鳳蝶の勢いをそのままに斬りかかることが出来るのだ。


 すぐに横に倒した刀を縦に変え、上から下に斬りかかる。


 だが、これもまたそう簡単に進む話ではなかった。


 「ぜーんぶ読めてるんだよなぁ!」


 剣技も気派も込めていないただの振りかざした刀は、誰もが振れる刀と同じ。レベル1の剣技を使えない剣士ですら可能なほど、ただ力だけが込められたもの。それを待っていたミストはグルっと振り返る。


 「っ!?」


 それでも最速剣技の勢いを素の力で止められるわけもなく、下へ下へ刀は進む。同時にミストは下から上へ、私の右腕を斬るように刀を振り上げる。


 過去1身の危険を感じている気がする。焦りを見せたために、それを見たミストはゲスの笑みを浮かべている。勝機を見出したのだろう。分かる。私でもこの状況は負けを確信し始めているのだから。


 このままだと腕が斬られるのは間違いない。ならばその先を見よう。この太刀筋では腕を斬るため以外に何か理由がある。腕だけならまだ私を引き寄せて確実を狙っていいものを、何故早めてギリギリ斬れるかのとこで狙ったか……。


 なるほど、そういうことか。


 真意を理解すると、私は刀から意識を無くし気派で右腕を守ることに徹する。ブワッと一瞬にして防御するように纏う気派。これならミストの刀を防ぐことが可能だ。


 そして、キンッ!と音を立て、私の右腕を掠める。


 「うおっ!まじでか!」


 予想外の対応の速さに驚きを見せる。私でなければ絶対に斬られていただろうから、反応は当たり前だ。エアーバーストという固有能力を持っていて良かった。


 「でも、本命はこっちだって言ったよな!」


 次は標的をフィティーに戻し、掠めたことを良いことに勢いを消さずして回転とともに再び斬りかかる。これがミストの狙いだったのだろう。たとえ防がれても、下から上に円を描くように刀を扱えば最終的にフィティーに斬りかかることが出来るのだ。


 「うん、知ってる」


 「はぁっ?!」


 刹那、地についた足が両足であることに感謝して膝を曲げるとすぐに前に飛び出す。掠った瞬間に刀の軌道をずらしたことで、ミストの刀は若干フィティーの肩付近を下へと通り過ぎる。私はその間にフィティーの体を掴む。そして奥へと一緒に離脱する。


 この間、フィティーは何もしてないわけもなく、しっかりと鍛えられた左目でミストの刀がどこにどう振られるかをしっかりと把握したため、若干のズレを大きくし、刀に肩を斬られることを避けていた。


 やはり才能も王族らしい。


 「危なかった。お前がまだ完全に戦闘慣れしてない弱者で良かったよ」


 まだ刀を地へつけているミストは何も斬れなかった自分の刀に、ひどく失望している様子だった。今までこの手段で数多くの敵を相手にしてきたのだろう。それが通用する相手は私以外全員だったが故に、現状を信じられない。


 「……一体何者だ?良くあれだけのことを処理出来たな」


 「単調だったから読みやすかっただけだよ。お前の気派は気性より荒くないらしいしね」


 喜怒哀楽を読むのも、次の行動のために何を企んでいるのかも私の気派にはお見通し。だからその日の調子や、今から何を使うかなんてざっくりだが把握出来る。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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