第八十一話 二度目の気配
それから2ヶ月後、その間誰1人として絶対的テリトリーに入る敵はいなかった。最近夜は感じないというように、当たり前の結果だ。しかし、昼にも展開したのだが捕まらなかった。用心深いか、勘違いに偶然が重なっただけか、それははっきりと分からなくなった。
そんな中でもフィティーは成長を続けていた。少しの空いた時間を使ってでも気派を練り、鍛錬をした成果がとても表れていた。1ヶ月経過した頃から夜に視線や嫌な気配を感じることは忘れていたようで、今では気にすることもなくなっていた。
もしかしたら俺がその視線や気配を出す張本人だったりして、なんて考えたこともあったな。
フィティーの成長はまず、発による敵の感知。左目にはそもそも発の上位互換の機能が備わっているため、発による敵の気配を察知するということはほとんど必要なかった。しかしどう頑張ろうと発を使える人間に、使えない人間が勝てるわけがない。なので相手を圧で怯ませるための業を覚えさせた。
次に還による自己防衛。自分の身に気派を纏い、刀や相手の気派を相殺するための見えない障壁を作る業だ。緻密な操作は必要ないものの、感覚が鈍ればそれだけ雑な障壁が完成するため、集中力が鍵となる。が、フィティーに集中に関することは容易く操れた。体を巡る気派を正確に捉え、誤差なく障壁として具現化させた気派は俺の半分程度の剣技をギリギリで受け止めれるほどには完成した。
俺の5割は神託剣士上位10名の9割ぐらいだから、めちゃくちゃすげぇ成長速度と才能だ。
だから俺たちは既に剣技の指導に移っていた。ルミウにはそのまま長期の調査を任せ、ニアとシルヴィアには刀の製作に力を入れてもらって。
――「そういえば、フィティーの復讐ってか見返してやるための方法って考えてあるのか?」
2ヶ月ともなれば流石に慣れたフィティーの部屋。これから王城内の闘技場に行く前に、準備をするフィティーの暇つぶしとして話しかける。
「うん。御影の地に行って帰ってくることかな。それだけで十分な見返しにはなると思ってる。だから直接刀を交えたりとかはしないよ。勝負して勝って「ざまぁみろ」なんて言うより無言で実力を証明して分からせるほうが断然カッコいいしね」
「なるほどな。それはいい考えだ」
俺めちゃくちゃリュートにざまぁみろとか思ってたわ。恥ずかしく思えるな。歳同じでも精神面は圧倒的に俺がバブちゃんらしい。
「イオナは御影の地に何を求めてるの?」
「んー、好奇心だけで決めたことだから聞かれると具体的なことは思い浮かばないな。強いて言うなら魔人の絶滅か、猛者と刀を交えることかな。全力ってのを出したことないからさ、いつか死ぬ寸前まで力を振り絞って戦いたい相手を見つけたいんだよ」
息絶え絶えになることも、死を感じたことも、苦戦を強いられたこともない俺は勝利しか知らなかった。敗北はしても全力ではなく遊びであり、結局は真の敗北は未知。故に知らないことを知りたいと思う好奇心と、未知という言葉に浪漫を感じ、それらが相まって今の俺が作られている。
その最終地点が現在御影の地というわけだ。
「中々贅沢な目標だね」
「仕方ないだろ、こうなることを設定して生まれてきたんじゃないんだから」
「私もそっち側になりたいよ」
「半年も必要無いだろ。剣技を習得すればあとはその反復練習だけだ。嫌でもこっち側に来るぞ、敗北を知らないレベル6の世界に」
フィティーはこの王国で最強になれる。現神傑剣技のレベル6よりも上を行けるだろう。あらゆる質を見透かせば分かることだ。まぁ、他の神傑剣士に会ってないから確かではないが。
「杞憂はしないタイプなんだ」
「ふふっ、いつの間にそんなに私を褒めるようになったのかな」
「前からそうだろ」
欠伸をしながらも身支度を待つ。するとタイミングよくルミウの気配を感じた。久しぶりの念話のお誘いに初々しい付き合いたてのカップルのようなドキドキを覚えた。
『少しいい?』
『ああ。告白ならいつでもOKだぞ』
『……こっちは真面目に調査してあげてるのに呑気なことだね。1回殴られろ』
最近の小さな悩みだが、ルミウが辛辣化してしまったように感じるのだ。チクチクと陰湿なイジメのように刺すのでなんだがこそばゆい。
『ごめんごめん、話を聞くよ』
『うん。まだ王城近くの屋根に載ってるんだけど、感じるんだ。1度感じたあの気配と同じものを。今度は一瞬じゃなくて常に』
『見られてるってことか?』
『いいや、見られてはない。だけどどこにいるかまでは詳しく特定出来ない』
久しぶりに何事かと思えば、再びなにかの歯車が回り始めるようだ。不穏な空気に惑わされそうな、これから先がプロム以上に面倒なことになりそうな、そんな予感。
『一旦その気配を追うのは止めよう。バレてないとは言えないし、もしかしたら誘っているかもしれない。だいたいの場所が分かるならそこに俺が向かう。教えてくれ』
『いいけど、これから君はフィティーの剣技の指導があるんじゃないの?』
『頼めないか?』
『そういうことね。いいよ、私も調査には飽きてきたから』
『助かる』
こうしてルミウがこの部屋にやってくると同時にフィティーに説明し、俺とルミウの役割を交代した。ルミウの気配を感じる場所は王城内の会議室。何故そんなとこに居るかは不思議でならないが、気にはなる。
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