第八十四話 ウェルネス
ルミウ回です
やはり気配を感じる。イオナの気配が消えてからすぐに感じ始めた。確かにこれは2ヶ月前のあの日と同じもの。意図して感じさせているのだろうか、私は気づいてないふりをしているが、それも時間の問題だろう。私に近づけは近づくほど演技をしているのがバレる。
今は慎重にフィティーの剣技を教えるのが無難だ。
それにしてもイオナは何をしているのか。気配を追うために私に交代を頼んだだろうに、これでは面倒が増やされただけなんだが。
もしかすると見られていることに気づいていたから気配を消して、居なくなったと確認してから現れたのか?それならば色々と腕は立つようだ。しかし、イオナは王城を離れる前、この王国で感じたことのない猛者の気派を持つ男と一緒だった。おそらく神傑剣士だろうがなんの目的で近づいたかは知らない。
はぁぁ、大変だ。
「ルミウ様、どうかした?」
「いや、何もない。続けよう」
フィティーにも気取られるほどの疲れを見せ始めている。これは後々イオナに制裁を下す必要がありそうだ。普段から人前では気を張って威厳を見せているが、それも中々しんどくなってきた。
慣れない環境で、たまに魔人と戦うとそれだけでドシッと疲れを感じる。これは自主的な鍛錬を増やさないとな。そんな決意とともにフィティーに剣技の基礎を教える。もちろん気配も変わらずに。
「……今どこまで教えた?」
「私はレベル6だから蓋世心技を使える、ってとこかな」
意識を気配に割きすぎた。目の前のこともおぼつかなくなっては元も子もない。イオナに頼まれたんだ。しっかり役目を果たさないと。
「ああ、そうだったな。蓋世心技だが、実は気派で――」
「ル、ルミウ様」
「ん?なんだ」
私に続きはどこか教えるフィティーと180度変わった様子で、私の名前を弱々しく呼ぶ。同時にその内容が何なのかを私は理解した。
「誰かから見られている気がする」
「らしいね」
イオナに相談していた、以前から感じる視線。それが今この場に放たれているという。確かに私の把握する気配も一気に強まった。100%繋がっているな。
私は発で周囲の警戒を最大にする。場所を特定出来ないが故に奇襲には一歩遅れをとる。ならばそれを補うためにするべきはこれだ。
刀をいつでも握れるように右手は添えている。
「誰だ!」
半径100m圏内ならギリギリ聞こえるほどの大きな声を出す。こんな大きなのは久しぶりだったりするが、喉は傷まない。
「あれ、意外と勘づくの早かったなー」
絶対に聞こえているであろうその気配の主は、堂々と姿を現した。小柄の体躯にブレのない整った気派。重たく鈍いような気持ちの悪い気配は、敵として不足なしだ。
「俺もまだまだだな」
「……お前は?」
「おいおい、出会っていきなりお前呼びの名乗り無しで先に名前聞くって、礼儀知らずだな」
「見るからに気持ちの悪いお前に礼儀を語られるのは、初対面ながら癪に障るよ」
「はははっ!あんたモテないだろ?顔だけ良くてもこんなんじゃなぁ」
私の実力はイオナですら正確に測ることは出来ない。だからこの男も読み取れてないだろうが、それでも負ける気はないのか、高らかに煽るように、バカにするように笑う。
絶対にこいつよりはモテるな。
「まぁいい。俺はミスト、王国の貴族であり――呪い人を殲滅するウェルネスって組織の一員だ」
「なるほど。やはりお前がそうか」
「あ?知ってんの?」
「君の手下に吐かせたからね」
「へぇー、君が……ならやり返しをしないとだな」
目な色が変化する。この場でやり合うのは分が悪いのは十分承知だろう。それでも高まる殺意はそういうことなのだろう。
「事を構える前に1つ聞きたい。お前はフィティーを殺すためにここにいるのか?」
「それ以上に理由はないだろ?呪い人は誰であっても殺すんだよ。それが国民のためなんだから」
「ふふっ、国民のためを考えれる人間が1人の人間のことを考えられないなんて、都合のいい考え方をするんだね。君って」
「あ"ぁ"?」
嘲笑うように否定する私に、完全にイライラを我慢することは不可能になったミスト。この調子なら難なく終わらせれそうだ。
「まとめて殺してやるか。そこのフィティーとかいう落ちこぼれ王族と一緒にな」
グッと練り上げられる気派に久しぶりに鳥肌が立つ。中々の猛者らしい。レベル5にしては上位の存在なのだろう。
でも、私には気派は掌の上で操れる。だから先読みが出来る。どこにいつ刀が振られるかも簡単に。残念なことに、それはフィティーも同じであり、左目は正確に位置を掴む。
「それじゃ、終わらせるか――虚空」
予備動作なしに突っ込んでくると同時に虚空。咄嗟にフィティーの左肩を掴んで後ろへ引かせる。そしてその虚空の押し寄せる波を気派を纏わせた斬撃で薙ぎ払う。
虚空で発動と共に勝ちが決まるのはイオナだけ。それ以外は誰もが確定はない。もちろんその中に入れば否応なしに何も出来なくなる。しかし押し寄せる波を、斬り裂くことで回避可能なのだ。
「やるなぁ、でも本命は君じゃない」
「っ!?」
詰め寄るミストは既に私の目の前まで来ていた。刀を握りしめ、防がれることを知っていたように軽快だ。しかしそれは何も問題ではない。目の前であれば対処の仕様はいくらでもある。問題なのはこの後だった。
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